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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした  作者: ごろごろみかん。
1.伯爵令嬢リンシアが幸せになるには

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7話:聖女の嘘

「あなたは彼女のことが好きなんでしょう?彼女の心労を考えたら、私との婚約は破棄するのが最善なのではないかしら」


「お前……自分が何を言っているのか分かっているのか!?自分のした事を棚に上げて、何を言ってる!?」


それはこちらのセリフだ。

そう思ったけど、言い返してしまったらそれはただの口論になってしまう。

私の目的は、あくまで婚約破棄。ディベートで彼を打ち負かすことではない。


私は努めて冷静になろうと意識しながら、カミロに言った。


「あなた、聖女様と関係を持っているでしょ」


これはカマかけだった。

二人の関係がどうかなんて分からない。だけどあの親密な様子から、相当仲は深いと見たのだ。

私の観察眼は的中したようだった。

カミロはグッと息を呑んだ様子を見せた。それに呆れと同時に、私の勝利を悟る。


「な、ぜそれを……」


「さぁ。なぜかしらね。ご自分の胸に手を当てて考えてみたらいかが?」


私は素知らぬ顔で嘯いた。

彼は今、疑心暗鬼になっているはず。

畳み掛けるなら、今。


そう思った私は、さらに言葉を重ねる。


「聖女様と深い仲になったのなら、あなたは責任を取らなければならないはずよ、カミロ。聖女様と縁続きになるのは、カウニッツ伯爵家にとってもとても名誉なことなはずじゃない。喜んだらどうかしら?」


「嫌味な女だな……!!セリーナは……僕だけじゃないんだよ!」


「はぁ?」


「彼女の愛は、他所にある。僕だけじゃないんだ。お互いにとって、いい遊び相手なんだよ。根暗で重たい女のお前には分からないだろうがな!!」


ねっ……根暗で悪かったわね……!!

思わず反論しそうになったけれど、今重要なのはそこではない。

今彼は、なんて言った……?


(僕だけじゃない?それってつまり……)


セリーナのお相手は他にもいる、ということだろうか。


(えっ、ええ~~~~!?!?)


う、嘘でしょ!?

ドン引きなんだけど!?


今、カミロは自分が何を激白しているかわかっているのかしら……!?

分かってないわよね!?


(それに……つまり、カミロとセリーナはただのセフレってわけ!?恋人ですらないの!?)


白目を剥きそうになる。


だけど、それなら今朝聞いた二人の会話の意味がわからない。


少なくとも、セリーナは婚約破棄を迫っていた。彼女は、カミロと結婚したいのではないだろうか。


考え込んでいると、カミロが咳払いをした。流石に、婚約者に言うセリフではないと今更ながら思い当たったのだろう。


「つまり、確かに僕はセリーナを愛している。だけど彼女の愛は他にもある。僕も、それで納得している。……いいだろう!僕たちのことは!」


ついでに逆ギレした。

呆れてモノが言えない、というのはこういうことを言うのかしら……。

開いた口が塞がらない、とも言う。


それでも平常心を取り繕うとするカミロを見て、私はぽつりと言ってしまった。


「あなた、遊ばれてるの?」


いや、本人は遊んでいるつもりなのだろうけど。

どっちもどっちだわ、と思っていると、私の言葉から憐憫を感じ取ったのか、カミロが強く私を睨みつけてきた。


「お前には関係ないだろう!?」


「婚約者だもの。流石に関係あると思うわ……」


信じられない、という感情が声に出てしまう。

カミロはまだなにか言いたそうにしていたが、私はそれより彼に言うことがあった。


「それよりあなた、今まで私の事散々こき下ろしてきたじゃない。それなのに、私との結婚を選ぶと言うの?そっちの方が信じられないわ」


「お前じゃない。自惚れるな。僕は、リンメル伯爵家と結婚するんだ」


絶句した。信じられない思いだった。

ここまで来ると、もはや清々しい。


「……よく分かったわ。話はそれだけかしら?それならもう、帰っていただきたいのだけど」


もう、うんざりだわ。

話すことはもう何も無い。少なくとも、私はもう、彼とこれ以上話しても得るものは無いと判断した。


こういう言い方をすれば、プライドの高い彼のことだ。

腹を立てて帰るだろうと思った私の予想は、見事に的中した。


黙って乱暴に椅子を引き、立ち上がる彼に、私はふと思い出したことを口にする。


「……そうだわ。カミロ。さっきの話なのだけど」


「……何だ」


怒りが尾を引いているのか、カミロはぶっきらぼうに言った。

それに、私は笑みを浮かべ、答えた。


「2つ目。まだ伝えてなかったでしょう?……あのね」


私は、人差し指と中指をピンと立て、彼に言った。


「私、聖女様とまともにお話したことがないのよ。だからそれは、彼女の嘘。……私と聖女様。あなたがどちらを信じるかは、お任せするけれど」


私の言葉に、カミロはポカンとした。


そしてその後、侮辱されたと感じたのか、彼は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。


「いいか!婚約破棄なんて馬鹿なことを考えるなよ!!信じられない女だな……!!」


という言葉を吐き捨て、カミロはサロンを出ていった。




(本当に、何しに来たのかしら……)


私は、ため息を吐いてソファに腰をかけた。


すぐにフローラがやってきて、気分転換にとハーブティーをいれてくるれる。

その味は柔らかい甘さがあって、とても私好みだった。


「ありがとう、フローラ」


「いいえ、お嬢様。それにしても、カウニッツ伯爵家のご子息は相変わらずですわね。旦那様も何を考えていらっしゃるのか……」


お父様は、カウニッツ伯爵家への恩があるから何も言えないみたい、とは言えなかった。

流石にフローラも、当主を悪く言えないだろうから。


その代わり私は、ティーカップの水面に映る自分の顔を見つめ、つぶやくように言った。


「そうね……。でも、私は決めたわ」


「?お嬢様?」


「ううん、何でもない。フローラ、このハーブティーとても美味しいわ。後で部屋にも運んでくれる?」


何せ、これから忙しくなる。


カミロは婚約破棄するつもりはないみたいだけど、私はそのつもりだ。


息を殺したように生きる生活はもう嫌だもの。

私は私のために、この婚約を破棄すると決めた。


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― 新着の感想 ―
なるほど! 父親は自分の家の爵位を売り渡したんだな で、カミロともしっかり話がついてる、と だから繋がりの部品として使うリンシアの意見とか聖女とのしょうもない戯言は火遊びとして処理して、とにかく婚約破…
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