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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第二章 クルニカ王国、伝承の地編
45/83

(27)

 

 黒煙は、いまだにはるか空へと(のぼ)っていっている。

 巨大な橋の上では悲惨(ひさん)な光景が広がっていて、視界には焼け()げた木々や崩れた建物の瓦礫(がれき)が散乱している。その中に見える倒れた無数の人間が、現実をさらに地獄へと描き変えている。

「――ルト殿下(でんか)! エルベルト殿下!!」

 そんな視界の先から聞こえてくる声に、エルベルトは顔を上げた。

「ここにおられましたか、殿下」

「ノランか」

「やりましたな、殿下! ゴルドナ軍は撤退して行きましたぞ」

「――あぁ、そうだな」

「……? どうなされました、殿下?」

「いや、何でもない」

 これは、単なる喧嘩(けんか)じゃない。戦争なのだ。たくさんの人が命を()して戦った結果なのだ。国のために戦う事を選んだのは彼らであり、結果としてクルニカ王国は危機を脱したのだから、本望と言ってもいいかもしれない。

 しかし、それでも。

「……王家の人間が口にしていい言葉じゃないだろうが、苦しいな」

 ぽつりと本音が(こぼ)れた。

「殿下……」

「すまない。弱音を見せてしまったな」

「いえ、幼少の頃より殿下を見てきたのです。殿下のお気持ちは痛いほど分かりますぞ」

「……ありがとう」

 ノランの号令を聞いたのか、続々と部下たちが集まってくる。

 やりきったという達成感に満ち溢れている者、身に着けていた(よろい)が壊れている者、一人では歩けないほどに傷を負って肩を借りて歩いている者など様々だ。

 それでも、敵の脅威から祖国を守り抜いたという事実に、彼らは高揚していた。

「やりましたよ、エルベルト様!」

「あぁ、やってやったぜ! クルニカを()めるなってんだ」

 深い傷や怪我を追いながらも、充実した表情を見せる彼らを見て、エルベルトはグッと込み上げてくるものを感じた。

(今は彼らの功績を称えよう)

「よくやった、みんな! ゴルドナの魔の手から我らが国を守ったんだ! これで、クルニカ王国は救われた」

「はいっ!」

 嬉しそうに返事する兵士たちにつられて、エルベルトは目頭が熱くなってしまう。しかし、これで終わりではない。脅威は去ったとはいえ、ゴルドナ軍がまた攻めてこない保証はなく、ヨーラスブリュックに駐屯していた部隊も壊滅状態だ。

「民間人への被害は?」

 すぐさまエルベルトは状況把握に動く。

「こちらも深刻です。死傷者の数はすぐには把握できません。またヨーラスブリュックは完全に機能を失いました。復興も簡単にはいきません。避難した民間人は一時的にセイスブリュックや近くの町へ移すべきです」

「何よりも民間人の安全が大事だ。アクス・マリナへ増援の要求を! セイスブリュックからも部隊と船を回せ! 出来る限りの民間人をセイスブリュックに移す。数日はここに野営するぞ。各地から資材も持ってこさせろ」

「了解です!」

 休んでいる暇はない。

 ここからが正念場なのだから。



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