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それは私のよ!  作者: 月魅
聖炎の魔女編
14/24

1:銅像はどうかと思うわ

王都編開始です。

ここからはたまにシリアスが死にます。


よろしければお付き合いください。

 レイグレイシア王国の王都グレースの巨大な正門を抜けた私は懐かしさのあまり言葉が出なかったわ。

 端から見れば王都の凄さに圧倒されてしまったお登りさんにしか見えないと思うわね。実際、今の私の格好はあまり上等な服を着ていないのでなおさらそう見えるでしょうね。


 黒い森では服なんか手に入らないので、バンホルト様のお下がりを使っていたのだけれどそれもそろそろ限界だったのよね。それで仕方なく途中に寄った村で服と食料を交換してもらったというわけ。今は麻のワンピースにスカーフだけという凄くシンプルな格好だわ。それでもそろそろ穴が空きそうだったローブに比べたらマシね。


 ただ何となくチラホラと見られている気がするのだけれど気のせいかしら? 


「おおー! これがアリスティアの住んでいる街なんだねー」


 いろいろ考えているとタニアがそんなことを言いながら私の髪から出てこようとするので急いで押し込んでおく。


「ちょっとタニア! 街の中では迂闊に出たらダメだった言ったはずよ?」


「ええー!! こんなに広いんだからもっといろいろ見たいー!」


 幸い髪が長い私だから隠すことが出来るけれど、タニアが人に気付かれたら大騒ぎになってしまうわ。まぁ、騒ぎになっても困るだけで済むでしょうけれどそれでもわざわざ面倒を自分から背負い込む必要はないわね。


「それは家に帰ってから方法を考えるわ。ほら、行くわよ」


 いつまでもここにいてもしょうがないので大通りを歩いて行く。街は四年前と変わらず活気に満ちていて平和そうだった。クーデターの傷跡も目に見える所には無いみたいだわ。


 ここに来る途中情報を集めてきたのだけれど、どうやらクーデターはあっさりと鎮圧されたと聞いたときはホッとしたわ。ただ、その時大きく活躍した貴族がバルバンティア公爵家というのが少し気になるけれど。

 あの家はあまりいい印象が無いし、バルバンティア公爵令嬢であるジュスティーヌとは犬猿の仲だわ。面倒なことになっていなければいいのだけれど。


 それにしても陛下がクーデターの際に殺されていたと聞いたときは本当にショックだったわ。私に優しくしてくださったもう一人のお父様のような存在だった陛下。ジンバルトをこの手で引き裂いてやりたいけれど、それはユリウス様がキッチリ返してくれたから良しとするわ。


 今はユリウス様が王位を継いで陛下になったのだけれど……今どうしているのかしら……婚約は流石に解消されたかしら……ダメダメ、確認するまでは悩むのは止めるべきね。

 一人で悩んで勝手に暴走したりでもしたら目も当てられないわ。


 本当はいろいろ情報が欲しかったのだけれど、流石に王族の情報は村とかでは手に入らなかったわ。知っていそうな人間なんてそれこそ大手の商人や貴族になるわけで、何の肩書のない私がいろいろ探れば最悪密偵扱いされかねないものね。







「ねーねー、アリスティアー。あれなーに?」


 しばらく大通りを歩いていると何かを見つけたのか、タニアが私の耳を引っ張りながらどこかを指さしている。その方向を見てみると白いローブを纏いながら炊き出しをしている光景が見えたわ。


「ああ、あれは教会の炊き出しね」


「炊き出し?」


「ご飯を人に配ることよ。残念なことにこの街でも日々の食事に困る人がいることは事実だわ。だからそういう人達に食事を配るのよ。これも女神様の教えの一つね……まぁ、存在していないけれど」


 炊き出しは教会で行われるから欲しい人たちは一番近い教会まで歩くことになるのよね。まぁ、いちいち必要としている人の場所まで行っていれば費用が掛かり過ぎてしまうものね。昔はそうしていたらしいんだけれど、先王陛下が教会に掛け合って改善したのよね。

