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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第三章 ノーラン公国、大陸動乱前編
57/83

(9)

 

 統一大陸の北部には大きな山脈がある。

 その山脈はドンゴア帝国内にも連なっており、雪国としての象徴である雪景色をさらに濃く見せている。

 そう。

 ドンゴア帝国は年中雪が降り積もっている極寒の国である。

 季節感を得られないほど雪に(おお)われた国だが、それはドンゴア帝国に君臨する女王の力によるものだと言われている。つまり、女王のオーブによってドンゴア帝国は一年中雪に覆われているのだ。

 そのため、付いた名が『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』。

 その名の通り、氷の女王という意味である。

「失礼いたします」

「よくきた」

 謁見の間を訪れた部下を、『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』を待っていた。

 ようやく二五歳を超えたというまだ若い女王である。それでも、すらっとした背の高い身体や雪のような白い肌と凛とした顔立ちは、対面する者に威圧感を与えてくる。さらに、まさしく氷である冷たい瞳で見つめられれば、彼女に歯向かおうとする者はいなかった。

 女王としての素質も申し分なく、三つ上の兄ですら、彼女が王位につく事をあっさりと了承したほどである。いや、ドンゴア帝国の王位につくのは、彼女でなければならなかったのである。

「はっ。何でしょうか、ジェリード様」

「お前に頼みたい事がある」

「ご命令とあれば、何なりと」

「私の可愛い息子たちが教えてくれたのだ。この国に(くだん)の勇者が潜り込んでいるようなのだ」

「勇者とは、あの降臨したという?」

「あぁ、間違いないだろう。エレナが(かくま)ったようだが、勇者の価値は高い。なんとしても私も欲しいのだ。勇者を連れてきてくれまいか?」

「かしこまりました。尽力をつくして、勇者を連れて参ります」

「あぁ、頼むぞ。どのような目的で我が国に入っているか知らないが、ちょうどいい機会だ。勇者の力を我が物にする」

「はっ」

「あぁ、そうだ。勇者は何人かの者と同行しているようだ。そやつらは殺して構わない。欲しいのは勇者だけだ」

「かしこまりました。ジェリード様のお心のままに」

 女王は命令した部下を下げさせて、窓の外へと視線を移した。外では今も雪が降り続いている。一つ一つの雪を認識する事は難しい。しかし、『凍てつく女王(ジェリードレジーナ)』には降っている雪一つ一つに愛しそうな表情を見せた。

(ふふ、楽しくなりそうだ)




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