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それは私のよ!  作者: 月魅
聖炎の魔女編
16/24

3:まだ未熟ね……

 次の日、私はヨシュアの婚約者であるアトーア伯爵家へ向かうことにしたわ。久しぶりに実家で休んだ私は朝からアンナに磨かれることになったわ。

 幸い体型が変わっていなかったのでドレスが入ってよかったわ……若干筋肉質になった気はするけれど……若干よ? 若干。







「お久しぶりですアリスティア様」


 四年振りに会うアトーア伯爵家の皆さんは元気そうだったわ。ちょっと小太りで髪に悩んでいることが秘密なアトーア伯爵に、ちょっとふくよかだけど優しいアトーア伯爵夫人。


「お久しぶりですアリスティアお義姉様」


 ヨシュアの婚約者のベルベット様は銀糸のような白銀の髪に宝石のように青く輝く瞳をした女性で、とても穏やかで少し引っ込み思案な女性だったけれど今はどうかしら?。それにしても本当に未来の義妹は本当に綺麗になったわ。


 今日はアートア伯爵家を訪れることは内密にしているし、出る際にもベールを被っているから顔は見られていないでしょう。バルバンティア公爵に今、私が生きていることを知られるのは都合が悪いからしょうがないわね。


 応接室で互いに挨拶をしてから今までのことを話していく。私が黒い森にいたという話をした瞬間、三人とも驚きのあまり言葉を失くしてしまったのはちょっと予想外だったわ。


 いえ……予想外でもないわね。わたしの感覚が麻痺しているだけね。


「それでアリスティア。本当に選考会に出られるのですか?」


「はい、そのつもりです。元々は私の二つ名でした。バルバンティア公爵の政治の道具に使われているのを黙ってみている理由はありませんわ」


「……しかし、現聖炎の魔女であるジュスティーヌ公爵令嬢は異常な強さです。他の誰も寄せ付けない戦績を残しているのです」


「それに選考会は……」


 ベルベット様が何かを言いかけて止めたのが気になるわ。そう言えば選考会についてあまり細かく突っ込んだ話は聞いていなかったわね。


「昨日疲れていたので細かくは聞いていないのですが、選考会は聖炎の魔女の称号以外なにかあるのですか?」


「……実は」


 アートア伯爵が教えてくれた話はヨシュアが話してくれなかった部分に関する話だったわ。もっとも聞いてみればヨシュアが私に話さなかったのは納得できる話だったわ。


 この選考会にはもう一つの側面が存在しているところがポイントだったわ。選考会の優勝には聖炎の魔女の称号の他に優勝賞品として王に願いを言う権利が貰えるらしいわ。

 もちろん無茶な願いを言うことは許されていないけれど、賞金やある程度の昇進などは認められるようね。

 最初はそれだけの話だったのに、二年目からはこの選考会に人を出すことが名誉のように扱われるようになっていったらしいわ。従って人を出せない家はそれだけの力が無い家として扱われるようになるのに時間はかからなかったそうね。


 それで何故ヨシュアがこの話をしなかったのかと言うとここからがアートア伯爵家の醜聞に関わる話になるからね。

 アートア伯爵家はこの三年間誰も選考会に人を出していないわ。選考会は細かく分けられたから魔術部門に剣術部門もあるので人を雇えば決して誰も出せないということは決して無いわ。優勝すれば名誉ではあるけれど、優勝しないからといって不名誉になるわけではないわ。それだというのに誰も出していない理由。


 それは誰もアートア伯爵家の依頼を受けないように圧力がかけられているせいだったというわけね。しかも何故か三年前に先々代の借金が発覚し経済的にもピンチに陥っていた状況ね。

 もちろん我がバルヴィエスト侯爵家も支援はしていたらしいのだけれど、金額が結構大きいせいで借金を肩代わりするのは無理だったようね。さらにバルバンティア公爵家の勢いが増しているせいで我が家も余裕が無くなりつつあるからあまり無理も出来ない状況だったと。