 おかげで費用を抑えられた分、食事の質が向上したのよね。以前は教会の炊き出しは質素で美味しくないと悪い意味で評判だったものね。


「ふーん、つまりご飯がたくさんあると幸せなんだねー?」


「え、ええ、まぁそうね?」


 タニアはうんうんと頷きながら何かを納得しているようだった。いったい何を考えているのかしら? 少しだけ心配だわ。


「そう言えば教会は女神がいるって思っているんでしょうー?」


「ええ、以前話した通りよ。私もタニアと出会う前は信じていたわ」


「具体的に女神はどんな教えを出しているのー?」


 教会が掲げる女神様の教えは実は単純だったりするわ。第一に他者に慈愛を忘れるなかれ。第二に命を貰って生きていることを忘れるなかれ。最後に命は最後まで見捨てるなかれ。


 後は最後の教義が理由で自殺は禁じられているのが特徴かしら? 教会自体はレイグレイシア王国以外でも信仰されているからその国によって多少の差はあるけれど概ねこんな感じね。


「へー。人間が信じている女神ってそんなこと言っているんだねー」


 まぁ、タニアの証言から精霊は女神様の使いではないことがハッキリしたから今はもう何とも言えないのよね。






 そんな話をしながら歩いていると円形広場へと出てきたわ。中心に銅像が建っていて広場の外円に沿うように屋台が並んでいる。


「おおー!! 美味しそうな匂いがするー!」


 飛び出していきそうなタニアを捕まえておいて私は銅像へと近づいて行く。


 さっきから嫌な汗が止まらない。


 一目見てそれが何の銅像か理解してしまったから。


 これが悪夢だと言わないのならいったい何が悪夢だというのかしら?


「? どうしたのアリスティアー?」


 タニアが様子のおかしい私に気が付いたのか聞いてきた。しかし、返事をする余裕なんか無い私は答えることが出来ない。


「銅像見てるのー? どれどれ……ああー!! アリスティアだこの銅像!!」


 タニアの叫び声すらも気にならない。どうして私の銅像がこんな場所に立っているのかしら!?


 混乱する私は人の視線が集まってきていることに気が付いて急いでこの場を離れる。銅像の側を離れても混乱する頭はグルグルしていて、心臓はバクバクと音を立てるのを止めてくれない。


「アリスティアなんかしたのー?」


「私が聞きたいわ……本当にいったいなんなの?」


 とびかくこのままではどうしようもないので私は適当なお店に入って広場の銅像について聞いてみることにした。


「ああ、アリスティア様の銅像だね。あれは今の王様をクーデターから命がけで守った英雄の銅像だよ。なんでも婚約者だったとかで互いに深く愛し合っていたらしいじゃないかい。その悲恋もまた人気がある理由の一つなのさ。あんたもアリスティア様にあやかって魔女クッキー買わないかい?」


 話を聞くだけのはずがクッキーまで買わされてしまったわ……。クッキーはタニアが幸せそうにかじっているからまぁいいけれど。


 一応他の人にも聞き込みをしてみた結果、想像もしていなかった話を聞かされたのよね。


 私の個人的な二つ名だった聖炎の魔女は国内最強の魔女が名乗る称号にされていて、今はジュスティーヌがそう名乗っているということを。


 し・か・も!


 ジュスティーヌがユリウス様の婚約者ですってぇぇぇぇ!!


 あの性悪女がユリウス様の婚約者に納まっているなんてありえないわ! きっと何らかの理由があるに違いないわね。どういうことかキッチリ調べるわよ!


「タニア、調べることが出来たわ。のんびりしていないで行くわよ」


「ングング、わはっはー」


 食べ終わってから返事しなさいよ……。






「約束の無い方はお通し出来ません」


 やっと家に帰って来れた私に告げられたのは我が家の門番の非情な一言だったわ。正門を守る門番は二人で、二人共見覚えがないから新しい門番ね。


 最初、ただいま帰りましたと告げたらなんだこの頭のおかしい女はって目で見られるから慌てて弟のヨシュアに用があると告げると約束は?ときたのよね。


 こうなるとどうしようもないからこれ以上怪しまれる前に門から離れたのだけれど、どうしようかしら?


