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37話

 モンスターフル装備オーケー。

 なんとなく気分でてるてるマントにてるてるフードオーケー。

 脱出用の馬もオーケー。

 気分も悪くない。

 調子はとてもいい。

 城の敷地内に入るのはそう難しくなかった。

 まず、兵士に警戒して、できるだけ会わないようにする。

 出会った兵士は全員さっさと気絶させる。(殺さない。勿体ないから。)

 そして、他の兵士に異変を気づかれない間に、さっさと進む。

 それだけで、案外簡単に侵入できた。

 ……1つだけ想定外な事があったとすれば、夜の闇の中だと、ホロウシャドウのムツキ君が闇に溶けてしまったあまりはっきりした形をとれない、ということだった。

 そういえば、ダンジョン内はどこもある程度照明があるから、ダンジョン内でははっきりした影がちゃんとできるんだよね。

 ただし、兵士は大体全員、手提げランプを持っていたり、城の外壁に取り付けられた照明に照らされたりしていることが多いので、そういう時はムツキ君無双だった。

 不意打ちにはもってこいだよね。


 ストケシア姫の部屋は、王宮の3階にある。

 王宮の少し奥まった、けれど日当りのいい部屋。侵入できない程奥では無いし、むしろ、人目を避けられるという点ではこれ以上ないほどの立地かもしれない。

 気絶させた兵士の手提げランプを持ってきて影を作って、そこからムツキ君に手を伸ばしてバルコニーの手摺を掴んでもらって、そのまま引き上げてもらう。

 一応、バルコニーの床は鼠返しになっていたし、手摺の外側には薔薇を模した有刺鉄線が密やかに巻いてある。でも、ムツキ君の手に掛かれば、そんなものは何の障害にもならない。


 バルコニーに上がって窓越しに部屋の中を覗くと、ベッドの上でストケシア姫が体を起こしているのが見えた。

 寝ていないのか。15歳は夜10時までに寝ておくべきだ。けしからん。

 ……でも、ロイトさんが言っていた通り、部屋の中に男性兵士は居ない、みたいだ。女性兵士が入り口近くに1人控えているだけ。逆に、部屋の外にはちゃんと近衛が付いてるんだろうな。

