表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第二章 クルニカ王国、伝承の地編
32/83

(14)

 

 大地たちはリシャールに連れられて、ブラン家の屋敷の前に戻ってきていた。しかし、正面の門から入るのは得策とは言えない。また、あのふくよかな女の人に見つかれば屋敷からあっさりと追い出されるだろう。

「どうするんだ?」

「こっち。裏から入ろう」

 リシャールは大地たちを屋敷の裏へと案内する。

 ブラン家の屋敷は居住地区の一番奥にあるようで、屋敷の裏は目の前が湖だった。どうやら、ここが湖に浮かぶアクス・マリナの一番端のようだ。

「みんなはあまり裏から出入りしないんだ。ここを使うのは使用人とかメイドたちが多いから、きっとばれないよ」

「本当だろうな、それ」

「もちろん。家の人は僕に厳しいけど、お爺ちゃんやメイドたちはまだ優しくしてくれるから」

(やはり、彼は――)

 最後尾で護衛の役目を(つと)めているティドは、リシャールが口にしたことを考える。おそらくそれは当たっているだろう。エリーナとリーシェも、そして大地も薄々気付いている。リシャールのこの屋敷における扱われ方が、ブラン家の人間として正しいものとは言えない。きっと、それは彼の身体的特徴に由来しているのだろう。

「ここから入れるんだ」

「ここ?」

 屋敷の裏は雑草が伸び、裏の扉は表の門よりも古ぼけて見える。頻繁に手入れが行われているような雰囲気ではない。

「うん。ここが居住地区の一番奥だから、表は威厳を出そうとしてるけど、裏はそんなに力を入れてないんだ。まぁ、使用人やメイドたちが出入りする場所だから、気にしなくていいって母上は言ってるんだけど」

「母上ってのはあの太った――」

 気にかかって、大地が尋ねた。

「うん、その人。似てないでしょ」

 と、自虐を含めて答えていると、ティドが口を割ってきた。

「その言い方は釈然(しゃくぜん)としませんね」

「ちょっと、ティド!」

 エリーナが部下を注意したが、ティドはさらに続ける。

「実の母親であれば、そのような口調では言わないでしょう。もしかして、君とこの家の人とは――」

「養子だって思った? 違うよ。僕も一応ブラン家の人間さ。ただ、この家の血を受け継がなかっただけ」

「どういう?」

 突然重たい話が始まって、大地たちは頭の理解が追い付かない。

「僕の父上はマッシュ・ブラン。だけど、母親はこの家の使用人だった」

「妾ってこと?」

「うん、そう。僕のオーブは母さんのものだった。それはブラン家の特徴とは違ったんだ。ブラン家の人間はみんな水を操るオーブを持ってることを誇りにしてるからね。そうじゃなかった僕は母上から嫌われてるだけさ」

「それで、あの扱われ方か……」

「よく家から出されませんでしたね」

「あぁ、単純だよ。父上と母上の間に産まれた子供はみんな女の子だった。ブラン家の子供で唯一の男児が僕だけだったんだ。だから、僕は家に残された。母上は屈辱に思ったみたいだけど、最悪は僕が後を()ぐみたいだから」

「ブラン家のオーブは王家であるヨーク家と同じもの。婿(むこ)養子は考えなかったんですか?」

「そういった大人の事情は僕には分からないよ。もしかしたらそういった話もしてるのかもね」

 リシャールは苦笑を交えて答える。彼の話に偽りはなさそうだ。

「気がすんだ?」

「え、えぇ。君の身体的特徴がブラン家のものと合わない理由は納得しました」

「良かった。最初はどこに行ったって疑われるんだ。本当にブラン家の人間なのかって。仕方ないことだけどね」

「仕方ないことじゃないわ」

 それまで何も言わなかったエリーナがおもむろに口を開いた。

「え?」

「一族代々続くオーブを大事にすることはとても良いことだと思う。私の家もそうだから。でも、一人一人違うオーブを持つことが当たり前なんだから、家族と違うオーブを持つことを恥じるべきじゃないわ。リシャールが受け継いだオーブは、あなたのお母さんのものなのよ?」