「お家入れないねー」


「うっかりしていたわ。確かに四年も離れていればいろいろ変わるわよね。しかし、どうしたものかしら……」


「うんうん、こういう時は潜入だー!」


 悩む私にタニアがそんなことを言い出した。潜入って何よ? どういうこと?


「だって入れないんでしょうー? だったらこっそり入るしかないじゃん」


「……一理あるわね。そうね……ここで無駄に時間を消耗するくらいならさっさと入ってしまった方がいいわね」


 私はそのまま魔力に意志を通して術式を構築する。


(オンブラ・)れる(マーゴ・)影衣(アルマトゥーラ)


 全身を薄っすらと影のような物が包んで行く。これで人から認識されにくくなったわ。まぁ、隠れる系統の魔術なので精度も甘ければ魔力の消費も馬鹿にならないのだけど。どれだけ修行してもこれだけは改善できなかったわ。


 屋敷を囲む生垣へと近づく。背よりも高い生垣だけれど、(オーキオ)を使って全身を強化する魔術を使えば簡単に乗り越えられるわ。

 問題は実はこの生垣の上に敷かれている侵入者検知の魔術だけれど、それは一瞬だけ術式に介入して無効化しておく。昔はこんな芸当は出来なかったけれど今なら容易いわね。


「よし、潜入成功ね」


「おおー! アリスティアがちゃんとコソコソ出来てる!?」


 どういう意味よそれは。一回タニアとは話し合う必要があるわね。


 生垣を越えて出たのは屋敷の裏手だったわ。ここは確か使用人達が洗濯物を干しに来るから急いで離れる必要があるわね。


 急いでこの場を離れようとした時、首筋にチリっとした感覚が走ったのでその場を飛び退く。


 何かが突き刺さる音を聞きながら転がる。見てみればそこには氷の矢が突き刺さっていた。


「かわしましたか……不意を突いたはずなのですが……」


 屋敷の陰から一人の侍女が現れた。茶色の髪に淡い赤の瞳。四年前よりもさらに大きくなったと聞きたくなる豊かに実った果実!


 ちょっとアンナ、あなたまた大きくなったんじゃない!?


 姿を現したのは侍女のアンナだったわ。懐かしさと羨望の涙が思わず出てしまいそうになるわ。元気そうで良かったわ……ところでどうしてアンナは私を睨んでいるのかしら?


「魔術のせいじゃないのー?」


 そう言えばそうだったわね。(オンブラ・)れる(マーゴ・)影衣(アルマトゥーラ)を解除してアンナへと声をかける。


「懐かしいわねアンナ。私よアリスティアよ、今帰って来たのだけれ、って!!」


 私の言葉を聞き終わる前にアンナは風の刃を放って来た。


 咄嗟に地面を足で叩いて石の壁をだして防ぐ。そんな私の様子をアンナは気を抜くことなく杖を構えながら見ている。


「ちょっとどういうことかしら? いきなり攻撃してくるなんて」


「お嬢様が帰って来たという報告を聞いていない以上、あなたが本当にお嬢様かどうか判断が出来ません。もしかしすればお嬢様の姿を真似た侵入者の可能性がある以上、あなたを拘束させていただきます」


 ちょっと待ちなさいよ、そんな滅茶苦茶な話が……って言っていることは正しいわね。私がアンナでもそうするもの。


「侵入者は正しいしねー」


「まったくもってその通りね!」


 アンナが放って来た氷の矢をかわしながら魔力に意志を通して術式を構築する。


「だったら叩きのめして話を聞かせるしかないわね! 覚悟なさい! 雷の(トゥオロ・)(レーテ)!」


 私が放った雷の網を氷の壁で防ぐとアンナが手に氷で出来た槍を持って迫ってきた。


 アンナの実力はよく知っているわ。四年前の私と戦える数少ない魔術師だったのだもの。以前よりも強くなっていることは間違いないでしょう。この程度で終わるなんて思っていないわ。





 ――でもそれは私も同じよ!!



 あの魔物の強さだけは地獄のような黒い森で、頂点(トップ)争いが出来るレベルまで鍛えた私の力を見せてあげるわ!

実際自分の銅像とか見ていられない気がするんですよね。


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