Healing Night 1
初めて食べるピザに、エトナは大興奮だった。
シーフード&ビーフにチーズ増し増しで頼んだピザに齧りついたエトナは、伸びるチーズをうにょ~んと垂らしながら一生懸命に口に運び、キラキラした瞳で「すごく美味しいです……!」と言ってくれた。
「ほっぺ、ソースついてるよ」
「ど、どっちのほっぺですか?」
「こっち」
そう言って私はエトナの右頬についたトマトソースを指で拭ってやり、そのまま指先を口に含んだ。ほどよい酸味のソースを味わいながら「綺麗になったよ」と言うと、彼女はトマトソースみたいに赤くなって「ありがとうございます……」とふんにゃり笑った。
サイドメニューの骨付きチキンやサラダも頼んだおかげで食卓は賑やかで、
「たまには、こんな晩御飯もいいね」
食べ終えて何気なく言った私に、エトナも頷く。
だがすぐに彼女は「でも……」と言葉を繋いで、
「明日は絶対、わたしが作ります……! ピザよりずっと美味しいご飯を用意して待ってますから」
と、なにやら力を込めて言った。
「うん、楽しみにしてるね」
私はそう返して、空になったピザの箱や容器を片付ける。
そうして夕飯を終え、各々でお風呂に入り──20時過ぎ。
「で、では……! 家事を忘れてゲームに没頭していた罰として今夜はわたしがトーコさんを癒して差上げますので……!」
お風呂上がりの私を待っていたのは、寝室のベッドで正座しているエトナだった。
先に入浴を済ませた彼女は、ワンピースタイプのふわふわもこもこしたパジャマ姿。対して私はベロア生地のパーカーとショートパンツである。
「わりと冗談だったんだけど、ほんとにするの?」
「します……! いえ、させてください……! いつもお世話になっている感謝も込めて、せいいっぱいおもてなししますので……!」
エトナは意気込みいっぱいという様子だった。
私としてはエトナが一緒にいてくれるだけで日々に張り合いが出てとても助かっているから、むしろこちらが感謝したいくらいなんだけど……でも、せっかく彼女がおもてなししてくれるというなら、断ることもないだろう。
「じゃあ、お願いするね。どうすればいい?」
「ベッドにどうぞです……!」
エトナがさっと端に寄ってスペースを空ける。
私がベッドにうつ伏せになると、エトナは「失礼します……」と呟いて、背中に馬乗りになって跨ってきた。彼女のやわらかい太腿が私の脇腹のあたりに触れていて、温かい。
なんて思っていると、エトナの細くしなやかな指が私の首もとあたりに添えられる。
「マッサージ、しますね?」
言って、エトナは私の首もとをふにふにと指で押してきた。
小柄で細っこい彼女らしい、優しい指圧。
明らかに不慣れな手つきだったが、せいいっぱい気遣われているのが伝わってきて自然とリラックスした吐息がこぼれる。
「あの、どうでしょう……?」
肩甲骨の上へと指を移動させつつ、エトナが不安げに訊いてくる。
「気持ちいいいよ……でも、もうちょっと強くてもいいかな。遠慮せずぐりぐりしてくれていいから」
「ぐりぐり……できるかどうか分かりませんけど、よいしょっ……!」
「んっ……」
思った以上に強く、そして気持ちよく指圧されて声が漏れる。
「あっ、えっと、痛かったですか?」
「ううん、気持ちよすぎただけ。その調子でやってくれると嬉しい」
首だけ回してエトナを見ながら言うと、彼女は表情を綻ばせて「……っ! がんばります!!」と弾んだ声で返事をしてマッサージを再開した。
背中の上半分を入念にマッサージしてくれた後、エトナは私の背から降りて下半分も丁寧に揉み解してくれた。かと思うと、エトナの手がピタっと止まる。
「マッサージはお終い?」
身体を捩って半身になって尋ねると、エトナは両手を膝の上にちょこんとのっけてもじもじしながら、
「えっと、まだ終わりじゃないんですけど……その、トーコさんの……お、おしりって……マッサージしてもいいですか?」
「いいけど、どうしたの?」
