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それは私のよ!  作者: 月魅
聖炎の魔女編
19/24

6:王様の抱え込んだもの

いつも読んでくれてありがとうございます。

前準備は今回までです。

 債権者の商人が来て要求してきたのは借金の三分の一の返済と利子の返済。しかも期限は明日まで。


「ありえないわ……これもアーロンの嫌がらせでしょうね」


「きっと明日やって来て自分が口を利いてやるから言うことを聞けとか言ってくるつもりだと思います」


 ベルベット様がうんざりするように呟いた。アートア伯爵も困り果てて頭を抱えてしまっているわ。

 参ったわね、選考会の前にこんな障害が立ちはだかるなんて。とてもじゃないけれど三分の一何て言うお金は持っていないわ……そうお金はね。


「借金の件ですが任せてもらえませんか? お金の工面に少し当てがありますので」


 私はそう言って頭を抱えるアートア伯爵を説得したわ。どちらにせよ一切の手が無い状態ではどうしようもないみたいで、私に任せると言ってくださったわ。







 その日はもう日が暮れてしまっていたので、次の日朝一番で私は魔物の素材などを買い取ってくれる買取屋を訪れることしたわ。


 全てではないけれど、魔物の素材は利用できるものもあるので買い取ってもらえる物もあったりするわ。他には貴重な薬草や鉱石なども高価で買い取ってもらえるわね。


 黒い森でさんざんいろいろ集めていたからいろいろ放出すればそれなりの金額になるはず……そう思っていたのだけれど、帰って来たのは意外な言葉だったわ。


「残念ながらあなたとは取引出来ません」


「どういうことかしら?」


「……理由は知りませんが仮面をつけた女性魔術師とは取引をするなと言われています」


 あの陰険男! 姑息な真似だけは一流ね。


 ……これは金策が出来そうなところ全てに圧力をかけたわね。


 私の予想通り他の買取屋はおろか、金貸しすらも私への融資を断って来たわ。誰も理由は言わないけれどここまでやられれば馬鹿だって分かるわよ。


 ただ、これで分かったこともあるわ。バルバンティア公爵家の圧力だとして、ここまでの圧力がかけられる背景にはクーデターの時に傭兵や冒険者と言った連中との繋がりを強くしていった結果のようね。

 買取屋なんかりようするのは冒険者くらいのものだから圧力はかけやすかったでしょうね。金貸しは後ろ暗い連中との付き合いからかしら。


「……参ったわ。売る相手がいないんじゃどうしようもないわ」


 元々が詰んでいる状況だから打てる手は限られているのが辛いわね。借金が不正な物だと証明できれば良かったのだけれど、それは難しいわね。ああいうものは後から書類を書き換えれば黒も白に変わるのだから。


 弱り果てた私は適当なベンチに座って空を仰いだ。何かいい方法は無いかしら? そう思いながら悩んでみたりしたのだけれど、いくら考えても何も出てこない。


 誰か……売れる先があれば話は変わるのだけれど……。


 最悪、城へ忍び込んでユリウス様に全てを打ち明けるしかないかしら。問題は私の隠密系の魔術がかなりお粗末なことね。白の警備を掻い潜ることが出来るほどの魔術が使えるかどうかは正直なところ一か八かね。


 借金取りは今夜やってくる、時間に余裕があるわけではないわ。


 明るいうちから忍び込むなんて真似……正気じゃないわね。


 私がそう決心した時、視線を感じたので周りを見回すと近くの作に寄り掛かるように一人の男性が立っていることに気が付いたわ。

 普段の格好からすれば質素……と言っても裕福な商人と言っても通じるくらい仕立てのいい服に身を包んだユリウス様がいたわ。


 と言うか……どうしているのかしら?


 王であるユリウス様が何でどうしてこんな公園なんかに!?


 混乱する私を余所にユリウス様は近づいてくると私の隣に腰を下ろしてきたわ。そして私を見ながら面白そうにしながら笑いを堪え始める。


「……何か面白い物でもありましたか?」


「いや、すまない。何か悩んでいるのは気づいていたのだが、その姿がちょっと面白くてね。悩んでいる君を笑ったのは謝ろう」


 四年も会わないうちに随分と良い趣味になったわね。女性の悩んでいる姿を見ているなんて悪趣味だわ。


「お詫びと言っては何だが、何を悩んでいたのか聞かせてもらえないだろうか?」


 ユリウス様はそう言って私に話を促してくる。ちょっと待ってもらっていいかしら……これバレているわけじゃないのよね?

