(12)
五芒星都市の一角であるムブルスト。
王都よりも貴族や騎士が多く住んでいることから貴族都市と言われ、クルスよりも絢爛豪華、荘厳華麗という印象が強い都市である。そのためか、高いプライドを持った貴族が多く、エレナ王国を担ってきたという自負を強く持っている側面も持つ都市だ。
現在、その貴族都市は反乱軍の手に堕ちていた。
マルコラス伯爵が軍勢を集めて決起したことにより、ムブルストはマルコラスを中心とした武力派が占拠した形になっていた。
「攻め落とせ! 必ずマルコラスを捕えるのだ!!」
そのムブルストを解放するために、トーマス・クレイ率いる騎士隊が攻撃を繰り返していた。
しかし、なかなか攻め込めない。門を前にした攻防戦を何度も繰り広げているだけだった。
反乱軍の守備が堅いことに加え、元々貴族が多く住むムブルストは堅牢な都市としての面も合わせ持っていた。その役割がいかんなく発揮されていたのだ。
「ちっ。攻めるとなるとこれほど難しい都市もそうないだろうな」
苛立ちを露わにしたのは、トーマス・クレイ。
エレナ王国軍騎士隊の隊長を務めている猛者である。王族特務護衛隊の隊長であるマルスにも負けない大柄な体躯を持ち、その剣術はマルスやエリーナなどの王国屈指の実力者を凌ぐほどと言われ、王国軍最強の軍人の一人とされている。
「どうなさいます、クレイ隊長?」
「これ以上時間をかけていられない。多少無理矢理にでも行くしかないだろうな」
「し、しかし! 都市には多くの貴族の方々がいます! 彼らも全員が逆賊に加担しているわけではないでしょう」
「そうだろうが、長引けば長引くほどやつらの思う壺だ。この守りを見るに、やつらの狙いは時間稼ぎだろう」
「時間稼ぎ? その間に攻めていった軍勢がやられるかもしれないのにですか?」
「本命は別にあるんだろうさ」
「本命……?」
トーマスの言葉に、部下の兵士は首をかしげるように繰り返した。
「それよりも、他の門はどうなってる?」
「はっ。こちらと同じ状況です。ムブルストにある五つの門は完全に閉ざされ、反乱軍が堅く守っています。どうにか突破しようとしていますが、敵のオーブにうまく躱されてる感じです」
「……そうか。それじゃ、なおさらここでうだうだやってられないだろう?」
「隊長、まさか!?」
「門を攻めてる連中を一度退かせろ。俺が突破する!」
「都市への被害は!?」
「今さらそんなことを考えてる余裕もないだろう。俺たちがマルコラスを早く捕えれば、それでこの革命の動きは収まる。いつまでも、門の前で指咥えて見てるわけにはいかないだろうが」
自然と力を込める。それにつられるようにして、トーマスの右手首が強烈な光を発した。ブレスレットが発したその光は瞬く間に広がり、強い金茶色を示した。
宝玉の光だ。
直後、地面が大きく割れる。
地響きの強い音とともに、割れた地面から巨大な木が飛び出した。いきなり現れた巨木は、周囲にある物も関係なくなぎ倒して、反乱軍が守るムブルストの外門に向かって突撃していく。
さらに大きな音が響き渡った。
巨木が反乱軍を巻き込んで、外門を破壊したのだ。ゴゴゴゴゴッ、という地面が強く揺れるような音とともに巨木はムブルストの街に突っ込んでいく。人も植物も建物も関係なく飲み込んでいったのだ。
「す、すげぇ……」
「あれがクレイ隊長の――」
その光景を目にした兵士たちは感嘆の声を漏らした。
オーブ、『テッラ』。
大地を司るオーブとも言われ、具現系のオーブに分類されるトーマスの強力なオーブである。
