第13話 つながる夢と新たなる女王
「最後の条件が整ったわね」
おれとカナサの前で、女王が威厳のある重々しい声音でつぶやいた。
「妖精界でふたりの夢が交差すること。これがもし妖精界で女王がいなくなってしまう事態に陥った場合に備えられる唯一の方法。そして、新女王が即位するためのお披露め式の時」
女王は杖を持っていないほうの手を腰に当てて、おれたちに聴いてくる。
「さあ、リコス、香奈ちゃん。答えを聞かせて?」
まずおれが声を発した。
「短い期間だったけど、どれだけ人間が大変かよくわかったよ女王。やっぱりおれは人間になりたい。理屈どうこうじゃない、憧れなんだ」
次にカナサが声を発した。
「わたしも。短い期間でしたけれど、妖精のちからを、こっそり夜に使って空を飛び回ったり、物を自由に動かしたり、他人に同化したり……とても楽しかった。だから妖精になれるのなら、女王でもなんでもなろうと思います」
女王が、ゆったりとした様子でうなずいた。
「決まりね、みなの者、聞こえるわね。本日をもって新女王が即位します。今後も妖精界の発展のため、人間界を含めて探索と発掘に精を出してちょうだい。ふがいないわたくしをいままで支えてくれてありがとう。おかげで妖精としてよい生を送ることができました。あとは任せます」
そう言い残すと、女王はこつぜんと姿を消した。
白い雲でできた地面に杖と冠と首飾りが落ちている。
「つけてやるよ」
「うん」
おれは、妖精の新女王となったカナサに三種の王器をつけてやった。
「どうだ?」
「……まだわからないけど、確実に人間じゃないって気になってくるわ」
「ははっ、人間じゃないってどんな気分だそりゃ」
「あ、あなただって似たようなものじゃない! もう人間なんでしょう!?」
「ああ……そういや、時間の経過がやけに早く感じられるかもしれねえ」
「でしょう!?」
「くっ、はははっ」
「えっ、へへへっ」
おれたちは互いに笑い合い、背中を向け合った。
つがいという規約に縛られたとはいえ、互いになくてはならない存在だ。
例えもう会うことがないとしても、絆は深く結ばれている。
あいつが困った時は、人間界からおれが助けられるはず。
おれが困った時は、妖精界からあいつがおれを助けるはず。
そう。
おれたちは、つながっている。
「じゃあな」
「ええ、元気で」
おれは、妖精になりたいと言った少女の、望んだ姿を最後に見て、妖精界を去った。
人間界にはもう彼女の姿はない。
代わりにおれの姿がある。
リコスではなく、鈴木理虎の姿がある。
斉藤香奈のいない人間界がやってくる。
リコスのいない妖精界がやってくる。
悲しくても、怒りが混じっていても、喜びと楽しみを夢の糧として、おれたちはこれからもそれぞれの世界で生きづつける。
互いのいない世界で生きつづける。
―― おわり ――




