「ぐうたら剣姫行」001話解説(ネタバレあり)
先に活動報告の方で書いたものを、こちら「補遺集」に、あらためて各話解説として投稿させていただきます。
全300話、毎話ごとに思うことはたくさんありまして、できる限り綴ってゆきたいと思っています。
もうしわけありませんが、最終話を踏まえたすべての内容について触れていきますので、ネタバレしまくりです。本編未読の方に向けて、ネタバレはたっぷり空白をあけた上で後半で語ることにいたしますが、バレなしで読みたいという方はご注意くださいますよう。
001話「脱出」解説
すべてが始まった、反乱勃発の夜。
一番最初にこの物語を構想し、プロットを組み本文を書き始めた時は、01話はまったく違うかたちでした。
反乱が起きたという知らせが届いた地方の街、戦が近いということで逃げ出す庶民たち、その中に混ざっている王女とお付き二人……という、04話「ビルヴァの街にて」にあたるところから始まっていました。
街の近くで騎士たち一行と平民兵士が激しく戦って大勢死んだらしいぞ、と人々の間に噂が流れていて、後ろからその平民兵士の一団がやってきて12歳の女の子を探しているということで従者がいきなり少女を殴りつけて人相を変えさせる展開。義経記の「勧進帳」で従者の弁慶が主君たる義経を下僕扱いしてごまかすパターンです。
ですが、15話ぐらいまで書き進めてようやくフィンが登場しカルナリアを連れて逃げ出すという展開になった時、どうにも先の展開がまずいことになり(そこは該当話の時に語ります)、全部書き直しという判断を下しました。
その際にあらためて読み直すと「冒頭、引きこみ力が弱いな」と感じたのです。
戦が起きそうだからみんな逃げているところよりも、戦そのものが起きてる方が読者を引きこめるんじゃないかと。
それで反乱勃発シーンから、それも教科書的に「何年何の月、カラント王国において反乱が発生した」のように書くのではなく臨場感あるように書こうと思い、レント視点の描写でリスタートしたものです。
自分は、プロットや設定をあまり細かく作るタイプではありません。
特にキャラについては、基本的なものはもちろん決めておきますが性格や特性、特技、口調などはそれほど設定しておきません。書いていると自然に色々出てきて、当初の設定を超えて勝手に動き出すことが多いもので、そのようなやり方にしています。
なのでレントも、「逃げるカルナリアの従者。下級貴族。平民にまぎれて逃げられる外見、決して美男子ではないし背も高くない。武芸の腕は大したことなく知恵と機転で活躍するタイプ」程度にしか決めていませんでした。
でも彼視点で書き始めてみると今度は、王女につけられる騎士だろうに武芸からきし見た目も平凡というのはどうなのかと気になり、そこで王女付き騎士の従者ということに「その場で」決まりました。自分のキャラ作りというのは大体そういうものです。
ついでに言うと、世界設定で「魔法ありの世界」とは決めていましたがこれもオーソドックスな火水風土の四つに「天」を加えた五属性、程度で、平均的な魔導師はどのくらいのことができるものなのかは決めないままでした。魔法具すなわち魔法を付与して使う道具のことも、そういうものがあるというくらいしか決めておらず、したがって冒頭でレントが耳にする「ガルディス殿下のご謀叛!」という声も最初の投稿版では「伝えられる」と書いてあるだけでどういう手段でかははっきりさせていませんでした。ですが書いていくと途中で「声を大きくする魔法具」が出てきて、王宮で使ってないわけないよなと、カクヨム様への投稿およびそれを反映させたこちらの改訂01話では「魔法具で」伝達されるという一言が追加となりました。
>国王ダルタスは、五十歳を越えなお壮健であり続けた。
>すでに七人の子がいる上で、若い女官に手を出し、妊娠させた。
この部分も後付けです。王の名前は最初は決めていませんでした。速攻で討たれてしまいますしカルナリアがいちいち「○○お父様」などと呼ぶわけもなく「国王」ですませられるだろうと。
しかしやはり色々書いてゆくと、名前はあるだろうないとこっちも困ると、途中でダルタスと決めて、それを改訂版に反映させました。
ちなみにここで妊娠させた女官および子供は、反乱に際して殺されてしまっています。