「よし、門は開いた! あとは反乱軍を鎮圧するだけだ! 全軍進めーっ!!!」
号令を受けて、呆気にとられていた兵士たちは突撃を開始する。
雄叫びを上げながら、剣を振りかざし、宝玉を輝かせる。本当の戦いは、ここから始まるのだ。
鼓動が大きく響く。
それは自分のものだ。ドクンドクン、と響く音は脳に直接響いてくる。耳鳴りがして、意識をはっきりと保っていることが難しくなる。
それでも、エリーナはひたすらに前へと進んでいく。
止めなくちゃいけない。
守らなくちゃいけない。
彼女が抱く気持ちは王女としてのものか。国を愛する少女としてのものか。圧倒的なまでの実力を持つ彼女ですら、ピリピリとした恐怖を感じていた。
それは、確実に迫ってきている。
不意に聞こえてくる怒号や轟音が、近くなのか遠くなのかも判別できない。それほどにエリーナはのめりこんでいた。
「……はぁはぁ」
呼吸が乱れる。
目的の場所はさほど遠くない。もう間もなく着くだろう。そう考えるたびに、鼓動は大きくなるのだ。
(ポールマンは行かせてくれた。アイサやリシャールも私のわがままを聞いてくれた。だから――)
だから。
彼女は、自身の気持ちに正直でいたい。
焦りも恐れも高ぶる興奮すらも、正直なままでいたい。
その感情が、ふつふつと彼女を変えていく。
いや。
戻していく。
彼女の本来の姿へ。
そして、赤色の輝きが一気に溢れた。彼女の右手に嵌めてある指輪が、強烈に輝いている。エリーナの宝玉が秘める力、『バーサーカー』だ。覚醒系の中でも広く知られているオーブは、エリーナを『闘神姫』と恐れられる戦士へとうつす。
その光を一身に浴びながら、エリーナはキッと前を見据えた。
(見えた!!)
ムブルストだ。
華やかな印象が強い街も今は黒煙がたち昇り、その絢爛豪華な様を失っている。本格的な戦闘が始まっているのだ。先行している騎士隊が門を突破したようで、ムブルストの街を守っている大きな外門は壊されていた。
門の周囲では騎士隊とマルコラスについた反乱軍が火花を散らしていた。それでも、行ける、と判断して、エリーナも全壊になった門を強行突破する。
強靭な体躯を持つ白馬が、街の外門を駆け抜けていく。その姿を確認した兵士たちから「エリーナ様だ!」や「王女殿下!!」などの声がかけられるが、それらを無視した。
目的はただ一つ。
マルコラスを捕えることだけだ。
「どこ!? 伯爵はどこに――」
騎士隊同様に門を突破したエリーナはすぐにマルコラスを探し始める。
しかし、ムブルストは大きな街だ。王都であるクルスほどではないが、五芒星都市に数えられており、豪邸を持つ貴族が多いことから、その広大さは有名である。
まして、今は騎士隊と反乱軍が戦闘を繰り広げている状況だ。この中からマルコラスを探すのは困難だった。
さらに。
王女であるエリーナは、やはり有名人である。突然現れた第一王女を、反乱軍が放っておくわけもなかった。
「エリーナだ!」
「やつがなぜここに――!?」
「かまうものか! ひっ捕らえろ!!」
あっという間に、反乱軍が群がってきた。剣を振りかざし、無数のオーブがふりかかってくる。王女であっても、容赦のない攻撃だ。マルコラスについた彼らは、エリーナへの攻撃に躊躇することはなかった。
「……ちっ」
思わず舌打ちした。
白馬に跨ったまま、黒い十字剣を抜く。魔剣ゲインだ。
迫りくる反乱軍の男たちやオーブに対して、抜いた十字剣を横に一閃する。その動作だけで、魔剣ゲインはその力を発揮した。
暴風のような衝撃波が吹き荒れる。衝撃波はエリーナに斬りかかった反乱軍の男たちや迫りくるオーブをすべて吹き飛ばした。
