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勇者と王女のワールドエンド  作者: 小来栖 千秋
第一章 エレナ王国、旅立ち編
11/83

(9)

 

 見上げると、手で塞ぎたくなるほど日差しが飛び込んでくる。

 視線を背けると、そこには見知った子供の顔があった。

「大地、待てって」

「ははっ。早くこいよーっ!」

 見慣れた山道を、数人の子供たちが駆けている。

 鬼ごっこをしている子供たちは風を切るようにして、全力で走り続けた。どこまでも続くように思える道は、その様をまばらな住宅地から田んぼ道へと変えていく。

 それでも、子供たちは走るのを止めない。

「待てーっ」

「追いついてみろよー!!」

 笑いながらも、子供たちの遊びは激しくなっていく。

 次第に頂点へと上っていく太陽の光を背中に浴びながら、後から追いついた子供が飛びつく。取っ組み合いの形から、子供たちは田んぼ道で大げさに転んだ。

 笑い声は止まらない。

 いつまでも続くと思われる楽しい時間は、子供たちを目の前のモノに夢中にさせた。

「大地ー、もう帰る時間よー」

 不意に、声が聞こえてきた。

 聞こえてきた声の主は、帰りが遅い子供たちをいつも迎えに来てくれる女の人だった。女の人を見て、子供たちは目の前の遊びを渋々と止める。

 それでも。

 女の人が笑顔を向けているのを見ると、ふにゃっと表情を崩して子供たちは駆け出した。



 陽が沈んだ田んぼ道は、明かりがなくてどこまでも暗い。

 それなのに、目の前にいる子供の顔はしっかりと見える。

「もうこっち来ないのか?」

 暗い表情の子供は、そう尋ねた。

「……うん。もう来れないよ」

「そっか」

「……ごめん」

 絞りだす声は、遠くの道を走っている自動車のエンジン音に掻き消されてしまう。それでも、目の前の子供にはちゃんと届いたようだ。

「ううん、いいよ。もう会えないのはそりゃ寂しいけど、きっとその方がいいんだろ」

「そうだよな」

「じゃあな、大地」

「うん」

 見上げた空は太陽が消えていてもやはり広くて、この世界を一つに繋げているものだと思うと、すごく神秘的に感じられた。



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