「…………う、うん。ありがとう」

「覚えておいて。自分が持つオーブを憎むことは、自分の両親も憎むことよ。それだけは絶対にしちゃダメ」

 きつい口調で、エリーナは(さと)した。少し面食らったリシャールだが頷く。「わかった」と返した返事は、少し声が震えていた。

 そこで会話は一段落して、リシャールは大地たちを屋敷へと招く。

 当然、リシャールが口にした母上に見つかるわけにはいかない。物音は立てないように大地たちは息を潜めて屋敷へと入っていく。

「お爺ちゃんは、三階の角部屋にいつもいるんだ」

「最上階よね? 階段は気をつけないといけないわね」

 上階へと続く階段は廊下を歩いた先にあった。幸運なことに廊下を歩いている人はいない。メイドたちはリシャールが買いこんできた大量の食材を運んでいるのだろう。ブラン家の人間はどこかの部屋にいるようだ。

 大地たちはリシャールを先頭にして、ゆっくりとした足取りで階段をのぼっていく。時折軋む階段の音にドキリとしながらも、三階に無事に着くことができた。

「廊下の突き当たりがそうだよ」

「お爺さんもブラン家の人なの?」

「うん、僕の本当のお爺ちゃんだよ。ブラン家のオーブとは違うけど、予見のオーブだから家に残れたって言ってた」

 ということは、他の種類のオーブであれば家を追い出されていたということだろうか。自虐として口にしても冗談には思えないところが恐い。それほどブラン家は名門ということを誇りにしていて、厳しい家柄なのだろう。正直、大地には狂っているとしか思えなかった。

(家族を追いだしてまで、家の誇りを大事にしたいもんなのか……?)

 疑問が胸に残るが、余計なことは言わない聞かないほうがいいだろう。予見者に会うために、このような危険を冒しているのだ。自ら見つかるような行動は控えなければいけない。

「ここだよ」

 そう言って、リシャールは廊下を突き当たりまで行った先の扉の前で止まった。

 なんてことのない木の扉だ。一階の豪奢(ごうしゃ)な造りと違って、庶民的な色合いが逆に温かいと思える。

「この階は住み込みの使用人やメイドの部屋ばかりだからね。父上や母上も滅多にあがってこないから」

「客も来ないから、わざわざ豪華にしなくていいってことか」

「うん、そうだよ」

「合理的というか、そこまで見栄っ張りじゃないというか……」

「まぁ、まだまともな金銭感覚はありそうですね」

「そういうもんか?」

「さぁ? 僕の家は騎士の家ですから、上流貴族の家庭事情なんて詳しくないですよ」

(絶対嘘だろ)

 と大地は思うが、口にはしない。

 大地とティドがぶつぶつと話している間に、リシャールはお爺さんの部屋の扉をノックしていた。

「誰じゃ?」

「僕だよ、お爺ちゃん」

「なんじゃ、リシャールか。どうした?」

「お爺ちゃんに会いたいって人がいるんだ」

「ワシに? 屋敷に上がれたのか?」

「裏口から勝手にだけど……」

「……そうか」

 短く言葉を交わして、部屋の扉が開いた。

 顔を出したのは、年相応に老けたお爺さんだった。夏前だというのに、寒いのか長袖の服を着ている。皺がたくさんはいった顔は大地たちをじっと見つめている。怪しい人物かどうか確かめているようだ。

「まぁ、いい。入れ」

 値踏みが終わって、大地たちは部屋の中へ通された。その後にリシャールが続く。

 お爺さんの部屋は至って平凡だった。エレナ王国のベルガイル宮殿で通された部屋やセイスブリュックのエルベルトの部屋とはまるで違う。アーリ町のリーシェの家のような雰囲気を抱かせる落ち着いた部屋だ。