エリーナのオーブである『バーサーカー』と呼応するようにして、発揮される魔剣ゲインの力は圧倒的だ。王女でありながら、エリーナが最前線で戦えるのもこの力によるところが大きい。
「ここにはいないか」
群がってくる反乱軍を一通り沈黙させたエリーナは視線を動かす。ムブルストの街はどこも激しい戦闘で埋め尽くされていた。騎士隊が門を突破したことで、反乱軍が街の奥へと後退したようだ。この様子では、あと数刻もすればムブルストは解放されるだろう。マルコラスが集めた軍勢は貴族の私設部隊や盗賊、浪人などが多い。毎日鍛錬を欠かさず、国のためにその力を行使する騎士隊と真正面からぶつかって勝てる要素がなかったのだ。
(ま、騎士隊は攻撃専門の部隊だから、当たり前か)
ともかく、この場にマルコラスの姿が見られない以上、他の場所を探さなければならない。このまま騎士隊が反乱軍を制圧するまで待つという手もあったが、エリーナは自らマルコラスを捕えることに執着していた。
戦場の臭いは、変わらない。
幼いころに感じたその臭いは、よく覚えている。およそ一○年前の大陸戦争。モラリス皇国が滅ぶ原因にもなった戦争は、大陸全土を巻き込み広がっていった。一○歳にも満たない年齢だったエリーナだが、当時の父親の様子を忘れられないでいた。
「…………」
(あの頃とはもう違う……ッ)
あれから、一○年もの月日が経った。この歳になって、エリーナは父親が語気を荒げながら戦っている裏で、戦争を止めるためにあらゆる手を使っていたことを知った。今も続く融和政策はその思いからだ。
そう。
エレナ王国が享受してきたこれまでの平和は、父親を始めとした多くの人が必死になって作り上げた時間だ。その時間の間でたくさんの命が育まれ、多くの思いが育ってきた。だから、エリーナはこの国を心から愛している。幼い頃に経験した悲惨な戦争を忘れることなく、尊敬する父親たちが作り出した慈しむべき時間を過ごし、その時代を守ろうと思った。
だから、エリーナは立ち向かった。
守ろうと思った国と時代を失わないために、力を行使した。マルコラスがどのような思いで、革命に進んだのか。彼女にとって、それは気にならないことだった。反乱を起こしたマルコラスを捕えて、これまでの時間――ようやく成し遂げた平和――を守ることに集中している。
(お父様は真の平和を作れなかったのかもしれない。だけど! 私がその想いを引き継ぐんだ!)
想いは、力に変わる。
肌が赤く染まるほど握りしめた十字剣を、何度も振るう。迫り追いすがる反乱軍を気絶させて、彼らのリーダーであり、主犯であるマルコラスの姿を追い求める。
だが。
やはり、街の通りなどにはマルコラスはいない。反乱軍が設置しただろう陣の中にはマルコラスはいないようだ。そうなれば、考えられる場所は自然と絞られる。
ムブルストは貴族都市だ。多数の貴族が居を構え、大きな屋敷が立ち並ぶ街である。当然、マルコラス家の屋敷もムブルストにある。伯爵位を授かったマルコラス家は、ムブルストの貴族たちの中でも高位になる。つまり、マルコラス家の屋敷はそれなりに有名だった。
「屋敷にいるのなら、好都合ね」
街中で追い詰める手間が省ける。
マルコラス自ら街で指揮をとっていた場合は、捕えるために街中を追い掛け回す必要があるだろう。それを考慮すれば、エリーナにとってマルコラスが屋敷で奮然と構えていることは都合がよかった。
(マルコラスの家は……)
「あっちね!」
