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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第三章 ノーラン公国、大陸動乱前編
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(18)

 

 朝日はまだ昇らない。()み切った空気が美味しく感じられる時間帯にも関わらず、この場の雰囲気は殺伐(さつばつ)としていた。

 貴族都市と呼ばれるムブルストの一角。

 そこに数えきれないほどの人が集まっていた。その場にいる多くの人が血走った目をしていて、明け方とは思えない闇のような狂気さを感じさせてくる。

 彼らの前には簡素な台が設けられていた。そこに一人の男が立っている。ロッシュ・マルコラス伯爵(はくしゃく)だった。

「準備は全て整いました」

「そうか、分かった」

 臣下の報告に、マルコラスは頷いた。

 そして、伯爵(はくしゃく)は向き直る。彼の眼前に集まった数えきれない人の群れに向かって、大きく口を開いた。

「――ついに、我らの計画を実行に移す時が来た。現体制は貧弱(ひんじゃく)なクルニカとの関係を密にしている。しかし! この世界をリードしていくのはゴルドナ、ドンゴアの両帝国に変わる! いつまでも古臭い血族関係に捉われている場合ではないのだ。世界の情勢が変わるまえに、エレナが変わらなければならない! そうしなければ、エレナは世界の流れに飲み込まれてしまうだろう!! いつまたあの戦争が起こるか分からないのだ!!! その時にエレナが(しず)まないように、我々は両帝国と和平を結び、パンゲアを縦に分断する! しかる後に、東西の国を平定し、大陸統一を為す!!」

「おぉ!!」

 マルコラスの演説に、群衆が大声で(こた)える。それは地鳴りにも似た響きだ。地面を震わせ、木々を揺らすほどの叫びはムブルストの一角で木霊(こだま)する。多大な怒りを(ふく)んだ叫びだった。

 その中心にいるマルコラスはさらに続ける。

「我らエレナが生き残っていくためにも、現王エグバートでは力不足だ! 奴は目先の安全に走り、それぞれの国と平和条約を結んだ。だが! エレナが各国に囲まれている状況は変わっていないッ!!」

「そうだそうだ!」

「我々は今も、いつ脅かされると知れない平和にびくびくとしている。それでは駄目なのだ! 真の平和のために、なんとしてもこの窮地(きゅうち)を乗り切れなければなない。それはエグバートでは()し得ない。我々自身で勝ち取らなければならないのだ!」

「そうだ!」

「あのヘタレな親和王には任せてられねぇ!」

 マルコラスの言葉に、(つど)った人たちは声を重ねていく。この場にいる誰もが、マルコラスの話す事こそが正しい事だと信じている。

「そのためにも、奴を失脚(しっきゃく)させ、よりふさわしい体制を作り出さなければならない!! 真の平和のために! 剣を取れ! 宝玉(オーブ)を輝かせろ! 我らの国は自身で守れ! 貧弱な王に国を守らせるな!! 王都を落とせぇ!!!」

 マルコラスは力の限り声を張り上げた。

 そして、最後に。

「進軍せよ!!」



 そうして。

 長い一日が始まりを告げた。


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