「事業も選考会に人を出すことが出来ていないせいで信用が得られないことが多く難航しています」


 確かにこんな話はいかに婚約者とは言え当人以外が説明するべきではないわね。選考会について説明してしまえば私が感づいてしまう可能性があった以上黙っていたと。

 まぁ、そこまで婚約者を大事にしているのなら安心ね。方法に思うところが無いわけじゃないけれど、愛ゆえにということで許してあげるわヨシュア。






「それで何故圧力がかけられているのですか?」


「実はベルベットとヨシュア君との婚約を解消し、自分の妻になれと言ってきた貴族がいまして………」


「聞かせてくださいませんか? おじ様」


 アートア伯爵は一瞬悩んだ後その貴族の名前を口にした。


「アーロイ・バルバンティアですか……」


「バルバンティア公爵家の嫡男と言う立場を利用して好きに振る舞っているのです! 幸い陛下が婚約を保障してくれているので権力で無理矢理はありませんが、その分嫌がらせが多いのです」


「でしたらなおさら私が出ます。それで選考会に人を出せないという不名誉も雪がれるでしょうし、私も目的を果たせます」


 私が出ることでバルバンティア公爵家の怒りを買うことを恐れているようね。頼りない困ったかで悩んでいるわ。

 見かねた私が声をかけようとした時、おば様がピシャリとおじ様を叱りつけた。


「あなた! ここで手をこまねいているだけで何か解決するのですか? どうせ目をつけられている以上、従わないのなら敵対しようがしまいが同じことです! 当主として腹をくくってください!」


 あら、やだおば様カッコいいわ。


 おば様の言葉でハッとした表情を浮かべたおじ様は真剣な顔つきになると分かったと頷いてくれたわ。


今後の予定をどうするか話していると、アートア伯爵家の家令がやってきて伯爵に何か耳打ちをしてきた。この感じだとトラブルかしら?

 報告を聞いていく度にだんだんと険しくなっていく顔からすると相当嫌な相手の様ね。


「何かあったのですか?」


「う、うむ……アーロン・バルバンティアが来たらしいです。ベルベットに会いに来たといって話にならないようで……」


 アートア伯爵はそう言うと身なりを整えるとここで待っていてくださいと言って部屋を出ていった。

 少ししてかすかに言い争う声が聞こえてきたわね。しかもどうやら少しずつ近づいている気がするわ。今、私の顔を見られるのは面白くないわね。何かいいものはないかしら?

 ふと壁に仮面がかかっていることに気が付いたわ。この応接室は伯爵の趣味でいろいろな物を飾ってあるのだけれどこれもその中の一つのようね。


 白地の仮面で目の下に涙が描かれている仮面。これは西の方にある水の街のお祭りで使われる仮面だったかしら。ちょうどいいわこれを借りましょう。

 おば様に許可を取って仮面をつける。魔術で声を変えれるようにしておけば正体はバレないでしょう。

 

「私に指図するな! 伯爵風情が!」


 凄い勢いと共に応接室のドアが開かれると同時に一人の男性が入って来た。ジュスティーヌそっくりな少しくすんだ銀の髪に薄い青色の瞳ね。顔は綺麗だけれど浮かんでいる下卑た表情が何もかも台無しにしているわね。


「ベルベットォ、いい加減あの男との婚約を解消して私の下へ来いと言っているだろう? どうして夫の言うことが聞けないんだぁ?」


「わ、私はヨシュア様の婚約者です! 何の理由も無く解消何て出来ません!」


「理由なら有るだろう? 借金の口利きをしてやると言っているんだ。後はお前が私の言うことさえ聞けばそれでいいというのにお前は馬鹿か? それともそうやって私の気を引いているつもりかぁ? そうならそうと言えばいいものを……たっぷり可愛がってやるというのにぃ」


