(8)
ケンブルから少し離れた場所。
王都クルスとケンブルの間にある広大なモルゲン平原。
平原の中で剥き出しの岩がごつごつとある一帯に、その集団はいた。
宝玉を得た大地に撃退された盗賊の一団だ。
「お前ら、なに負かされて帰ってきてんだよ」
「けど、お頭ぁ。本当に強い奴がいたんでさぁ。見た事もねぇオーブ使ってきて――」
オーブの力に覚醒した大地にこてんぱんにやられた盗賊の男たちは、隙を見てケンブルから逃げ出していた。そして、彼らが根城にしているモルゲン平原の岩場まで戻ってきていたのだ。
「そんな言い訳聞きたきぁないんだよ! ここんとこ獲物がいねぇからって、町を襲おうって考えたのがまずかったぜ」
「けどよぉ、キャラバンは滅多にこねぇぜっせ? ここらは都から来る単独の商人ばかりだ」
「構わねぇよ」
盗賊の頭は、周囲に乱雑にある岩の表面のようにごつごつとした顔を、ニタリと歪めた。
「構わない?」
「金目のモノを盗んで売りさばくのはめんどくせぇ。王都のブツをそこらの町で売り払った商人たちから金そのものを奪い取るんだよ」
「なるほど!」
と、感心したように言う盗賊の男たち。
しかし、一人だけは盗賊の頭に意見をした。
「お頭ぁ。金は奪っても、別の国じゃ使えねぇですぜ? ずっとここにいるわけじゃねぇんでしょ?」
「そりゃそうだが、とりあえずの生活資金にすんだよ。傭兵もすぐ終わったしよ」
「ありゃこの国があっさり敵と友好条約やしたっけ? それを結んだけんって言ってやしたよ?」
「そりゃそうだろうよ」
盗賊たちがいる岩場の一帯はそれほど広くない。
岩に囲まれた一帯の窪地にいる男たちは、ここで野宿をするようで、かなり多くの荷物を広げていた。
「どうすんすか?」
盗賊の一人が頭に尋ねた。
「明日から公道通る商人を狙うぞ」
「うっす」
頷いて、盗賊たちはその場で横になり始める。
モルゲン平原を煌々(こうこう)と彩る夜空の光は、その明るさを徐々に強めていく。日が変わるにつれて夜の帳は深まり、静寂は男たちの存在をさらに確かにする。
横になった頭と数人を除いて、男たちはわいわいと騒ぎ始める。その声に、平原に棲みつく動物たちの声も掻き消されていった。
(見た事ねぇオーブ……か)
盗賊の頭は仲間がわいわいと騒いでいる中、一人考える。
この大陸に、オーブは無数に存在している。遺伝で受け継がれていく力だが、見た事のないオーブがあっても不思議ではない。
けれど。
盗賊の頭は、仲間の報告に嫌な胸騒ぎを覚えていた。




