(9)
見上げると、手で塞ぎたくなるほど日差しが飛び込んでくる。
視線を背けると、そこには見知った子供の顔があった。
「大地、待てって」
「ははっ。早くこいよーっ!」
見慣れた山道を、数人の子供たちが駆けている。
鬼ごっこをしている子供たちは風を切るようにして、全力で走り続けた。どこまでも続くように思える道は、その様をまばらな住宅地から田んぼ道へと変えていく。
それでも、子供たちは走るのを止めない。
「待てーっ」
「追いついてみろよー!!」
笑いながらも、子供たちの遊びは激しくなっていく。
次第に頂点へと上っていく太陽の光を背中に浴びながら、後から追いついた子供が飛びつく。取っ組み合いの形から、子供たちは田んぼ道で大げさに転んだ。
笑い声は止まらない。
いつまでも続くと思われる楽しい時間は、子供たちを目の前のモノに夢中にさせた。
「大地ー、もう帰る時間よー」
不意に、声が聞こえてきた。
聞こえてきた声の主は、帰りが遅い子供たちをいつも迎えに来てくれる女の人だった。女の人を見て、子供たちは目の前の遊びを渋々と止める。
それでも。
女の人が笑顔を向けているのを見ると、ふにゃっと表情を崩して子供たちは駆け出した。
陽が沈んだ田んぼ道は、明かりがなくてどこまでも暗い。
それなのに、目の前にいる子供の顔はしっかりと見える。
「もうこっち来ないのか?」
暗い表情の子供は、そう尋ねた。
「……うん。もう来れないよ」
「そっか」
「……ごめん」
絞りだす声は、遠くの道を走っている自動車のエンジン音に掻き消されてしまう。それでも、目の前の子供にはちゃんと届いたようだ。
「ううん、いいよ。もう会えないのはそりゃ寂しいけど、きっとその方がいいんだろ」
「そうだよな」
「じゃあな、大地」
「うん」
見上げた空は太陽が消えていてもやはり広くて、この世界を一つに繋げているものだと思うと、すごく神秘的に感じられた。