 嫌らしい笑みを浮かべてアーロンがベルベット様を舐めるように見ているのでそっとその視線を遮るように前に立ち塞がるように移動する。


「ん? なんだ貴様は? 誰の許しを得て私の前に立っている!」


 知らないわよそんなもの。あんたの許可なんか必要としたことはないわ。


「婚約者でもない女性を無遠慮に舐めるように見るのは品性に欠けますわよ?」


「な、なんだと貴様! 誰に物を言っている! 伯爵! こいつは何なんだ!!?」


「わ、我が家から選考会に出場してくれる女性魔術師です」


 伯爵の言葉を聞いたアーロンは嬉しそうにニヤリと笑いながら私を舐めるように見てくる。しかしこいつは本当に女性に失礼な男ね。ここにタニアがいなくて良かったわ。いたら絶対あの髪をむしりに飛びついて行ったわね。


「なるほどなぁ。聖炎の儀に参加するということか。ふん、だが俺は認めんぞ! 大事な妻の家が出す魔術師だ。もっといい魔術師を私が用意してやろう」


「何勝手なことを言っているのかしら? 誰がそんな話を呑むと?」


 私が呆れたように言うとアーロンは楽しそうに笑いながら指を振って来た。


「私はバルバンティア公爵家の嫡男だぞ? 私が認めなければお前は出られなくなると思わんか?」


 はったりね。そんなことが出来るのなら三年も出場しないように圧力をかけずに、アートア伯爵家の出場選手を却下すればいいだけだわ。

 ただ面倒ね文句を言われるのも。ならこういう条件はどうかしら?


「でしたらこういうのはどうでしょうか? アーロン様の用意された魔術師が勝てば私は大人しくこの場を去ります。そしてアーロン様に隷従します。ただし、私が勝てば選考会に出ることを認めてもらえませんか?」


「ほう? 面白いことを言うな……いいだろう。ただしもう一つ条件がある。お前が負けたらベルベットを一晩我が屋敷に招待させてもらおうか」


 ……最低ねこの男。既成事実をでっち上げて婚約を解消させるつもりね。私だけの問題ならいくらでも札は切れるけれど、こんな滅茶苦茶な条件にベルベット様を巻き込むことは出来ないわね。ちょっと浅はかだったかしら。

 この男の馬鹿さ加減を甘く見た私のミスだわ……反省……ね。


「さすがにその条件は……」


「引き受けます」


 私が断ろうとした時、ベルベット様がアーロンをしっかりと正面から見据えて言ったわ。


 ちょっと、そんな軽はずみなことを。


「私はこの仮面の魔術師様を信じます。だから負けることを考える必要はありません!」


 ……ちょっと強くなったからって調子に乗っていた私よりもずっと立派に成長しているわねベルベット様は。しっかりと自分の足で立ちながらアーロンに立ち向かう姿はカッコいいわ。


 ベルベット様の瞳は私を信じる力強さを秘めているわ。だったらこの信頼にちゃんと答えないと。


「いいだろうベルベット。その言葉忘れるなよ? こういうのは早い方が良い。明日の昼に指定した場所まで来い。そこで勝負してもらう」


 アーロンはそう言うと機嫌よく部屋を出ていったわ。私は仮面を外すとアートア伯爵家の皆さんに向かって頭を下げる。


「申し訳ありません、勝手なことを言って」


「いえいえ、本来は私がちゃんとしていればここまでならなかったのです」


「そうですよアリスティア様。どうせいつか白黒つけないといけなかったのです。でしたら聖炎の魔女だったアリスティア様に賭けた方がまだ勝ち目がありますわ」


 おじ様とおば様がそう言って下さることがありがたいわ。弟の婚約者とはいえ、娘のように可愛がってもらったことがあるのだからちゃんとここで恩は返しておきたいわ。


「結婚してお義姉様とお呼びしたいので必ず勝ってください。アリスティアお義姉様」


「ええ、必ず勝つわ。だから私を信じてくれてありがとう」


 絶対罠が待っているでしょね。今から準備していかないといけないわね。


 私は準備があると言ってアートア伯爵家を後にしたわ。さて、帰ったらヨシュアとアンナに言わないといけないわね……ちょっと憂鬱だけど。

ちょっとイキってしまったアリスティアでした。力を得るということは精神の強さとは別ということですね。


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