十八、雷光
「頼む!お願いだ!」
黒川は目を閉じ、一心に祈る。
そっと、自分の手に重ねてくる柔らかい手、岬だった。
「私も一緒に」
「・・・岬」
彼は泣いていた、本当は嬉しかったが、
「待っていろと言っただろ」
「帰って来るまで、待てなかったわ」
彼女はニッコリと笑う。
続けて、
「それに、蓋もしないといけないでしょう」
岬は土壙墓の脇に置いた割れた蓋を見た。
「・・・あ」
黒川の間の抜けた返事。
「はは、きっと大丈夫」
こんな状況下だが、彼女は笑い励ます。
「・・・どうして」
「だって、信じている」
岬は鉄の棒の先にある上空を見た。
雷光は激しさを増し、空は闇と光に包まれ、轟音が響く。
黒川は信じる奇跡を。
岬は信じる未来を。
そして、奇跡は起こる。
上空の空が黄金色に輝く。
二人は男によって押し飛ばされた。
「いいか、災厄を必ず封印しろ!」
稲光が煌めくと、幾度も斜行しながら鉄の棒へ直撃した。
甕棺は金色の光を放つ。
その中で雷の直撃を受けた男の身体は、燃え盛り炎に包まれる。
渦巻く災厄の闇は、光に導かれて甕の中へ吸い込まれていく。
男は二人に別れを告げたのか、右手をあげる。
やがて、すべての闇は男も炎も飲み込むと、甕棺の中へとおさまった。
(さぁ・・・)
二人に男の心の声が届く。
その声に導かれ、黒川と岬はそれぞれ半分に割れた蓋を抱え、甕棺へ飛び込む。
その口を力合わせて塞ぐ。
激しい地響きとともに、地が揺れる。
(絶対にこの手は離さない!)
持てる力すべてで蓋を押さえつける二人。
長い刻・・・。
やがて、辺りは静寂に包まれる。
いつの間にか雷は消え、空が白んで現場の闇が取り払われた。
二人は、ただただ放心状態で昇る朝日を見つめた。
身体からは、あの忌々しい浮腫は消えていた。
災厄は終わった。
目を覚ます。
何事もなかったかのように日常は続いてる。
黒川は思う。
あれは夢だったのか・・・それとも・・・。
完
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