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私は戦うダンジョンマスター  作者: もちもち物質
始まりのダンジョン
15/135

15話

 ということで、B3Fの制作に取り掛かり始めた。

 最初にフロア増設で魂9000ポイント分を消費したら、鏡の迷路を作っていく。

 床も天井も壁も鏡。ただし、天井は高めに作る。

 鏡の床には適度に段差を設けたり、数段分の階段を作ったりしておく。

 そして、鏡の迷路の底に『光石(極小)』をばら撒いたら、『光石(極小)』を閉じ込めるようにガラスを流し込んでいく。

 ダンジョンの中のオブジェクトは破壊可能なものでない限り、基本的には破壊できない。なので、ガラスだろうと鏡だろうと、破壊される心配はないのだ。

 ……ただ、石や木よりは魂を多く消費してしまうけれど。


 一通り、鏡の迷路の床部分にガラスを敷いたら、トラップを作っていく。

 ガラスの上げ底が突然消える箇所(つまり落とし穴)だったり、その中にガラスの剣山がしこんであったり。

 或いは、床すれすれを移動するガラスの刃だったり。

 そして、それらをカモフラージュするために、鏡の壁から射出される矢や、せり出す鏡の壁も作った。

 ついでに、どんでん返しになっている鏡の隠し扉も作った。ガラスの落とし穴の先にある意地悪仕様。

 ……さて。

 これで、鏡とガラスの迷路が完成した。

 真っ暗な中に『光石(極小)』から発せられる光がぼんやり灯り、鏡に反射して薄明るい空間を作る。

 中々綺麗なダンジョンになったと思う。


 さて、B2Fの奥の通路を消して、下り階段でB3Fと繋げて、元々の玉座の部屋や草地の部屋等々もB3Fの最深部から繋げた。

 あとは仕上げに、油をだーっ、と流し込むだけ。

 ガラスと油は大体屈折率が同じ。

 だから、油の中のガラスは油に溶け込んで見えなくなってしまうのだ。

 つまり、この迷路は一見、『鏡とガラスと油の迷路』ではなく、『鏡と油の迷路』に見える、という事になる。

 当然、油の池の底に上げ底があることはすぐ分かるんだけれど、その真意を分かりづらくするために『光石(極小)』を入れたり、ガラスじゃなくて鏡の床自体にも段差を付けたりしている。

 つまり、ガラスは只のおしゃれ要素だよ、と。

 ……うん、正直、それがまかり通るぐらいには綺麗な眺めのダンジョンになっているから……油が不審だけど、それは後々考えよう。

 ちなみに、油の海は足首ぐらいまでの高さ分まで流す予定だ。勿論、落とし穴の部分では胸ぐらいまでの深さになる予定だけれど。

 そしていずれは、油でできたスライムとか、ガラスでできたソウルソードとかを放流して、ステルス迷路にしてやろうと思う。

 ……しかし、油が無いこの状態だと、これも単なるガラスと鏡の輝くおしゃれ迷路でしかないね。

 早くオリーブ、育たないかな。




 しかしどうも、『光石(極小)』の輝きやガラスや鏡の艶が、デスネックレスのお気に召したらしい。

 出来上がったおしゃれ迷路を見て、デスネックレスが私の首でぱたぱた嬉しそうにしている。

 ……光り物故に、光り物が好きなのかもしれない。

「お眼鏡にかなうダンジョンになったかな」

 聞いてみると、デスネックレスはますます嬉しそうにぱたぱた、として……それから、ぴたり、と止まった。

 不思議に思っていると、やがてデスネックレスはふにゃり、とねじれた。

 ……これは、なんだろう。考え事でもしてるのかな。

 そのまま待っていると、デスネックレスは私の首を離れて、ずりずりとダンジョンの床を這っていった。まるで尺取虫のように。

 ……尺取虫ネックレスを追いかけてのんびり歩いていくと、やがて、鏡の柱(障害物が欲しくて作ったもの)に到達し……くるり、と、そこに巻き付いた。

 ……これは、これは、なんだろう。

「飾りが足りない?」

 聞くと、ぷいっ、とそっぽを向かれてしまった。違うらしい。

 じゃあ、なんだろう。

 柱……目立つところに、デスネックレス。

 でも、飾りじゃなくて……でも、目立つところ……つまり、侵入者の目につくところ、ということで……。

 あ。

「お宝が欲しい、っていうことかな」

 聞いてみると、デスネックレスは柱から飛んできて、私にぺたっ、と着地した。

 ……正解、らしい。

 確かに、こんな綺麗な迷路になら、お宝が欲しくなる、かもしれない。




 このダンジョンを運営していく上で、いずれ来る『行き詰まり』には、もう思い当たっていた。

 このままただ、来る侵入者を待ち、そして全滅させていたら、いずれは侵入者そのものが来なくなってしまう。

 つまり、入った人が全員死ぬダンジョンに入りたがる人が果たしてどの程度居るのか、という。

 ……これについて、1つは解決策を考えてある。

 それは、『ひたすら人間に害悪を与える』ということ。

 ダンジョンから毒でも流せば、対処するためにダンジョンへ来ざるを得ない。そういう方法で侵入者を募る方法もある。

 ……ただ、それをやってしまうと、このダンジョンに来るのは精鋭中の精鋭、ということになる。

 当然、精鋭はそれ相応のスキルオーブや装備を運んできてくれるから歓迎したいところだけれど、質も量も魂に換算してしまったら同じなので、できれば精鋭もそうでない侵入者も幅広く応募したい。