視線を移した街の一角には、多くの反乱軍がいた。門を突破した騎士隊と戦っているようだが、あきらかに数が多い。その先に反乱軍の大将がいると見て間違いないだろう。
エリーナは、白馬を走らせた。
激しい戦闘を繰り広げている騎士隊と反乱軍の間を掻い潜っていく。エリーナが通り過ぎていった脇を無数のオーブが飛んでいったり、兵士が吹き飛ばされていった。それでも、瞳は逸らさない。その先にあるのは、やはり大きな屋敷だ。
(あれが――)
マルコラス家の屋敷だ。
離れの家屋や広大な庭園が見える屋敷は豪勢そのものである。煉瓦つくりの大きな門を構えており、その先に広がる玄関口はとても人が住む家とは思えない。美術館や博物館のようだ。
しかし、その雰囲気も壊れきっている。
大きな門の前には、やはり多くの反乱軍がいた。彼らはマルコラスが集めた烏合の衆とは違う、貴族家に仕える私設の騎士たちだ。
エリーナは白馬を降りて、大きく叫んだ。
「そこを退きなさい!! 退かないなら、力づくでいくわよ!!」
エリーナは語気を荒げて、警告する。無論、こんな押し問答が通用するとは思っていない。王国軍ほどとは言えないだろうが、彼らも訓練を受けた軍人だ。仕えている主の命令は絶対に順守し、マルコラスを護るだろう。
そうと分かっていながら、エリーナは言葉を投げかけた。彼らも、エレナ王国の民であることに変わりはないのだから。
(……ッ。仕方ない――)
再び魔剣を握りしめる。
立ち塞がる反乱軍がエレナ王国に住む者と知りながらも、エリーナは十字剣を振るった。黒い刃先は何もない空間をヒュン、と切り裂く。小さく聞こえた風を切った音は、突如として巻き起こった衝撃波に飲み込まれた。衝撃波は猛り狂う大きな波となって、反乱軍を襲っていく。反乱軍だけではない。煉瓦づくりの門も庭園に植えられた立派な木々も、屋敷さえも飲み込んでいった。
「……ッ、はぁ、はぁ――」
全てを飲み込んだ魔剣ゲインの衝撃波は、ゆっくりと霧散した。後に残った倒れた男たちや崩れた煉瓦をちらりと一瞥する。彼らは動かない。屋敷すらも容易く破壊していく衝撃波を受けたのだ。誰一人として立っていなくて当たり前だろう。それでも、彼らは一人も死んでいなかった。ただ気を失っているだけだ。
「……」
魔剣ゲインを振るったのは、もう何度目だろうか。数えることすら嫌になる。
黒い刃先を向けたのは、同じエレナ王国に住む人々なのだ。革命を企てたマルコラスに加担しているとはいえ、エリーナは同じ国の者を攻撃することに胸が痛んだ。
「あなたのせいよ、ロッシュ・マルコラス」
「おや、気づきましたか。お久しぶりですな、エリーナ姫殿下」
エリーナが振り向いた先には、太った中年の男がいた。ふっくらとした体型やボテット垂れた頬、蓄えた口髭からは汚らしい印象を受ける。年齢相応に年老いた男は、ロッシュ・マルコラス。この革命の主犯格の男だ。
「えぇ、そうね。屋敷の陰にでも隠れていたのかしら?」
「さて、どうでしょうかな。ところで、エリーナ様はなぜこちらに」
「そんなの決まってるでしょ。あなたを捕まえるためよ。騎士隊がムブルストに攻め入ったし、あなた直属の兵士たちも倒した。追い詰めたわ、観念なさい」
周囲には誰もおらず、屋敷の前にはエリーナとマルコラスの二人だけ。通りにいる反乱軍も騎士隊と交戦しており、こちらまで手が回らないだろう。エリーナはマルコラスを完全に追い詰めていた。
一方で、追い込まれたかたちのマルコラスは余裕そうな表情を崩さない。蓄えた口髭から覗く口元は薄ら笑いをしていた。
エリーナはそんなマルコラスの雰囲気に自然と身構える。
(なんで、そんな顔を――?)