「い、いえ、なんでもないです……! い、いいんですよね……?」
頬を赤く染めるエトナに私は「今さら恥ずかしがらなくてもいいのに」と微笑する。
そんな余裕たっぷりの私とは対照的に彼女は、
「で、では……! わぁ……柔らかくて、でも引き締まってて……わぁ……!」
と、顔を真っ赤にしながらおしりをマッサージし始める。
別に触られること自体は全く恥ずかしくないのだが、照れながらたどたどしい手つきで私のおしりを揉んでくれるエトナを見ていると、なんだかいけないことをしているみたいでむず痒くなってきた。
やがてエトナの手は、おしりから太腿、ふくらはぎへと移っていく。
「……トーコさんてやっぱりスタイルいいですよね。背も高いし、すごく引き締まってて羨ましいです。……おっぱいも大きいですし」
「ふふっ、ありがと。でも、私はエトナみたいに小さくて可愛い女の子になりたかったけどね。もし身体の取替えっこができるなら、二人で取替えよっか」
「そんな、ダメです……! トーコさんは今のままがいちばん素敵です……!!」
ふくらはぎを揉み解す手に力を込めて、エトナが言う。
それに私は苦笑して、
「そっか。背とか胸とか、ちょっと育ち過ぎたかなってコンプレックスだった時期もあったから、そういう風にストレートに褒めてもらえると嬉しいな」
「コンプレックスだなんてそんな……! わたし、トーコさんに抱きしめてもらえるととっても安心します。小さくて弱っちいわたしのことを全部ぜんぶ優しく包み込んでくれるみたいで、本当に安心するんです」
エトナはマッサージの手を止めて、まっすぐに言う。
「だからその……トーコさんは、そのままでいてください。わたしも、その……トーコさんと出会うまではずっと自分の身体のことなんて何もかも嫌いだったんですけど……でも、可愛いって、綺麗って言ってもらえて、生まれて初めて自分が自分でよかったなって思えるようになったので……その……えっと、あれ? わ、わたしいきなりなに言ってるんでしょうね……!」
頬どころか耳の先まで赤らめてあたふたするエトナ。
言葉を口にしながら、何か込み上げるものがあったのか、彼女の瞳は少しばかり潤んでいるようだった。
私は起き上がってベッドのヘッドボードに背を預けるように座り、両手を広げる。
「おいで」
その一言に誘われて、エトナは無言で私の胸に埋まってくる。
「こんな感じ?」
エトナのことを優しく抱きしめながら、耳元に囁く。
するとエトナは「はい……」と小さくつぶやき、
「とろけちゃうくらい幸せで、ずっとこうしていたいくらいです……トーコさんすごくあったかくて、いい匂いがします……」
「エトナもあったかくていい匂いがする」
お互いの体温や感触、息づかい……私たちはしばらく無言でそういったものを感じながら過ごした。言葉は不要で、時折り抱きしめる力に強弱をつけるだけで親愛を伝えるのには充分だった。
しばらくして私は無意識に、
「癒されるなぁ……」
そう呟くと、エトナがゆっくりを顔を上げた。
その表情はとろけてふんにゅりしていてとても可愛らしくて、もう一度ぎゅぅぅぅっと抱きしめてあげたくなるほどだった。
だが、それより先に彼女が熱っぽい声音で言う。
「まだ、マッサージだけしか終わってません……もっともっと、トーコさんのことを癒してあげたいです……!」
「まだ、何かしてくれるの?」
「もちろんです」
とろとろの笑顔に浮かべ、エトナはパジャマのポケットから何か細長いものを取り出した。
「……耳かき?」
「はい。次は、お耳掃除です」
そう言ってエトナは私から名残惜しそうにしながらも身体を離し、ベッドの上で正座した。そうして、ワンピースの裾から露出した白くて柔らかそうな太腿をぽんぽんと叩いて、
「どうぞ、トーコさん……その、膝枕です」
そう言ってはにかみ、私を誘う。
私はごくりと喉を鳴らした後、彼女の太腿に吸い寄せられるように近づいた。
──長い夜は、まだ終わらない。
こういうの無限に書き続けたいな……ってキモチ。