 私がアリスティアだと気付いているからこんなことを言ってきているのかしら? それとも女性にはこんな風に簡単に声をかけるような男性になってしまったとか!?


 そ、そんな人じゃなかったわユリウス様は!


 確かに優しすぎたところはあったし、かなり親切な方だけれども出会って間もないどころか会話すらしていない女性を口説く様な高等テクニックは使えないタイプだったわよ?


 訳が分からなくなった私はつい、昔のように気安く話かけてしまっていた。


「良く知りもしない女をそうやって口説くのかしら?」


 はっ!……やってしまったわぁぁぁ!!


 正体ばれなくても不敬罪で処罰されても文句が言えない言い方をしてしまったわ!


 一人で慌てている私にユリウス様は気にすることは無いと言ってくれた。そして、ユリウス様はまるで堤防が決壊するかのように、ため込んでいた何かを吐き出すようにポツリポツリと自分のことを話し始めた。


「先日の一緒にいた女性は覚えているかな? 彼女は私の仕事のパートナーの娘なのだが、個人的に好きになれなくてね。私は彼女の傲慢な振る舞いが苦手だよ」


「その……あなたがどなた様か把握していますからその誤魔化しは無意味かと……」


 私の言葉にバツが悪そうな顔をした後、ユリウス様はそれならと話を続け始めた。


「こんな話をそもそも外部の人間に、しかも誰とも知らない人にするべきではないんだろうけれども、何故か君なら大丈夫だと言える気がするんだ。だからこれから話すことは内密にして欲しい」


「……全て独り言なら仕方ないですね」


「ありがとう……今、この国は大きな岐路に立たされている。貴族の特権を第一に考えるバルバンティア公爵家と、先王の遺志を継ぎ改革を実行しようとしている現王で分かれているんだ。先王は貴族以外の優秀な人材を登用することでこれから来るであろう効率化の進む時代に対応できる国造りをしようとしていた」


 ええ、それはよく知っているわ。私はそんな先王陛下が大好きだったし、尊敬していたのだから。

 少なくともあんな最後を迎えていい方ではなかったわ。


「ところが以前から王位継承で不満を抱えていた叔父のジンバルトがクーデターを起こしてしまった。ここら辺の話は有名だろうから省くけれど、実は私の兵力は叔父に負けていたのさ、質はともかく数という盤面ではね。それを救った形になったのがバルバンティア公爵だったよ。公爵の兵は最終的に私の軍の三分の一を担うようになった。結局クーデターの鎮圧には成功したけれど、代わりに公爵の私兵が褒美として軍の要職に数多くつくことになってしまったんだ」


 なるほど、これで納得がいったわ。どうしてユリウス様がここまで大人しくしているのかと思っていたけれど、軍を押さえられていたのでは無理は出来ないわね。最悪第二のクーデターが起こるだけだわ。


「さらにクーデターの際に私のために戦ってくれた最愛の婚約者を英雄に祭り上げて、行方不明でもあるにも関わらず事実上死んだ者として扱い始めた。でもこれは彼女の持っていた最強の魔術師の肩書が欲しかっただけだったのさ」


「どういう意味でしょうか? そんなものは名前だけあっても意味はないかと思いますが?」


「本当の目的はその名前を使って宮廷魔術師の席へ自分の手駒を喰い込ませるのが目的だったのさ。最強の魔術師の称号を受け継いだ自分の愛娘が宮廷魔術師でないのはおかしいってね。一度、私の婚約者がその称号と共に最強の魔術師として宮廷魔術師にいたことがあったからね。今は良識ある宮廷魔術師達が頑張ってくれているけれど、正直旗色は悪い」