窮地に立たされているのは、明らかにマルコラスのほうだ。しかし、彼は危険を感じていないとでも言うかのように自信たっぷりに立っているのだ。その姿に、エリーナは困惑した。
「何がおもしろいのかしら?」
「いえ、なに。私を捕まえるために、わざわざエリーナ様が来られると思っていなかったので。旅路は楽しいものでしたかな?」
「…………」
(ぬけぬけと思ってもいないことを)
このまま話していても埒が明かない。
「覚悟は出来てるんでしょうね?」
「さて、何の覚悟でしょうか?」
「もういいわ。あなたを捕えて、お父様の前に引きずり出す。そこで罰を受けなさい」
「それは困りますな。ここで捕まれば、確かに罰を受けることになるでしょう。しかし、私にはまだやらねばならないことがあります。そのためには、ここで捕まっている場合ではないのです」
「……ッ! 何を言って――」
「それに、罰を下すであろうお父様もご無事かどうか分かりませんしね」
ドクン、と心臓が跳ねた。
「え……?」
聞き捨てならない言葉があった。
(お父様が無事かどうか分からない!?)
マルコラスの言葉に、エリーナは動揺を隠せない。エグバートの身に危険が迫っているということなのだろうか。だが、エグバートがいるベルガイル宮殿は最も警備が堅い。反乱軍の統率や士気が高くても、そう易々と崩れないだろう。
けれど、マルコラスは自信を垣間見せながら話し続ける。
「エリーナ様も分かっていたでしょう? 私が単純な計画だけで動くはずない、と。もう間もなく日も沈む。昨日同様にここで一度手を引いてもいいのですが、時間をかけていられないのはこちらも同じなのです」
だから、とマルコラスは言葉を続ける。
その表情からは、笑みが止まらない。乾いた、残忍な笑みだ。
「だから、手を打ちました」
「手を?」
「えぇ、そうです。気づいていませんか? 私の息子がこの場にいないことに」
「――ッ!?」
そうだ。確かにマルコラスには息子がいた。父親によく似た悪名高いエルヴァー・マルコラスがいた。
だが、この場にはいない。もっと言えば、ムブルストの街にいる気配がない。反乱軍の主格である父親の危険を見て見ぬふりしているわけではないだろう。マルコラスの言うように、そもそもムブルストにいないのだろう。
では、エルヴァーはどこにいるのか。
答えたのは、もちろんマルコラスだった。
「息子には別の使命を与えていまして、今頃はそのためにクルスにいるのではないでしょうかな」
「……ッ!?」
エルヴァーはクルスにいる。
その言葉に、また心臓が強く跳ねた。
危険だ。
脳が、直感が強く訴えかけてくる。ベルガイル宮殿同様にクルスの守りも強固なはずだ。しかし、それは外に向けたものだ。エリーナも自身の目で見ている。クルスの外門に何重もの防衛線を敷いている第一師団の兵士たちだが、クルスの市街地にはそれほど部隊を配置していなかった。反乱軍の侵入を外門で食い止めるために多くの部隊を割いたのだろう。
それは当然の判断だろう。
しかし。
反乱軍がすでに外門を突破していたら、そもそもクルスの都市にいたら、どうなるのだろう。
「言うまでもありませんよね、エリーナ様」
「ッ――」
マルコラスは断定しておらず、その話は偽りかもしれない。だが、彼が信頼を置いている息子のエルヴァーがいないということが、エリーナを焦らせる。今ここで、マルコラスを捕えるべきか。クルスに引き返すべきか。逡巡する。
時間はなかった。
「どんな策をもっていても、お父様があなたに後れを取られるとは思えない。私はここであなたを捕まえるわ!」
強く言い切った。
父親のことは誰よりも信じている。反乱軍にやられるほど弱くはない。エグバートはエリーナよりも狂戦士として恐れられた存在なのだ。そんな父親が、あっさりと負けることは絶対にない。
信じて疑わないからこそ、エリーナはマルコラスだけを強く見据えた。ここで捕まえる。ここで、革命の動きは止める。確固とした意志を持って、その力を振るい、エグバートを捕えようとする。
その姿を見て、マルコラスはため息を吐いた。
「頑固なのは、父親譲りでしょうか。――それならば、仕方ありません。次の手段に移りましょう」
ニタリ、と不気味な笑みを零した。
追い詰められてもなお、マルコラスは表情を変えない。彼の口から出てきた言葉は、
「エリーナを殺せ!! 王女を殺して、やつらに恐れを与えるのだ!!」