 壁際にある棚には多くの本が収められていた。パンゲアの文字を読むことができない大地だが、そこにある本にはとても興味が引かれた。

「この本は?」

 そのうちの一つを手に取る。

「小説ですね。パンゲア大陸に伝わる伝説を元にした古い小説です」

「へぇ~」

「気になるのかの、勇者様?」

「え!?」

「し、知ってたの?」

 突然言い当てられた大地とエリーナは驚く。ティドは警戒心を(あらわ)にして、エリーナの前に立ち塞がった。

「ゆ、勇者……!?」

 部屋に入ったリシャールも、唐突に勇者という単語がでてきて慌てた。

「これでも、ワシも予見者じゃ。勇者がここを訪れることは予見しておった。隣国の姫君が来ることもの。その本は君にあげよう。ワシはもう飽きるほど読んでしまったから」

 対して、ゆったりとしたソファに腰掛けたお爺さんは大地たちをおもしろそうに見つめている。

「あ、ありがとう」

「なに。おもしろい小説じゃよ。きっと気にいると思う」

「それなら、話が早いわ。あなたに訊きたいことがあるの」

 興味を引かれた本を荷物にまとめている大地を横目に見て、エリーナが話し始めた。

「して、訊きたいこととは?」

「えぇ。トマッシュ地方って知ってるかしら?」

「……っ!?」

 エリーナの言葉に、お爺さんは目を見開いた。

「懐かしい言葉じゃ」

「――知ってるのね!?」

「もちろん。クルニカ王国に住む予見者なら知らないものはいないじゃろう」

「私たちはそこへ行きたいの。どこにあるのか教えてくれないかしら?」

「失礼じゃが、なぜ行こうとするのじゃ?」

「そ、それは――」

「言えないことかの?」

「エリーナ。正直に言ったほうがいいんじゃ――」

「僕も大地と同じ意見です。ここで隠して、情報を得られないようでは意味がありません」

「ぼ、僕も聞いていい? 気になるんだ」

 部屋の隅でじっとしていたリシャールもこの場に残ることを希望した。

「……わかったわ」

 意を決したようにエリーナは口を開く。

「勇者が降臨したことを知ってから、私はすぐに勇者を探しだしたわ」

「ふむ。それで、勇者を見つけて王女様は何をなさるおつもりなのかの?」

 それまで穏やかだったお爺さんの表情が真剣なものに変わった。エリーナが話そうとしていることに気付いたのだろうか。

「……この世界を救いたいの」

「世界を救う?」

「えぇ。予見のオーブを持つあなたなら、パンゲアが(みにく)い歴史を繰り返してきたことも十分理解してると思うわ。領地やオーブの奪い合い、報復や復讐。世界から戦争は一向になくならない。王家に生まれてから、私はずっとそういった世界を見てきた。私の代でそれを全て終わらせたい。戦争を止めたいの」

「それはつまり、大陸統一を目指す、と?」

 より一層、お爺さんの眼光が鋭くなる。

「それしか方法がないのなら、そうするわ。他に方法があるのなら、私はそれを探す! その一つが勇者の力よ」

「なるほど。決意は固いようじゃの。――して、君の意思はどうなのじゃ?」

 今度は、大地に視線が(そそ)がれる。

「お、俺は……」

 声が途切れる。

 大地がエリーナたちについてきた理由。それは元の世界に帰る手掛かりを探すためであり、彼女の夢に共感して力になれるならなりたいと思ったからだ。困難な旅になることも理解して、それでも決意は揺らいでいないと自負している。