 そして、特に強くも無い人達をおびき寄せる方法として、『ダンジョンにお宝を設置する』という方法があると思う。

 お宝を狙う侵入者を呼び込み、最低でも半分ぐらいは帰す。

 そうすれば、コンスタントに侵入者を殺すことができるようになるだろう。

 ……これのデメリットは、お宝を持ち帰らせてしまう分、ダンジョン側の利益率が下がる、という事だろうか。

 しかも、生半可なお宝では人を呼ぶに至らない。

 侵入者が自身の命とお宝を天秤にかけても侵入してきてくれるようなお宝でなくてはならない。

 そう考えると、いずれはお宝を設置しなくちゃいけないんだけれど、消耗品であるお宝を今すぐに用意する、というのは……。

 ……いや、やろう。

 そうだ、お宝を入手した人は全員殺せばいい。そうすればお宝は『消耗品』じゃなくなる。

 そして、それ以外の人にはお宝を見るだけ見て帰ってもらえばいい。




 早速、入り口付近の床をB2Fまで真っ直ぐぶち抜いて、そこをガラス張りにした。

 そして、その先に小部屋を作ったら、B3F最深部から階段を付けて繋げる。

 鏡とガラスの小部屋の中央には、豪華なふかふかの絨毯。

 そして、その絨毯の上、小さな台座に乗せるのは、『世界のコア』。

 入り口から入ってすぐ、侵入者は『世界のコア』の姿を見ることになる。

 これで、侵入の動機はばっちりのはず。

 ……勿論、世界のコアに到達する前に侵入者は殺す。

 最初の部屋に入ってすぐ引き返すような侵入者は見逃すつもりだけれど、奥に進んだらもう逃がすつもりはない。(現状、分岐点から奥に進んだ後に地上へ出る方法が「元来た道を引き返して左右のボタンを押して入り口のシャッターを開ける」しか無いから、実質、分岐から先に進んでしまったらもう出られないようなものなのだけれど。)

 けれど、それ以降に進んだ侵入者に、『世界のコア』を見せるつもりも無い。

 世界のコアには侵入者をおびき寄せてもらう。その代わりに、私は世界のコアに近づく侵入者を全員殺そう。

「あなたは絶対に守るからね。力を貸してね」

 台座に置いた世界のコアを撫でると、どことなく、懐かしい色の光を放った気がした。




 さて、畑の部屋を見てきたけれど、まだ植えたオリーブはそんなに成長していない。

 多分、次の侵入者をできるだけトラップで殺せば育ってくれるんじゃないかと思うけれど。

 ……とりあえず、今あるオリーブで油を作ろう。

 ファントムマントとブラッドバット達が収穫してくれたオリーブの実は、ファントムマント2杯分ぐらい。多分、大体3kgぐらいかな。

 これからどのぐらいの油が手に入るものやら。


 ダンジョンの合成機能の応用をすればオリーブの実からオリーブオイルを作ることも可能なんだけれど、少し魂を消費してしまう。

 なので、とりあえず今回は自力で油を搾ってみることにした。


 タライ(魂10ポイント分)にオリーブの実を入れたら、ひたすら潰す。

 オリーブの実は完熟していたため、足で踏めば簡単に潰れた。

 ひたすら潰したら、混ぜる。油が分離してきたら、布で濾す。

 濾す布は最初の侵入者3人組の服がぺらくていい感じの布だったので、それを利用。

 ぎゅうぎゅう絞ったら、出てきた汁を放置。

 分離したら、下に溜まった果汁だけダンジョンの還元機能で消して、油と分けた。


 そして、油ができた。

 今回できた油は800mlぐらい。

 ……800ml、ぐらい。

 当然ながら、ダンジョンの迷路の落とし穴1つを埋めるにも満たない。

 これは……どうしたものかな。




 多分、今回みたいな速度でオリーブの木が育ってくれれば、そこそこのスピードで油を入手できるようになるとは思うのだけれど……これ、魂を消費して油を作成してしまった方が良かったりするだろうか。

