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それは私のよ!  作者: 月魅
聖炎の魔女編
20/24

7:ジュスティーヌの実力

いつも読んで下さってありがとうございます。

 選考会当日は気持ちよく晴れたわね。


 それにしても昨日の借金取りの悔しそうな顔は最高だったわ。利子と借金の三分の一どころか全額返しても余裕だったわ。

 往生際悪く実は契約書が変わりましてなんて言ってきたときはつい笑ってしまったわよ。ユリウス様の派遣してくれた使いの人が文官だったおかげで、法律違反を指摘してくれたから綺麗に片付いたわ。


 多くの人が選考会会場へと入って行くわ。多くの人がこの選考会を娯楽として楽しんでいることは複雑な気持ちだけれど、これ自体は決して悪いものではないのかもしれないわね。

 政治関係なく娯楽として成立させることが出来ればいい催し物になるでしょうね。


 受付の所には聖炎の儀と書かれているけれど、反バルバンティア公爵派はこの名前を使うことはないけれど。


 私が中に入ると時間まで待っておくように言われたわ。控室のようなものかしら。他に多くの参加者がいるけれど、私を見て驚いた後皆目を逸らすのよね。

 まぁ、仮面をつけている人間に関わりたくないでしょうね。


 それからしばらくして始まったのだけれど、開会式はバルバンティア公爵が開会の挨拶をしていたわ。

 大柄で筋肉質なタイプで、凄く威厳のあるように見えるからこそこういう場では様になるわね……憎たらしいけれど。


 それから始まった試合は大して問題なく進んで行ったわ。特に本気を出す必要も無く、順調に進んで行ったわ。


 そんな中、次の試合の組み合わせが私にとっては見逃せない試合だったわ。


 一人は現最強になっているジュスティーヌ。


 そんなジュスティーヌに挑むのはセレナティア……私の妹だったわ。






 舞台に現れた二人は対照的だったわ。


 余裕たっぷりの表情でセレナティアを見ているジュスティーヌはまるでドレスのようなローブを纏い、かなり飾りつけの多い杖を持っていたわ。

 前身から発せられる魔力はかなりの大きさで今まで出場していたどの参加者よりも大きかったわ。これだけの魔力を持っていれば確かにあれだけの自信があってもおかしくは無いわね。四年前に比べれば物凄い成長だけれど、一体どうやってあれだけの力を手に入れたのかしら?

 私もかなり成長したけれど、それはあの黒い森で命がけの日々を送っていたからであって……それだけの努力をあのジュスティーヌがしたというのかしら?


 セレナティアの方は四年前に比べれば大分成長してはいるようね。魔力も以前より大きくなっているわね。杖が昔使っていた物とは変わっているわね。

 あれは上級者が使うことが多いタイプの杖ね。

 

 それにしてもセレナティアは綺麗になったわね。お母様譲りの私と同じ赤い髪を背中まで伸ばしていてちょっとお母様に似てきたわね。

 可愛い妹だからこそ勝って欲しいけれど……。


 セレナティアではジュスティーヌに勝つのは無理ね……。


 単純に魔力の量が違い過ぎるわ。


 皆で話し合った結果、セレナティアには話さないでおいたけれど……それはあの子が秘密を守るのが苦手だからであって決して可愛くないわけではないわ。


 大きな怪我をしなければいいのだけれど……。


「それでは選考会準決勝開始します!」






影の(オンブラ・)(スパーダ)!!」


 セレナティアが魔術を構成するとそれは現れたわ。


 セレナティアの影の中から剣が飛び出しジュスティーヌへ襲い掛かる。しかし、ジュスティーヌはその場を一歩も動くことも無く魔術を唱える。


光の(ルーチェ・)(スク―ド)


 影は光の盾にかき消されるように消えていったわ。しかし、術の選択が上手いわね……的確に正しい術を選んで対処しているわね。魔力だけではなく術の使い方も以前より遥かに進歩しているわ。

 昔は術の相性など考えもせずに力押ししかしなかった魔術師とは思えないわね。昔ならこういう時は大地の盾を使っていたわね。


炎の(フィアマ・)(ランチャ)


 お返しと言わんばかりにジュスティーヌの唱えた魔術がセレナティアへと向っていく。セレナティアは迫りくる炎の槍を一瞬かわすかどうか悩んだわね。

 その一瞬がセレナティアからかわすという選択肢を奪い、防ぐしかない状況にしてしまったわ。


氷の(ギアーシ・)(スク―ド)!!」


 ダメよ! 魔力量で負けている場合は属性の相性ではなく、純粋に防御力がたかいほうを選ぶべきよ!


 セレナティアの氷の盾に突き刺さった炎の槍は赤い炎をあげながらどんどん盾を穿っていく。


「クッ! 炎の勢いが強すぎる!」


「ふん、その程度かしら? あんまりにも弱すぎて相手にならないわよ? この程度で聖炎の魔女に挑むつもりかしら?」


 支えきれずに炎の槍に氷の盾を貫かれたセレナティアは咄嗟に身をひるがえすことでギリギリで回避したわ。

 それにしても殺すのは禁止されているのにあんなに高威力の魔術を放つなんて! いったい何を考えているのかしらあの女は!


「ほら、次が来るわよ! 炎の(フィアマ・)(グランデ・)(スパーダ)!」


 炎の大剣がセレナティアへと襲い掛かる。横薙ぎに振るわれたそれは咄嗟に張られた氷の盾を砕いてセレナティアを弾き飛ばす。


 セレナティアはギリギリ舞台から落ちずに済んだけれど、これではただの嬲り殺しにしかならないわ。

 審判は止めるべきよ……なのにどうして止めようとしないの!?


