6話:私の幸せは私が決めますわ
「ひとまず、この件は王家預かりとしよう。違法魔道具が絡んでいるとなれば、放置はできない。……よろしいでしょうか、陛下」
伺いを立てる王太子殿下に、陛下が頷いた。
「王太子の言う通りだな。聖女の違法魔道具の件もある。レディ・リンシアの告発が事実なら、決して見逃せるものでは無い」
「なっ……陛下!これはれっきとした名誉毀損です!!私は潔白です!!」
叫ぶカウニッツ伯爵に、陛下は首を横に振った。
「もし、伯爵の言う通りこれが事実無根であるのなら、私自らカウニッツ伯爵家の名誉を回復すると約束しよう。しかし伯爵、これは急務なのだ。なにせ、聖女の力が違法魔道具のものだったと知れたからな。これ以上の被害拡大は、ひいてはエルヴァニア全体を蝕む。どうか分かってほしい」
陛下の言葉はもっともで、そして正論だった。セリーナの件があったからこそ、その言葉には説得力があり、反論する隙間がない。カウニッツ伯爵も同様にそう考えたのだろう。
「ッ──!!!!」
ギリギリと彼が歯噛みする。そして、父の悪事を知っていたのだろう。カミロは茫然自失としており、その顔は青を通り越して紙のように白い。
陛下は続けて、沙汰を出す。
「みなに通達する。カウニッツ伯爵ならびにカミロ・カウニッツは、真偽が明らかになるまで王城に拘留することとする!早急にカウニッツ伯爵邸に人をやれ!」
そのまま、二人は衛兵に取り囲まれた。しかしまだ罪人と決まったわけではないので、あくまで任意、という形だ。ここで駄々をこねるのは陛下や周囲の招待客の心象を悪くすると判断したのだろう。二人は苦い顔で受け入れている。
私はカミロを呼んだ。振り返る彼に、私は微笑みかけた。
「私には宝物がふたつ、あるのです」
突然の宣言に、カミロは戸惑ったようだった。他の人も同様だ。いきなり何の話を、という顔をしている。それに構わず、私は言葉を続けた。
「ひとつは魔道具、そしてもうひとつは妹と弟です。ですがもし、どちらかしか選べないという状況になったのなら、私は迷わず妹と弟を選びますわ」
「何の話を……」
しているんだ、と続けようとしたのだろう彼の声を遮って、私は言った。
「残念ですわ、カミロ。あなたには……いいえ、あなたたちにはご理解いただけていなかったのですわね。私の大切なものが、何か、ということを」
そこでようやくピンと来たのだろう。
私が何を言っているのか。私が、何の話をしているのか、ということを。
「まさか……!!」
カミロが目を見開いた。それに、私はにっこりと笑みを返した。
私が言っているのは、彼らが送ってきた手紙のこと。
カウニッツ伯爵家から送られた手紙には
『リンシアと婚約解消しても構わないがエリオノーラとの婚約が条件だ』と完全にこちらを馬鹿にした内容が記されていた。
(なかったことにはさせないわよ)
妹を、エリオノーラを、リンメルの名を得るためだけの道具として扱った。その報いは、受けてもらおうじゃない?
私は敵意を込めてカミロを睨んだ。それに、カミロは狼狽えたようだったが、すぐに我に返ったようだ。彼は唾を撒き散らす勢いでまくし立てた。
「ハッ……冷血女め!お前みたいな高慢ちきは、間違いなく不幸になる!!地獄に落ちてしまえ!!」
随分な言われようだ。だけどそんなものは痛くも痒くもなかった。私は満面の笑みを浮かべると、元婚約者 (になるだろう)カミロを見て答えた。
「ふふ。ご心配なく、私は勝手に幸せになりますわ。あなたにご配慮いただかずとも結構です。私の幸せは、私が決めますもの」
不幸になれ、と言われても、そもそも私の幸せがなにかなんて、他人が決めることではない。私が決めることだ。
自分の幸せは自分で掴んでみせる。
誰かに用意されずとも、誰かに与えてもらわずとも。
「──ッッ!!」
私の言葉に、ますますカミロは頭に血が上ったようだった。彼は何か言おうと口を開いたが、カウニッツ伯爵に止められ、渋々従った。
そうして、二人は衛兵に連れられて会場から姿を消したのだった。