 仕方ない、絞めて落とそう。


 部屋の中の影にムツキ君を向かわせて、一気に女性兵士を襲ってもらう。

「っ!」

 そして、女性兵士の口をふさいでもらったらすぐ首を絞めて落としてもらう。女性兵士は眠るように崩れ落ちた。やっぱりムツキ君は不意打ちに最適。

 また、それと同時に私も窓から室内に入って、ストケシア姫の口を押えて塞ぐ。

「声を出さないで」

 脅すつもりで、低く小声で言ってみると、ストケシア姫は案外大人しく頷いた。

 近衛を信頼しているのかな。でも無意味だ。

「少し揺れるけど、まあ、我慢してね」

 ストケシア姫の口を布か何かで縛ることも考えたけれど、それよりも今は、スピード脱出を優先仕様。

 お姫様を抱えたら、すぐに脱出。

 バルコニーの手摺に飛び乗ってそのまま踏み切る時、ぎしり、と嫌な音がして、部屋の向こうから「姫様?」と男性の声が聞こえた。

 けれど、そんなのもう、遅い。

 《ラスターステップ》で光の足場を作って、《ブリーズ》の風で体を持ち上げて、どんどん上へ上へと向かっていく。

 近衛兵がお姫様の部屋に入って、異常に気付いた頃にはもう、私とお姫様は遥か上空にまで上ってしまっていた。


 眼下に町の灯が煌めいて星明りに見える程の高さにまで上ったら、もう人目を気にする必要も無い。

 のんびり《ラスターステップ》で足場を作りながら、悠々と城の塀を超え、そのまま町の上空を歩くようにして進む。

「……綺麗……」

 お姫様が何やら勘違いしているけれど、これは旅行じゃない。

 旅行だとしても、地獄めぐりである。




 ダンジョンにそのまま入る愚行は犯さない。どうせまだ、すごい数の冒険者達がダンジョンに居る。

 目撃されると、何かと面倒だ。

 ……ということで、ストケシア姫を一旦絞めて落としたら、テオスアーレ郊外に停めておいた馬に乗って、私の元々のダンジョンへ向かう。

 念のため、ストケシア姫の首にリリーを巻いておいた。やってもらう事は『王の迷宮』さんを運んだ時と大体同じだ。

 さあ、帰ろう帰ろう。




「ただいまー」

 道中、2度ほどストケシア姫を落とし直すことになったみたいだけれど、特に問題は無かった。

 リビングドール姉妹やその装備モンスター、スライム達や匠にも声を掛けて、不調が無いかどうか確認。

 ……無生物系モンスターばかりだから、食料がたくさん要る訳でも無い。

 このダンジョンで唯一食料が必要なスライムも、草地の部屋の草を食べたり、薬草園の薬草を食べたり、果物を食べたり、と自由気ままに色々食べて、勝手に生きている。

 ……このモンスターのチョイスって、お留守番させておくのに最適だった気がする。


 匠といくらか打ち合わせをしたり、出来上がった宝石を受け取ったりしたら、未だ気絶したままのストケシア姫を運搬して、玉座の部屋の鏡から『王の迷宮』へ移動。

 これにて、ストケシア姫の誘拐は終了。お疲れ様でした。




『王の迷宮』で早速魂を使って、お姫様専用のお部屋を1つ作る。

 後で移動させるけれど、とりあえず入れておくための部屋は必要だ。

 すぐに動かすから、とりあえず今はB50Fに何も無い白い部屋を1つ作って、そこに放り込んでおいた。

 万一暴れたりすると困るので、お菓子でも食べて待っててね、ということで、冒険者から紅色スライムが貢がせたお菓子を幾らかと、飲み物の瓶を1つ、一緒に置いておいた。

「じゃあ、行こうか」

 お姫様の首からリリーを外して、装備する。

 これでモンスターフル装備。私の最大戦闘力だ。

「総員、構え」

 ダンジョンとして、声を発する。

 内部のモンスター達が、予め指示しておいた通り、動く。

「これより、『王の迷宮』は全侵入者を抹殺する!」

 ダンジョンが、モンスターが、私が、動き出した。




 私は真っ先に、最上階まで上がった。

 そして、入り口から奥へ奥へ追いこむように、侵入者を殺していく。

 逃げられると魂が勿体ないし、私の目撃情報になってしまうと何かと面倒そうだったから。

 だから多分、ダンジョンの外に居る人達はまだ、異変に気付いていない。

「う、うわ、何を」

 1人殺せば、他の侵入者は私に向かってくるか、逃げるかの半々だ。

「ぎゃっ」

「おい、やめ」

「いいいいやだ、いや」

 もう3人ぐらい殺したら、向かってくる人よりも逃げる人の方が圧倒的に多くなる。

 それからもう10人ぐらい殺せば、後は逃げまどう侵入者を殺していくだけになった。


 ダンジョンは私の一部だから、ダンジョンのどこに隠れても、私は侵入者を見つけられる。

