表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした  作者: ごろごろみかん。
2.伯爵令嬢リンシアは魔道具作りが楽しい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/62

3話:精霊に嫌われた聖女

フェルスター卿がティーカップをそれぞれの前に配膳してくれる。彼は、テンションの高い王太子殿下を見て、おや?と首を傾げた。

さらりと、彼の長い紫色の髪が肩から落ちる。


「なんか楽しそうにしてるね?ヴィンセント、もしかして限界?」


「いや……うん、確かにそうかも」


一度否定しようとしたものの、彼自身そう感じたのだろう。

王太子殿下が神妙に頷いた。ルーズヴェルト卿が私を見て補足するように言った。


「ヴィンセント……王太子殿下は限界が近いと異常に笑いのツボが浅くなるんですよ」


「そ、そうなんですの……」


限界が近い?とは?

つまり?

困惑していると、フェルスター卿が驚愕の事実を口にした。


「もうヴィンセント、三日は寝てないもんね~。そろそろ寝たら?」


は……?


「三日!?」


思わず聞き返すと、ニコッと笑った王太子殿下と目が合った。


(な、なるほど……過労死寸前っていうのは嘘じゃなさそう)


思わず、卒倒しそうになる。

この職場、問題しかないのでは?

労基という概念がないからか、限界まで働かされそうだ。


月の時間外労働時間なんて恐ろしくて聞けやしないわ……!!


(だって、定時(そんなもの)ないなんて言われたら、白目むいてしまうもの……!!)


この時、私は魔道具管理部に入ったこと──もとい、この件に関わってしまったことを、ほんの少し後悔していた。


でも、これは私がやりたかったことである……。多分。いや、きっとそう。


こんなブラックすぎる職場だとは思わなかったけれど……。初仕事が違法魔道具の摘発とは、新人に色々任せすぎじゃないかしら。無茶ぶり過ぎない?


無表情のまま唖然としていると、王太子殿下がため息を吐いて背もたれにもたれた。


「仕方ないだろう?ザウアー公爵がうるさかったんだよ。あの手この手で魔道具管理部からレディ・リンシアが提出した魔道具【魔法のカメラ】を持っていこうとしてさ」


(ザウアー公爵……?)


その名前に、私は目を見開いた。


ザウアー公爵は、セリーナの父親だ。彼女の後見人でもある。

聖女を娘にしたザウアー公爵は、聖女の権力を利用して、社交界で一気に発言権を得た。


「揉み消しに走ったのは、公爵閣下でしたのね……」


私の言葉に、王太子殿下が頷いて答えた。


「あの人は、私の叔父でもあるからね。やり込めるのはまあまあ骨が折れた。だけど結果として、私はあなたという強力な仲間を得たんだから、文句なしの成果だ」


「……なるほど。では、私は王太子殿下に恩を返さなければなりませんね」


私の言葉に、王太子殿下がにっこりと笑う。


これこそが、つまり私を協力させることが彼の目的だったのだろう。

私の能力を高く買ってくれて、ありがたい限りだと思う。

思うけれど……私は内心、ため息を吐いた。


食えない人だと思う。

だけど、だからこそ、彼には王の資質があるのだろう。


(しかし……私を魔道具管理部に合格させるために三日間、寝ないで奔走してくださっていたなんて……)


申し訳なさすぎるわ。

だって、三日よ!?三日!!

早く寝て欲しい。切実にそう思う。

しかし、フェルスター卿が指摘するまでまったく気づかなかった。私がそう思っていると、王太子殿下が「ああ、そうそう」と軽い口調で続けた。


「寝てないのは私だけじゃない。ルシアンは二日、フェリックスは一日だっけ?私たちは仲良く徹夜組だよ」


悲鳴をあげたい気持ちだった。

なんなの、このブラックすぎる職場。


「早急に職場の環境改善に努めた方がよろしいのでは?睡眠不足は、寿命を縮めますわよ」


本気で私は心配になった。

そして、今後ここで働くことになる自分の身を案じた。

私の言葉に、王太子殿下は肩を竦めた。


「まあ、冗談は置いといて」


「冗談だったんですの!?」


「徹夜は本当。そうじゃなくて、こっちも急いで動かなければならない理由があるんだ。まず1つ目に、これが私の戴冠の条件なんだ」


「…………はっ!?」


今、彼はとんでもないことを口にしなかったかしら。唖然としていると、王太子殿下が眉を寄せて言った。


「父上は、私を試しているのだろうね。つまり私が、国を率いるに足るかどうか、だ」


あっさりそういうと、王太子殿下は言葉を続けた。


「そして、2つ目に、今回の件は叔父が関わっている。叔父は今、王位継承権第3位にある。私が1位で、弟が2位だ。私も弟も未婚だから、当然子はいない。そうなると、まだ自分にもチャンスはある……と彼はそう思ったのだろうね」


「──」


絶句した。


(もしかして今、私は……超重大機密に触れているのでは?)


完全に権力争いである。王位継承権を巡る、政争だ。

逃げたい。思わず腰を上げそうになったが、ここまで聞いてしまったのだ。逃げられない。


顔色の悪い私を見て、王太子殿下が麗しい笑みを向けた。


「そういうわけで、私にはとにかく時間が無い。戴冠の条件というのはまあ、今すぐでなくても構わないんだけど……叔父の方がね。だいぶ厄介なんだ。これ以上勢力を伸ばされたらまずい」


「……それで、聖女の件でまとめて失脚してもらおう、と?」


「そういうこと。聖女だろうがなんだろうが関係ない。違法魔道具の使用はもちろん、所有だけでも重罪だ。投獄は免れない」


王太子殿下は瞳を細めて挑戦的に言うと「話が逸れてしまったね」と話を戻した。


「先程の話だけど、つまり、ルシアンは精霊と縁があるんだ。もっと言うと、彼には精霊が見えている」


突然、話が変わったので面食らったが、それ以上に──


「……精霊が!?」


信じられない気持ちで、聞き返す。

精霊とは、当然のようにそこにいる存在だ。だけど、見ることは出来ない。魔法を使う時は、魔力の流れ以上に、精霊との繋がりを意識することが重要だと言われている。


思わずルーズヴェルト卿を見ると、彼は私の視線に気がついたのだろう。頷いて答える。


そしてルーズヴェルト卿は、はっきりと答えた。


「彼女が何らかの違法魔道具を使用しているのは、間違いないかと」


「……理由をお聞きしても?」


私の質問に、ルーズヴェルト卿はまつ毛を伏せて答えた。


「精霊が、とても嫌がっているので。嫌々従っているような……そのように、私には見えます」


(……なるほど)


それは単純明快な理由だった。

聖女──つまり、女神の愛し子、精霊の忘れ形見なら、本来、精霊に嫌われるということはありえない……はずだ。


それなら、そうせざるを得ない理由があると、見て然るべき。


(違法魔道具は、無理に魔法を行使するもの)


つまり、精霊は無理に従わされていることになる。


ルーズヴェルト卿の答えは、どんな理由よりも説得力のあるものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 テンポがよく、読みやすくて短い間に第一話からここまで読んでしまいました。不実で傲慢な婚約者に悩まされ、父親は婚約者の父親に騙され、その上、王太子から重大な機密まで明かされるとは。  既に完結済とのこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