「まだいくわよ! 巨人の剣は炎を纏い我が敵を打ち砕く。我が前に立ちはだかりし愚かなる者よ、汝の命はここで尽きる。炎の(フィアマ・)(グランデ・)(スパーダ・)(フィオジア)!! 聖なる炎に焼かれるが良いわ!」


 四小節の魔術ね……詠唱省略は出来ないようね。でも倒れて起き上がれないセレナティアにはこれを止める術が無いわ。

 炎の大剣が雨のように降り注ぐ。セレナティアは氷の槍をで迎撃しようとするけれど数が違い過ぎるわ。


 防ぎきれず炎の大剣がセレナティアを切り裂く。


 冗談じゃないわ! これ以上は死んでしまうわよ! 審判が止めないのなら私が行くわ!


 舞台へと飛び降り炎の大剣にさらされているセレナティアの腕を掴んで無理矢理舞台から引きずり下ろす。

 このときチラッと見えたのだけれど、観戦席にいたユリウス様が試合を止めようとしてバルバンティア公爵に邪魔されていたようね。

 ありがとうユリウス様、止めようとしてくれて。


 セレナティアの怪我は酷い状態だわ。斬られた部分が火傷になっていて傷口が焼かれている。こんな状態でも止めようとしないなんて!


(ヴィータ・)包む(アヴォルジェーレ)(・グランデ・)修復(リパラジオーネ)


 通常の魔術では癒せないし傷が残るわ。四小節の魔術なら傷も無く癒すことが出来るわ。意識がないセレナティアは起きてくる様子が無いわね。魔力切れも起こしているようね。


「な、何だね君は! 試合中だぞ!」


 審判が何か言っているけれど無視して良いわ。とにかくこれで怪我は治せたのだから問題は無いわ。


「聞いているのか! 試合中に乱入してくるとは何事だ!」


「……うるさいわね。この選考会は殺すことは禁止のはずよ。それなのにこんな危険な状態になるまで放っておくとかどういうつもりかしら?」


 怒りを込めて睨みつける。情けないことに私に言い返すことも出来ない審判は何かを言おうとしてて口をパクパクさせているわ。


「……あらあら情けないこと。この程度の魔術で死にそうになるなんて魔術師を名乗るのを止めた方が良いわねそこの雑魚は」


 ジュスティーヌが舞台の上から見下ろしてくる。私とセレナティアをまるでどうでもいい存在と言わんばかりの目で見てくる。


 ジュスティーヌ、あなたは変わらないわね。誰かを見下して自分だけが大事な存在だと思い込んでいるのは子供の頃のままだわ。


「必要以上の魔術を使うのは習いたての魔術師のすることよ。この国最強の魔術師は習いたてのようね」


「……なんですって。今何と言ったかしら?」


「幼稚な魔術師と呼ばれたいのかしら? 聖炎の魔女様?」


 私の言葉に表面上は冷静に振舞いながらも握りしめた拳は震えているわ。ジュスティーヌ、あなたは自分が言われる側になることは無かったのでしょう?


「……いいわ、そこの娘は連れて行きなさい。どうせただの負け犬よ。審判、さっさと決着を宣言しなさい」


「は、はい! 勝者ジュスティーヌ様!」


 ようやく審判が試合の決着を告げたわ。役に立たない審判は放っておいてセレナティアを休ませないといけないわ。


 取り合えずセレナティアを急いで休ませないといけないわね。






「う、うーん……こ、ここは?」


 医務室で寝かせておいたセレナティアが目を覚ましたわ。怪我は治しておいたから魔力切れで気絶していただけね。


「あなたは……」


 試合の時間まではまだ余裕があるから、心配でつい目が覚めるまで側に居たのわのよね。セレナティアは驚いた顔をしているけれど、まぁ仮面の人間が目が覚めた時にいれば驚くわよね。


「あなたは怪我をして医務室へ運ばれたのよ。」


「そう……ですか。私……負けたんですね」


 セレナティアはそう呟いた後、膝を抱えてうつむいてしまったわ。私は落ち込んでいるその姿にたまらず気が付けばセレナティアを抱きしめていた。


「あなたは頑張ったわ。名誉を守ろうとしてくれていたのよね。その気持ちが十分ありがたいわ。気持ちは十分受け取ったわ……後は任せておきなさい」


 抱き締められたセレナティアはポカーンと口を開けたまま固まってしまったわ。私はそっとセレナティアの口元にそっと指を当ててシーっと囁いてから医務室を出る。


 可愛い妹をいたぶってくれたお礼はしないといけないわね。






 次の試合が迫っているので控室へ向かう途中、向こうからジュスティーヌがやって来るのが見えたわ。

 向こうもこちらに気付いたようで不愉快そうに顔を歪めてきたわ。こっちもあなたの顔を見るのは不愉快よ。


「顔をさらすことも出来ない女が聖炎の魔女を名乗る資格があるとでも思っているのかしら?」


「実力に顔は関係ないのではないかしら?」


「いいこと! 聖炎の魔女という称号は私のために生まれた者よ! 貴様のような卑しい者には分不相応だと知りなさい! 聖なる炎も使えない者が!」


「……哀れね、あなた。それしか誇るモノが無いのね」


 私の言葉にジュスティーヌが目を見開いて固まってしまったわ。何か言い返そうと思っても言葉が出ない感じかしら?


 そんなジュスティーヌを放っておいて私は次の試合へ向かう。


 さっさと終わらせて来るから次の試合で会いましょうジュスティーヌ。

この話もあと数話でお終いです。もう少しだけお付き合いください。


評価、感想、ブックマークなどあると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします。

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