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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第四章 エレナ王国、大陸動乱後編
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(8)

 

 ()てつくような寒さは、治まることを知らない。

 ここは、統一大陸――パンゲアにおいてももっとも過酷(かこく)だと言われている地域だ。そこに城を構え、都を(きず)くことによって、ドンゴア帝国は繁栄を得た。

 簡単に侵略されない自然の要塞(ようさい)。厳しい環境は自国の兵士を逞しく(きた)え上げ、他国の兵士をあっというまに疲弊(ひへい)させる。長いパンゲアの歴史においても、いまだ侵略されたことのない無敵の城である。

 そこに、『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』はいた。

 ドンゴア帝国の現女王。

 すらっとした高い背丈(せたけ)(りん)とした顔立ちや雪のような白い肌からは美人という印象を受ける。容姿からも分かるように、彼女は三○に満たない歳で女王の(くらい)()いた。

 だが。

 それについて、国民は誰も是非(ぜひ)を問わない。彼女が王位に就くことは幼いころから決められたことだったのだ。

「ふふ……っ」

「どうかされましたか? 陛下(へいか)

「いや、なに。これから面白くなるなと思ってな」

「面白く?」

 彼女は会議の最中だった。

 大広間に置かれた巨大な円卓(えんたく)に、多くの大臣が座っている。国政を任されている者から、軍事を任されている者まで、全ての大臣がこの場に揃っていた。

「そうだ。――だから、緊急会議を開いた。みなに、今後について話しておきたくてな」

「今後、ですか? わが国は他国と戦争状態でもありません。怪しい者が数名国内に侵入したようですが、それも大事に至るとは思えませんが――」

「そのような考えではぬるいぞ、マウアー。わが子らが知らせてくれたのだ。予見者よりも信頼できる情報だ。勇者はどの国ものどから手が出るほど欲しい存在だ。その機会をみすみす逃せなかった。ただそれだけだ」

「は、はぁ……」

 しかし、その機会は結局逃している。

 それすらも『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』は楽しんでいた。自分の思い通りにいかないことに不機嫌にもなっていない。今の状況を心から楽しんでいるのだ。

「次の手も打ってある。――しかし、現実は私の予想を超えてきたのだ。よもや、エレナ王国で革命の動きが起こるとは思わなかった。まぁ、だいたいの差し金は見当つくが、それをただぼーっと見ているだけなのはつまらないだろう? そこで、お前たちに聞きたいと思ってな」

「――ドンゴア帝国の身の振り方、ですね」

 別の大臣が、答えた。

「そうだ。勇者について遅れをとり、世界情勢についても遅れを取ってはいけない。南が東に攻めいったことも少なからず関係しているだろう。――世界は、これからどんどん動くぞ」

 そうして、ニヤリと不気味な笑みをこぼした。

「では、我々も侵攻を?」

 ドンゴア帝国も南のゴルドナ帝国と同様にエレナ王国、クルニカ王国とは親交が浅い。冷戦状態ではあり、敵対関係はいまだ根強いのだ。

「エレナ王国の革命の動きに乗じて、我々もエレナを攻めますか?」

「ふむ。それも一つの手だろう。だが、それではゴルドナと何ら変わりがない。奴らは技術革新を起こしていい気になっている。そのような奴らの二の足を踏むような真似は取りたくないのだ」

「……そ、そうですね。我々は誇り高いドンゴアの民。南の野蛮な連中の後を追うなどあってはならなりません」

「あぁ、そうだ。われらは古くから大陸最強と言われてきたが、それも今はゴルドナにとって変わられようとしている。私にはそれが歯がゆい」

「……」

凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』の言葉に、集まった大臣たちは何も返せない。

 それをいいことに、『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』は言葉を続けた。

「そこで、ドンゴアが南に後れを取らない良い案を考えた」

「遅れを取らない良い案ですか?」

「あぁ、そうだ。――我々は、西に侵攻する」

「――ッ!?」

「に、西に!?」

「へ、陛下、それはッ――」

凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』の宣言に、集まった大臣たちは仰天と困惑の表情を浮かべた。円卓を囲む誰もが、ドンゴア帝国の西にある国を思い浮かべたからだ。

「そ、それはまことの考えですか!?」

「あぁ、そうだ。西への侵攻はゴルドナやグルティアでさえもできないだろう。それを我々が行うのだ。世界中に、大陸最強は誰か思い知らせてやるためにもな」

凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』はやはり不気味な笑みをこぼしていた。




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