 1Fの侵入者を全滅させるまでに、そう時間はかからなかった。




 どんどんフロアを下りていきながら、1人残らず殺していく。

 冒険者達が甘く見ているスライム達だって、トラップのようにして利用していく。

 私から逃げる冒険者がスライムで足を滑らせて転ぶ。そこをビッグワームに伸しかかられて動きが止まる。

 そして、私に殺される。

 私の逐一の指示によって『1つの生き物』のように統率されて動くモンスターは、今やそれ自体が1つの大きなトラップだった。

『王の迷宮』を知る者ほど、今までとのギャップに対処しかねて、死んでいく。

 もう遅い。

 冒険者達は皆、多大な時間と魂を使って作り上げられた『信用』という最強のトラップに掛かっていたのだから。




 奥へ奥へと追い込んでいくと、その内B30Fにまで到達する。

「来い、化け物!俺達全員が相手だ!」

 ……そして、そこに居た冒険者や、紅色スライムに振られ続けている貴族達が、皆武器を構え、私を出迎えてくれた。

 既に、魂はかなりの量が収穫できている。

 ……それに加えて、ここに居る人間全員殺したら、どのぐらいになるだろうか。




 侵入者達が私に意識を向けて、いざ参る、となったところで、ズシリズシリ、と重い音が響く。

 侵入者達が警戒し、意識を向けた時……。

「あ、あれは……」

「な、なんでキメラドラゴンが、こんなに……!?」

 キメラドラゴン部隊が『B29Fから』やってきた。

 ……彼らは予めB35Fに集合しておいて、私が1Fの侵入者を掃討した後、順番に行儀よく並んで1体ずつ転移陣を使って1Fに上がり、それからここまで降りてきたのだ。

 お疲れ様でした。


 キメラドラゴンは本来、冒険者1人で立ち向かうものじゃない、らしい。

 5人1パーティでキメラドラゴンを仕留められるようになったら中級者、みたいな扱いなんだと思う。

 そのキメラドラゴンが、たくさん。

 その数全部で25体。『王の迷宮』さんが作っていた分に作り足して増やしたのだ。私の元々のダンジョンの方で侵入者の死体ができていたからそれを使ったり、このダンジョンで毎日のように死んでいるビッグワームやスケルトンの死体を使ったり。

 節約とやりくりにより、低コストかつ威嚇に十分な戦力を揃えることができた。

「き、キメラドラゴン……逃げろ!」

 弱い冒険者は25体ものキメラドラゴンを見て、戦意を喪失していた。

 元々統率も何もあったものじゃない部隊だったけれど、これによって戦線は崩壊。

 弱い冒険者が強い冒険者の脚を引っ張るような状態に陥る。

 強い冒険者だって、馬鹿じゃない。ここは撤退しかないから、彼らはB31F以降へと進んでいくのだ。


 キメラドラゴン達と私と装備モンスター達とで、とにかく侵入者達を奥へ奥へ追いやるように戦う。

 そして、B31Fで待機させておいたガーゴイル達にも協力してもらって冒険者達をB32Fまで誘導すれば、もうこちらのものだ。

「く……なんなんだ、なんなんだよ、一体何が起こってるんだ!」

「今までこんなことなかったのに……」

 侵入者達が悲痛な声を上げる中、キメラドラゴンとガーゴイルの軍隊はじりじりと侵入者達を追い詰めていく。

 更に、侵入者の前方からはゴーレムやガーゴイルがやってきている。

 そして侵入者達の足下に、横の壁に、天井に、たくさんのトラップがある。




 トラップがある。戦力も十分すぎるほどにある。

 これで負けるわけがなかった。


『王の迷宮』に慣れた冒険者程、トラップ慣れしていない。

 まさか、『王の迷宮』にこんなにトラップがあるなんて思わなかっただろう。

 実際、1週間ぐらい前まではトラップなんて無かったのだから。

 トラップを1つ作動させれば、それだけで数人の侵入者が引っかかる。

 それで直接死ななくても、第二第三のトラップを発動させていけば、次々に引っかかり、その隙に私やモンスター達によって殺されていく。

 当然、私も殺した。多分、私が一番多く殺したと思う。できるだけ私が殺すように心がけたから。

 侵入者が全滅するまで、そう時間はかからなかった。




 こうして、『王の迷宮』は、『3時間で侵入者800人余りを殺す』という快挙を遂げ、それと同時にテオスアーレに激震をもたらすことになった。

 ……と、ダンジョンの前の宝石店の人から、後日聞いた。


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