 だからお父様は忙しいのね。


 ジュスティーヌみたいな我儘なお嬢様が正しく宮廷魔術師であることは出来ないでしょうから、苦労しているのが目に見えるようだわ。


「掌握された軍を取り返すにしてもそう簡単にはいかない。せめてジュスティーヌだけでもなんとか出来ないかと思っていたのだけれど、彼女は恐ろしい魔術師へと成長していた。宮廷魔術師でも上位に位置する魔術師相手に力技でねじ伏せることが出来るほどになっていたんだ。。だからと言って宮廷魔術師を辞めさせることは出来ない。宮廷魔術師は実力でのみ選ばれる。彼女に実力がある以上それは守られるべきだ。結局、今に至るまで誰も彼女に勝てた者は誰もいない」


 悔しそうに顔を歪めるユリウス様。


「あげくには私の婚約者気取りだ。誰がそんなことを認めたというのだ!!」


 法を守ることがユリウス様の正しさであり力である代わりに、ジュスティーヌを排除することが出来ない。それはとても辛いことだと思う。


「せめてアリスティアがいてくれたらと何度考えたことか……。死んでいるなど認めるつもりはない。彼女は生きている……だが、私はいつまで待てばいい……」


 王であるが故に誰にも溢すことが出来なかったいろいろなモノが私に出会ってしまったことで我慢できなくなってしまったのだと思うわ。

 仮面をつけて声を変えてもユリウス様はどこか私だと分かったのかもしれないわね。


 ここで私が生きていると教えたい。そうすればユリウス様の苦しみは大きく減ると思うわ。


 ……でも、ここには私達以外の人もいる。


 もう少しですから、もう少しで私はあなたの下へ帰れます。


「だから戦うなと言ったのですね?」


「ああ、ジュスティーヌは君に僅かながらでも興味を示した。彼女の気まぐれ次第だが、その気になれば対戦順など簡単に操作できる。今や彼女のことを知っている者は誰も彼女と戦おうとしない……一部を除いて。実は君を見かけたのは偶然だったのさ。気晴らしにこっそり街へ出かけてみたら昨日見た魔術師が面白い格好で悩んでいる姿を見せていた……どうしてかな、君のことが気になって仕方がなくなったんだ」


 ……今、面白いって言われたわ私。


 まぁ、見ていて愉快な姿だったかもしれないけれど、何か複雑だわ。


「すまない、結局君には関係ない話をしてしまった。ジュスティーヌは私が必ず何とかする。だから君は……」


 これ以上の苦しみをこの人に背負わせたくない。


「私、戦いますわ」


 苦しみを吐露するように私を止めようとしてくるユリウス様を遮る。苦しい現状に押しつぶされそうになりながらも人を心配できるユリウス様は変わっていなかったわ。


 身も知らぬ人間にすら溢してしまうくらい追い詰められているこの人のために出来ることがあるのだから、せめて少しでも気持ちだけでも楽にしてあげたい。


 ――だから


「戦って勝ちますわ。だから陛下も戦いを諦めないで下さい」


「……君はまるで私の婚約者のようだな。すごく似ているよ」


 ……本人です。


 ごめんなさい。


「そうだ! 私の悩みなんですけれど、実は買って欲しい物が……」


 私はユリウス様に売るつもりだった素材を並べて見せた。どれも黒い森でもそれなりに貴重な物からかなり貴重な物ばかりね。

 コカトリスの毒袋に黒リンゴ、万病薬の元になる薬草。これだけあれば十分じゃないかしら。


「……一つ聞きたいがいくら必要なんだ?」


 私は事情を説明することにしたわ。全ての事情を聴き終わったユリウス様は少し考えた後、全て買い取ってくれると約束してくれたわ。取り合えず必要な金額分を時間までに持ってきてくれるということなのでこれで安心出来るわね。






 ユリウス様に今度は選考会で会いましょうと約束してからアートア伯爵家に戻る。お金のことは問題ないと伝えたら喜んでもらえたわ。


 ただ、ちょっとこれは想像していなかったわよ。


 王宮からの使いの人が持って来たお金は山の様で、借金の三倍くらいのお金がそこには積まれていたのだから。

次回からは決着をつけるために物語が動きます。よろしければお付き合いください。


評価、感想、ブックマークなどあると作者のモチベーションが上がります。

よろしくお願いいたします。

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