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自殺大陸  作者: ししゃもふれでりっく
第一章~パンがなければドラゴンを食べればいいじゃない~
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第30話(終) 明日は暗い洞窟の中で

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 釈然としない。

 それは誰の言葉だろうか。参加し、生き残った皆の言葉だと思う。少ないとはいえ亡くなった人もいる以上、ドラゴンが死んだのは喜ばしい事ではあるのだが……結局、ドラゴンは神様の悲しみに、天災にやられてしまったのだ。時間を掛ければ、もしかしたら打倒できたかもしれないというのがそれに拍車を掛けた。あと一歩まで来ていたのではないのか?と。

 合理的に解釈すれば国を騒がせるドラゴンが一匹いなくなったのだから嬉しいことであり、これを退治したと言って公表すればそれで国益には繋がるのだ。良しとできるだろうという意見も確かにあった。実際、ドラゴンは退治したという風に報告される。元々御国のためという風潮で集まっていた人々である。釈然とはしないが、致し方なしと判断した様子だった。もちろん、そんな感じでもない人達もいたが、ドラゴンを退治したという名誉を与えられる以上、是とするだろう。いつかほころびが出るかもしれないが、実際に死体は回収され首都の広間に晒されているのだから臣民としてはどちらでも良くなるのではないか?というのが私の予想である。そういえば、神の手を借りたとも多少風潮するらしいとも聞いた。そうすれば嘘にはならないから、とか……まぁ、政治の世界に首を突っ込む気はなく、突っ込んだ所で刎ねられるだけだ。首だけに。だからこの件はこれで御仕舞。

 先輩と私と……それを手伝ったアーデルハイトさんには名誉以外にも特に功績があったとして、何やら貰えるらしい。あの男の人……名前はなんだっけ?あの人も生きていたらしく表彰されていた。一番槍はやはり評価が高いのが常だ。

 私はとりあえずエリザの剣を貰った。が、それは元々お前の物だから別だとアルピナ様に言われ、私があまりにもぼろい服を着ていたので服とお金、そして……これはとても嬉しかったのだが、学園の卒業証書と図書館利用権を頂いた。ドラゴン相手にあそこまで戦える人物を自殺洞穴に潜らせないのは人的損害だとか機会の損失だとか理由をつけて頂いた。おかげでようやく、本当の自殺洞穴に入る事ができる。気を抜く気はないが、楽しみである。とりあえずもう当分は、ドラゴンには遭遇する事はないだろうとは……思う。思いたい。思っていいですよね?

 先輩は、これみよがしに頭の中に刺さったままだった刀を広間にででんと陳列させる事を条件に刀を新調して貰っていた。らしくもなくというと失礼だが、普通に喜んでいた。あとはお金。先輩の稼ぐ金額からすると端金らしいが……まぁ、そのお金で見た目最悪で味が最高な御店で食事をおごってもらったので黙っておくとする。

 アーデルハイトさんは、どっかん一号の大量生産依頼を受けたらしい。御蔭で結構な儲けになるとかならないとか。

 ちなみに名誉というのは良く頑張ったでしょう、みたいなものである。これで何が得られるわけでもない。臣民の場合には税金が安くなるとかなんとか聞いたが、奴隷には二束三文にもならないという話である。しいて無理やり関係がある事を持ち上げるならば、アルピナ様からの直々の命令である、『二つ名を付ける権利をやろう!だから何か格好良いのをつけるのじゃ!』というものである……いらない。全くいらない。

 ともあれ、エリザの剣が回収できてさらに洞穴に入る事ができるようになって私としては万々歳である。さっそくアーデルハイトさんには義手と義足のお願いをした。御蔭でお金はすっからかんである。日々の生活には流石に困らないが……早く貯めないと、ここまで巧くいったのが全部御破算になるというものだ。

 明日から洞穴に潜っていこうと思う。

 だから、今日は……少し、ゆっくりしようと思う。

 からから、と音の鳴る車椅子を押しながらエリザと色々な所を廻る。短い時間だったけど、色んな事を知れた。色んな所を見た。それを一つ一つ廻っていく。一緒に見た所もそうでない所も……。

 そうして今日最後に向かうのは……アルピナ様から様子をみたいと言われていたため、リオンさんの店へと。

 湖を背景に月明かりと幾つかの篝火に照らされた街路樹。整然と静謐と並び育つ木々の中心、淡い色をした花弁を携えた巨木を前に、ゆらり、ゆらりと踊る妖精さんがいた。その向かいには幾人かの人影。小さい順にアルピナ様、先輩、アーデルハイトさん、学園長、そしてリオンさんとジェラルドさん。私が、私達がここで出会った人達。

 皆の前で妖精さんが、小さな鈴がいくつも付いた棒を持ち、しゃらん、しゃらんと時折鳴らしながら、空を舞っていた。花の装飾を施した単衣をひらひらと揺らしながら、背の翅を忙しく動かしている。ゆっくりと動き、しかし鈴は素早く鳴らす。その緩急がどこか懐かしく感じるほどに心を突き刺してくる。

 からから、と車椅子を鳴らしながらその場へと近づいて行く。ゆっくりと、ゆっくりと音を立てぬように、妖精さんの踊りを邪魔せぬように。


「エリザ……妖精さん綺麗だねぇ」


 小さな声で、呟く。

 本当に綺麗だった。この綺麗さからあの凄惨な情景は絶対に思い浮かばない。いや、このあまりにも綺麗過ぎる舞は、鋭利な刃物のようにさえ。先輩の持つ刀のような、狂気と美が一体化したような、そんな危うさと怪しさがこの舞には……あるように思う。なんて……そんな風にとって付けて無理やり納得する必要もない。妖精さんの舞は素敵だという事だけでこの場では十二分だ。

 それを肴に飲んでいる輩もいる事だ。今宵は月の綺麗な、とても綺麗な夜だ。妖精さんも踊りたくなるというもの。そんな日に待ち合わせて月を見ないわけがない。だから、みんなこうして外に出て待っていてくれるのだ。私達を。

 ただの奴隷の私達を皆が待ってくれているのだ……。こんなに嬉しい事は、ないんじゃないかなぁ、エリザ。

 エリザに顔を寄せ、皆のいる方を指させば、皆がさっさと来いよと手を招く。

 綺麗な、とても素敵な風景だった。夢に見た風景とは少し違ったけれど、でも夢よりももっと多くの人が楽しそうに笑っているのだ。

 自然と、頬を涙が伝う。

 ほら、エリザ。皆が待っているからさぁ行こう。

 流れる涙を腕で拭い、車いすの取っ手を手に取ろうとして……捕まった。

 手が、手に捕まった。

 私の手が、エリザの手に……彼女の華奢になってしまった歪みの残った手に捕まった。それは弱い、とても弱い力だったけれども……でも、確かなもので。

 はっとして、エリザを向けば……彼女が、私を見上げていた。


「カル……ミナ?……何を泣いているんですか?」


「エリザっ!」


 みんなが笑っていたから。

 だから、神様も笑ってくれたのだ。悲しみに泣く神様は、皆が笑っていれば笑顔を見せてくれるのだと父は言った。だから、きっと……エリザの笑顔も見せてくれたんだと、そう……思った。

 その時、私は、初めて本当に人の神様はいるんだなって、そう思ったんだ。



第一章 了




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