 しかし、油は嗜好品扱いらしく、1Lで魂250ポイントも消費してしまう。

 ダンジョンの迷路を満たすほどの油を作るとなったら……今ある魂65959ポイント分を全て使っても、足りない気がする。

 ……仕方ない。

 ガラス迷路が本領を発揮できる状態になるまで、B2Fまでで戦おう。




 それから、スライムを1匹生み出してみた。

 油ばっかり食べさせてると油でできたスライムになるらしいから、とりあえず、オリーブの搾りかすを食べさせてみる。

 いずれはガラスと油の中に潜んで侵入者をトラップに嵌める係になってもらいたい。

 ……スライムがオリーブの搾りかすをもりもり食べている様子を見ていたら、お腹が空いてきた。

 とりあえず、日持ちしなさそうなトマトから消費していこうかな。




 やたらと甘くて美味しいトマトをひたすら齧りつつ、今回手に入ったアイテム類を整理しよう。


 まず、武器。

 大剣片手剣諸々ひっくるめて、剣が5本。

 杖が4本。

 斧槍が1本。

 ナイフが9本。多い。

 それから、投擲用らしい、細いナイフが16本。すごく多い。

 そして弓が2つと矢が32本。


 防具は全身鎧が3つ、もうちょっと軽めなのが3つ。更に軽い、胸当てぐらいの奴が5つ。

 魔法使いのローブみたいなのが4つ。

 服や下着やその他諸々が14人分。


 装飾品は、指輪が2つに髪飾りが1つ。腕輪が3つ。首飾りが1つ。

 これでデスネックレスを強化できるかな。


 道具もいっぱいだ。

 薬草20、傷薬5つ、上級薬1つ。それから、もう回収済みだけれど、お薬スライム1匹。

 ロープや松明。この辺りの地図。

 馬6頭と馬車3台。

 馬車の中には、着替えや水や食料、そしてお酒の瓶なんかもあったので回収。

 ……しかし、今回も寝具は手に入らず。

 侵入者の一団はきっと、野宿なんてしないで、毎回どこかの宿に泊まっていたんだろう。

 誰か私に布団を運んできてくれないかなあ。




 そして、今回手に入ったスキル。

 《ツイスター》と《ゲイルブレイド》は見る機会があったものだ。

 《一刀両断》と《一点突破》は前にも手に入った事がある。これは2つずつ手に入った。

 《力戦奮闘》は初めて見る。これは団長さんが持っていたものらしい。自分の体力を代償に自分の能力を底上げするものらしい。もしかしたら、団長さんはこれをもう使っていたのかもしれないね。

 《電光石火》も初めて見る。名前通り、素早い動きができるようになるスキルの模様。これも2つ手に入った。

 《ファイアフライ》、《フレアフロア》、《ブリーズ》、《グリッター》は各魔法使いが持っていたんだと思うけれど、みんなこれを使う前に死んでしまった訳だ。


 さて、これの振り分けは簡単。

 魔法は全部、デスネックレス。

 《一刀両断》と《一点突破》はそれぞれ、ソウルソード2振。

 《電光石火》は私とソウルナイフ。

 《力戦奮闘》はリビングアーマー君。

 ……と、思ったんだけれど、ちょっと思わぬ事態が発生した。

「あれっ」

 デスネックレスにスキルオーブを与えてみたんだけれど、困ったようにぱたぱたするばっかりで、《ツイスター》と《ゲイルブレイド》までしか習得できなかった。

 ……もしかして、レベルが足りない、とか、そういう事なんだろうか。

 気になって、今回手に入った装飾品の類を合成してデスネックレスをより豪華にしてあげたところ、《ブリーズ》と《グリッター》も習得できた。

 けれど、《ファイアフライ》と《フレアフロア》は習得できなかったみたいだから、また強くなったら覚えさせてあげよう。




 さて、今回手に入った剣やナイフや鎧やマントをみんなに見せて、装備を交換したいか聞いてみたんだけれど、とりあえず今のままでいい、とのこと。リビングアーマー君はもう鎧を新しくしているし、剣も気に入っているみたいだからこのままでいいか。

 ということで、今回のリザルト確認も終了。

 トマトでお腹が膨れたら眠くなってきたので、寝ることにしよう。


 侵入者から寝具は手に入らなかったけれど、今回の改築で、寝床に丁度いい場所ならできた。

 そう。世界のコアの小部屋だ。

 絨毯でふかふかしているから、ここで寝っ転がって寝るのが丁度いいだろう。

 侵入者が来たら私が寝ているところを目撃することになるけれど、多分、その前には起きられる、と思う。


 世界のコアの台座の隣、ふかふか絨毯の上にごろん、と横になると、ファントムマントがやってきて被さってくれた。気が利く奴である。

「あったかい」

 厚手のマントが1枚かかると、それだけでそこそこあったかい。

 ふかふか絨毯の肌触りを楽しんでいたら、自然と瞼が重くなってきた。

 そういえば、ダンジョンに成ってから初めて横になって眠るわけで……そう考えると、この眠気も当然なのかもしれない。

「おやすみ」

 ファントムマントを撫でつつ、私はゆるゆると眠気の中に身を投じていった。




 もそもそ。

 もそもそもそ。

 ……なんだか背中のあたりがもそもそするなあ、と思いながら目を覚ます。

 目を開くと、深い青のふかふか絨毯と、深紅のファントムマントが目に入った。

 さっきのもそもそはファントムマント君が起こしてくれたのかな。その割には、こっそりした起こし方だったけれど。

 ゆっくり寝がえりをうちながら天井を向いて……そこで、私は凍り付く羽目になった。


 そこには、天井のガラス越しに私を覗き込んで驚いたような顔をしている侵入者の姿があった。


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