本文では一行ですませた「炎上する王宮を逃れ出て、夜明け前の王都を抜け、西へ向かう。」というところは、最初は「王宮から外へ出る秘密の抜け道」とか「カルナリアの学友でありこのとき王宮に滞在していた貴族の少女たちを、王女の影武者としてあちこちへ走らせ、護衛騎士たちにも王女本人と思いこませて全力で護衛させる」「平民兵士が狂騒状態で暴れている王都を少人数ごとに分散して通り抜け郊外で合流」などの様々な方策を騎士団長ガイアスが指示し王都脱出作戦が展開される……というように書いたのですが。
第一話でそれを延々と描くのは物語のスピード感を失わせる、最初の視点保持者として登場させたレントの印象が薄れる、情報過多で読者を逃すなどの欠点が書いた後から浮かんできて、全面カット、その辺は省略して「王都から逃れた」だけですませることにしたものです。
結果的にそれでよかったと思っています。
以下は先のネタバレありの解説です。
たっぷり空白行を置きますので、今後のネタバレを知らずにいたい方はここでお戻りくださいますよう。
レント視点では結果のみを知らされた、国王討死についての解説。
国王その人を守る親衛騎士団の面々は当然ながらカラントでも屈指の強者たちでした。国内に四人いる「大魔導師」もひとり滞在していました。だからこそ忍び組の『風』はあらゆる手段を用いて彼らを排除しようとし、毒や罠も使い半数ほどを戦闘不能にしてから兵士を呼びこみ襲いかかっています。王だけが知る逃げ道は、それを管理するのが『風』の者だったのでふさがれていました。
そして玉座近辺で死闘が繰り広げられました。守る側は数十人ですが、カラント最強といわれる国王そのひとの親衛騎士や大魔導師がおり、反乱軍は四桁にのぼる膨大な犠牲を出し、その上でようやく討ち果たしました。そりゃ国王を討った瞬間の「かちどき」がものすごいことになるというものです。
のちにレンカ視点でわずかにしか語られませんが、「7」番レンカはもちろん、「3」のじーさんことディラス、「4」の最強弓士バンディルもその戦闘に参加して何人かの親衛騎士を討ち取っていましたし、「5」のギリアは大魔導師を止めるのに全力を尽くしていました。「2」のダガルはあいにく別なところで国王陛下のもとへ駆けつけんとする騎士たちを粉砕しまくっていたため、彼視点の外伝では国王討伐の話は出てきません。
その戦闘による被害が甚大だったため、反乱軍側が混乱しカランティス・ファーラを確保し損ねたという側面もあります。もちろん忍びトップの「1」のグレンは戦闘そのものに意識をとらわれることなく配下の忍びたちを全力で動かしていたのですが、それでもなお入手できず、カルナリア宮へ運びこまれた上にカルナリアも逃げ出したという情報が届いたのもしばらく後になってからでした。
仕方ないのですが……結果としてガルディス側にとって最悪になってしまった状況を、あの世から見たグレンの怨念たるやいかに。
西へ逃げ続けた王女一行。
しかし捕捉され、このままでは終わるというところへの「唯一の脱出方法」提示。
これを思いつき、カルナリア本人はまだしもエリーレアに受け入れさせた騎士ガイアスが本当に偉大です。歴史を変えた人物です。その彼を選んだのがカルナリア本人だというのも大きい。
かくしてカルナリアの逃避行は始まりました。
最後まで書き終えてからこうして見直してみると、基本設定や初期プロットではほとんど何も決めていなかったなあと我ながら苦笑します。
今だから白状しますが、カランティス・ファーラは第一話および事前の設定構築時点では「装着するとその人の能力の色合いに変わる」としか決めておらず、「健康にしてくれる」はもちろん、ずっと後で出てくる「装着の儀」や「神々の世界」なんてまったく考えていませんでした。「太陽王」「真鏡王」も。あれらはすべて、プロットを下敷きに実際に本文を書いていくうちに出てきたものです。
カルナリアとフィンの関係もそうですし、レント、エリーレアの生死も実ははっきり決めていませんでした。前述のプロトタイプ版では二人とも『風』に捕まり薬でアヘって何もかも白状しますが生存してはいましたし……本当に、よく300話書き通し、まとめられたなと以前の自分に感心します。
……こんな調子で、ネタバレなし、ありをできるだけ区別しつつ、最終話まで書き終えた後からの各話解説を重ねてゆきたいと思っております。