 だから、言葉を続ける。

「元の世界に帰る方法を探すために。――そして、エリーナの力になりたいって思ったから」

 大地の言葉をお爺さんは静かに聞いていた。

「そうかそうか。いい答えじゃと思う」

 うんうんと頷くお爺さんは物思いに(ふけ)っているようにも、孫の成長を間近に見て感激しているようにも見えた。

「じゃが、先は長いぞ?」

「クルスを出たときから覚悟したことだから」

「そうか。間違いないようじゃな」

「え?」

「君は正真正銘の勇者のようじゃ。予見したときはいささか疑っておったが、人となりを見て確信ができた。ワシはそれほど力のある予見者ではない。しかし、トマッシュ地方にはもっと先の未来を見ることができる予見者がおる。その者に会えば、君が辿るべき道も見えることじゃろう」

「辿るべき道?」

「そうじゃ。パンゲアに勇者が降臨したことにはそれなりに理由があるということじゃ。ワシが伝えられることはこれくらいじゃの」

 そう言って、お爺さんはもう一度穏やかな表情を見せた。

(降臨した理由……)

 考える。

 それは大地も知らないことで、エリーナたちも見当もつかないことだった。勇者という単語から普通に考えれば、統一大陸に訪れている危機を救うことだろうか。この場合の危機というのはエリーナが危惧(きぐ)している戦争の多発になるのだろうか。そう考えることが一番しっくりくるように思えた。

「あなたはその理由を知ってるってこと?」

「――断片的にだけじゃが、予見者なら誰でも見たと思う」

「予見者なら誰でも?」

 ということは、エレナ王国の王家に仕えているヨーラも知っているということだろうか。それならば、なぜエリーナに教えてくれなかったのだろうか。旅に出る前に話していてくれても良かったのに、とエリーナは内心で愚痴を零す。

 一方でティドは、誰でも見た、とお爺さんが口にしたことに疑問を思っていた。

(見たということは予見したということでしょうが……。降臨した理由を予見者全員が見た? どういう意味だ?)

 考えても分からない。予見者全員が同じ未来を予見することなどあり得るのだろうか。一つの大陸で構成されている世界というが、大陸はあまりに巨大だ。遠く離れている予見者全員が勇者の降臨に際して、同じ未来を予見したという話は俄かに信じられない。

「さて、トマッシュ地方についてじゃが――」

 ティドやエリーナの考えをよそに、お爺さんは再び口を開く。

「クルニカ王国の東部にその地方はある」

「東部?」

「そうじゃ。トマッシュ地方というのは、そもそも予見者が誕生した地域のことを指している。予見のオーブが誕生したのは、今から四〇〇年ほど前と言われておる。もっと言えば、ノーラン教が誕生する前じゃ」

 ノーラン教。

 パンゲアの北部に位置するノーラン公国内に大聖堂を持つ大陸唯一の宗教である。その信仰は人々に力を与える宝玉(オーブ)を神と(あが)めるものであり、オーブの力に頼っているパンゲアの人々の多くはノーラン教の信者である。

 その影響力は絶大であり、ノーラン教の大聖堂を領内に持つノーラン公国は他国の侵略を唯一受けたことがない国でもあった。ノーラン公国を手中に収めることは大きな力となりえるが、その他多くの国から反感を買い、連合軍で一方的に攻められる恐れがあるためだ。また、ノーラン教とノーラン公国が保有するマリテルア騎士団の実力も高いことが理由に挙げられる。

「ノーラン教が出来たのって――」

「パンゲアに住む人に等しく力を与える宝玉(オーブ)をパンゲアの唯一神にしようと運動が起こった時ですから、約三〇〇年前です。たしか、初代教皇は予見のオーブの持ち主だったはず」

「その通りじゃ。ノーラン教を広めたのは予見者たちで間違いない。当初、ノーラン教の本部はこのクルニカ王国のトマッシュ地方にあったそうじゃ。その名残が今も残ってる町がある」

