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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第四章 エレナ王国、大陸動乱後編
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(7)

 

「完璧にバラバラになっちまったな」

「……えぇ、そうみたいですね」

 作戦は成功した。

 だが、その結果として残ったのは旅の仲間がバラバラになってしまったというものだった。

 突如現れた『執行者(エクスキューター)』のカイトから逃げることが出来た大地の傍には、ティドとリーシェの二人がいた。そうだ。エリーナやリシャール、国境まで案内をしてくれていたアイサとは(はぐ)れてしまったのだ。

 気が付けば、太陽が空の頂点まで昇っていた。

 大地たちがいる場所はノーラン公国側からエレナ王国の国境を少し越えたあたりだ。『四人の処刑者(クアトロ・エヘクトル)』たちとの激しい戦闘やカイトの介入によって、大きく場所を変えていたようだ。

 ティドは持参していた地図を取り出して、正確な場所を把握しようとする。その様子を見ながら、リーシェが尋ねた。

「これからどうするの?」

 尋ねたリーシェは、途方に暮れた表情をしている。こんな状況に(おちい)るとは思ってもいなかったようだ。

「……。エリーナ様も予定通りクルスに向かわれるでしょう。歩いたら馬車よりも時間がかかってしまいますが、僕たちもクルスに向かいましょう」

 しばらく無言だったティドは改めて考えを口にした。

「あぁ、そうだな」

「うん、わかった」

 大地たちは、ノーラン公国の公都アステーナでエレナ王国の革命の動きを聞いた。すぐにアステーナを出た大地たちはエレナ王国の都であるクルスに向かっていた。離れ離れになってしまったが、当初の目的であるクルスを目指すことにする。

「ところで、歩いたら、どれくらいかかるんだ?」

「アステーナから馬車で一日以上かかるんですよ。まだ半分くらいしかきていませんから、また一日近くはかかるでしょうね」

「ま、まじか~。馬車の定期便とかないのか?」

「近隣に小さな町がありますが、五芒星都市があの状況では定期便が動いているかどうか……」

「歩いて行ったら、間に合わなくなっちゃうかもしれないよ!?」

「……なんとかして、馬を得ましょう。そうすれば、まだ早く着きます」

「分かった。とりあえずその町に向かうか?」

「いえ――。ここら辺の土地には心当たりがあります。もしかしたら、町まで行く必要もなくなるかもしれません」

「どういうことだ?」

「僕に任せてください」

 含みを持たせたティドの言葉を怪訝(けげん)に思いながらも、大地とリーシェはティドの後をついていった。



 その頃。

 大地たちと同じように、必死の思いで戦場から遠ざかったエリーナのそばにはリシャールとアイサがいた。

「はぁはぁ……。もう大丈夫みたいね」

「そ、そうだね……。でも、ここどこだろう?」

 彼女たちは、大地たちと全く違う方向に逃げていた。大地たちと(はぐ)れてしまったばかりか、自分たちがどこにいるのかも分からなくなってしまったのだ。

「おそらくノーラン公国のほうに戻ってしまったみたいです」

「分かるの?」

「あれを」

「あ――」

 アイサが指を指した方向には、見たことのある馬車があった。公都アステーナからエレナ王国に向かう際に用意されていた豪奢な造りの馬車だったのだ。どうやら戦闘の激しさから逃れるように、馬車を曳いていた馬がここまで逃げてきたようだ。

「どうします?」

「……クルスに向かうわ。大地たちがどこに行っちゃったのか分からないけど、目的は同じなんだもの。必ずクルスに向かってる。私たちも急いで向かうのよ」

 公都アステーナを出てからすでに一日以上過ぎている。エレナ王国で起こった革命の動きがどのような状態になっているのか。エリーナはそれが心配だった。

「彼らを探さなくて大丈夫ですか?」

「そりゃ心配だし、合流したほうが安全かもしれないけど。――大地も言ってくれたわ。私の気持ちはどうなのかって。私はすぐにでもクルスに向かいたい。大地たちも心配だけどティドがついてるから、きっと大丈夫よ」

「……わかりました。私もクルスまで同行します」

「え? でも、あなたはエレナまでの案内じゃ……」

「今の状況を見て、簡単にアステーナに引き返すことはできません。教皇猊下よりあなた方を安全に送るように言われています。勇者殿を見失い、このような形でエレナの王女殿下を見送ることなどできません」

「そう? けど、クルスまで来るってことは、あなたも今起こってる動きに直面することになるわ。ノーラン教会としてそれはいいの?」

「理由ならあります。『執行者(エクスキューター)』であるカイトが勇者を(さら)いに来たのです。同じノーラン教所属の者として見過ごすわけにはいきません。カイトがあのまま勇者を追うのであれば、案内人の私もクルスに向かっても大丈夫でしょう」

「そういうことね。わかったわ。リシャールも大丈夫?」

「うん。僕も大地たちが心配だけど、同じくらいエレナのことが心配だから。クルスで合流すればいいと思う」

「そうね。それじゃ、向かいましょうか」

 リシャールの答えを聞いて、エリーナはニコッと笑った。

 ここから歩いてクルスまで向かうのは無茶だ。しかし、エリーナたちの前には最適な移動手段があった。

「大丈夫、リシャール?」

「う、うん。なんとか」

「よし。それじゃ行こう」

 白馬に(またが)ったエリーナたちは、もう一度南を目指した。



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