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その町に、僕が引っ越して来たのは小学三年生になる前の春休みだった。
父親の転勤が決まり、僕も一度も訪れたことのない県の学校に転校することになった。当初は嫌だ嫌だと駄々(だだ)をこねていた僕だが、単身赴任するというわけにも行かなくて、家族全員で引っ越しする事になったのだ。
初めての引っ越しと転校という事もあり、戸惑いばかりの日々が続いた。転校先の学校は一学年にクラスが二つしかないというほどの小さな規模であり、友達同士の輪がとても強かった。そのため、なかなかクラスに馴染めないでいたのだ。
その時に声をかけてくれたのが、後々に親友と呼べるグループの子どもたちだった。
「おい、俺たちと友達になろーぜ」
第一声はそんな軽いものだった。
引っ越してきて、同年代の子がそう声をかけてくれた事もあって、僕は彼らとすぐに打ち解けていった。
栄えているとはとても言えない町には遊ぶ場所も限られていて、僕たちは学校帰りには近くの山で陽が暮れるまで遊んでいた。鬼ごっこ、かくれんぼ、ドロケー、秘密基地、探険隊などなど思いつく遊びはほとんど遊びつくした。気がつけば、この山は僕たちの庭みたいになっていた。
そうして、僕と彼らはどんどんと仲良くなっていって、そのうちにお互いの家に泊まり合うようにもなっていった。その事が本当に嬉しくて、僕は毎日両親にその事を報告していた。今日は誰と遊んだ、明日は誰の家に泊まりにいくといった事を、嬉しそうに笑って聞く両親の顔を今でも覚えている。二人とも僕の事を不安に思っていたようで、僕が友達と仲良くしている事を聞いて安心していたようだった。
そんな僕だったから、あの出来事は本当にショックだった。
それは僕だけでなく、僕の周りの人たちもそうだった。特に両親の驚きと悲しみは大きかったようで、僕の網膜にその時の二人の表情がいまもこびりついている。両親の顔が頭から離れないのだ。
だから、僕は何度も何度も「ごめんなさい」と謝った。
声が枯れるまで、何度も何度も。