「そこが、私たちの目指すべき場所……」

 お爺さんはエリーナの言葉に頷いた。

 かつてノーラン教の本部があった地域。そのトマッシュ地方の名残を残した町。現在のクルニカ王国の東部にある町。それが、大地たちが最初に目指すべき場所なのだ。

「地図を持っておるか?」

「はい」

 慌てて、ティドが持参していたクルニカ王国の地図を取り出す。

 木製のテーブルの上に地図を広げたお爺さんは、

「クルニカ王国の東部は海と隣接しておる。海沿いに南下していくと小さな森がある。その中に地図にも()っていない町があるのじゃ。ワシがその町を最後に訪れたのはもう五年も前になる。じゃから、ワシが思っておる予見者がまだおるかは分からん。それでも、きっと良い情報が手に入るはずじゃ」

「ありがとう。あなたのおかげで、希望が持てたわ」

 貴重な情報を聞けて、エリーナはきちんとお礼を述べた。教えたお爺さんもどことなく嬉しそうな表情をしている。

「どういたしまして」

「早速行くわよ。まずは東を目指そう」

「東に行くなら、運航船が出ておる。東海岸までは行かんが、近くまではすぐに行けるじゃろう」

「ありがとう。恩にきるわ」

「なに、これしきのこと。ワシもあなたに会えて良かった。礼は、この世界を救ってもらうことにしようかの」

「――えぇ、必ず。あなたもありがとうね、リシャール。おかげで、私たちは先に進めるわ」

 固く約束をして、大地たちはお爺さんの部屋を後にした。良い情報を手に入れられて、いてもたっても居られなくなったのだ。早くアクス・マリナを出発したいという気持ちを大地たち四人は共有していた。

 そして、ただ一人残ったリシャールにお爺さんは向き直る。

「リシャール。お前も、自分がしたいことをするのじゃ。いつまでもこの屋敷に(とら)われておりたくはないじゃろう? 今のお前を見ると、きっとお前のお母さんは悲しむ」

「け、けど……」

「ブラン家の人間がそんなに恐いのか?」

「…………」

「お前も、ブラン家の人間なのじゃ。(おそ)れる必要はない。髪の色が違うからなんじゃ。瞳が赤いからなんじゃ。他の家族とオーブが違うということが、そんなにいけないことか? ワシは、それは違うと思う。――いい機会じゃ。お前もあの者たちとともに行ってみてはどうじゃ?」

「……えっ?」

「世界を知ることはとても貴重な体験になる。いつまでも、この小さな湖の中で暮らしておくわけにはいかんじゃろうて。この屋敷の主たちは、お前をいつまでも家畜のように扱うじゃろう。ワシも、それをじっと見ているのは余りに辛い。ワシも予見のオーブでなければ、きっとリシャールと同じ立場になったじゃろうからの。お前の父親にはワシから言っておこう。母親には秘密じゃ。あの母親のことじゃ、お前が家から出ていっても気にもせんじゃろう」

 お爺さんは真摯(しんし)に言葉を投げかける。

 閉塞感しか抱かないこの都での生活から抜け出すためには、自身が行動を起こすかどうかだけ。その機会は至るところにある。それを見て見ぬフリし続けてきたのは、他の誰でもないリシャール自身だ。

(世界を知ること……)

 それを、お爺さんは貴重な体験と言った。

 きっとその通りだろう。リシャールは生まれて、自身のオーブに目覚めてから、アクス・マリナを出た記憶がない。この湖の外がどのような世界になっているのかを知らない。今までは知る機会もなかった。

 しかし。

 今は、たった四人で旅をしている大地たちに出会ってしまった。それは十分すぎるきっかけだ。これ以上の機会はおそらく訪れないだろう。

 じっと黙ったまま聞くリシャールの頭に、エリーナの言葉が再び(よみがえ)る。

 それは、リシャールにとっての魔法の言葉だ。



『あなたの世界を変えるのは、他の誰でもないあなた自身よ。きっかけは毎日そこら中にあるわ。あとは、あなたが踏み出すかどうかだけ』



 その時には、もう彼の瞳は変わっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