第七十三話 家族会議
side アサギ
目を覚ますと何時も寝ているベットの上だった。しかも私の両脇には可愛い天使キャノン二門を備えている。
右の金のキャノンは私の胸を抱き枕のように頬を寄せて気持ちよさそうに寝息を立てていて、左の銀のキャノンは私の腕を抱き寄せてもごもごと何か寝言を呟いている。
うん、素晴らしい朝のひと時だ。何か昨日えらい面倒くさい出来事があったような気がしたが、あれは全部夢だったんだーそうなんだー。
何かアリシアがいなくなって誘拐されたと思ったらソフィアの日記に記載されていたエンディミオンの婚約者であったらしいローズとかいう女に襲われたり、その後エンディミオンに変装した変なのが出てきたり、そいつをぶちのめしたら本物のエンディミオンがアリシアと一緒に現れたり、その後浅木祐二の馬鹿な父親が開発した碌でもないウィルス兵器を仕込まれて最低なトラウマを掘り起こされたり、意識を取り戻したら人間が魔物になる様を見せつけられたり、人間が気持ち悪い肉塊になる様を見せつけられたり、なんかラスボスっぽいテロリスト国家のドンが出てきたりして、何やかんやでそれらを切り抜けてテミスさんの屋敷に帰ってきたような、意☆味☆不☆明な記憶があるが…気のせい―――
「ソフィア!身体に異常は無いかい?君はあの黒魔法の呪いを浴びて―――「なに勝手に女性の部屋に入ってるのよ!出て行きなさいエンディミオン!!」
…朝っぱらから大声を張り上げて私を心配するエンディミオンとそれを叱咤し部屋から叩き出すメイド…セリアによって、意味不明の記憶が現実であることを思い知らされた。
「ふぁ………なに?朝から…」
「うにゅ……うるさい……」
馬鹿でかい声で気持ちよく眠っていたのに目を覚ましてしまったリオンとアリシア……と私。
エンディミオン許すまじ。
…いや待て、さっきの光景も私が寝ぼけて見た幻かもしれない。
未だ眠そうに目をこするアリシアと簡単に身支度を整えたリオンを伴いながら幻視であることを確認すべくリビングへ向かった。
「あら、おはようソフィアちゃん。身体は大丈夫?」
リビングには本を読みながらソファーに座るテミスさんが。
「…多分…。あの、テミスさん?何かさっきエンディミオンが私の寝室にカチ込んできた様な気がしたけど気のせいですよね…」
「おはようソフィア!リオンとアリシアもおはよう!…体に痛むような所とかはない?」
「……助手ちゃん、見ての通りよ」
「救いは……救いは無いんですか?」
あっさり現れたエンディミオンという現実を叩きつけられて私は崩れた。
「そうか、アリシアもリオンもこの近くの学院に通っているのか……ところでこれはなに?」
「お母さんが作った煮物。ホクホクして美味しいよ」
「本当ですね!この小芋柔らかくて美味しいですアリシアお姉様!」
「――っわぁ!?エリーゼちゃんいつから?」
「エリーゼ…貴女この時間は帝王学のお勉強の時間でしょう?何をやっているのかしら?」
「ふん、司書とか言いながらいっつも図書館に篭もっているテミスお姉様には言われたくありませんわ」
「そ、ソフィア……私が教えたお皿の洗い方…忘れてしまったの…?」
「え?別に汚れ落ちてるからこれでいいんじゃ―――『一旦洗ってから洗剤に付けて、洗い流してお日様に干す!…ですよね?…ここは私がやりますから」
アリシアに似て朝が苦手な主人格様がようやく目を覚まし、身体の主導権を持って行かれたため、私は大人しく背後霊状態でリオンの隣に座る。
テミスさんはリオン、アリシア、そして私がいる朝は賑やかで楽しいと言っていたが、更に子供達にひっきりなしに話しかけるエンディミオンとテミスさんと火花を散らすアリシアのお友達らしき女の子、女子トークに花を咲かせながら洗い物をするセリアが加わると、賑やかを通り越してもはやカオスである。
「……さて、朝食を済ませた所で情報整理がしたい。…まずは私の話を聞いてくれないだろうか?」
食器を洗い終わったタイミングで改めて姿勢を正したエンディミオンの言葉に一堂が緊張した。しかしエンディミオンも色々聞きたいことはあると思うのだが、こちらの事情は後でもいいのだろうか?
「…確かに色々確認したいことはある。しかし、まずは私の不甲斐なさで君を…そして子供達を危険に晒したことのせめてもの罪滅ぼしのためにも、君達に誠意を示すためにも、話を聞いてくれないだろうか?」
…そういうことなら聞いてあげましょうか、浮気の言い訳を。
「浮気じゃありませんから……お願いしますエンディミオン様。この13年間のことを…」
「……以上が、君を失ってから私が辿ってきた道だ。」
…要約すると、美人妻を持つ夫が出張中に夫の上司にネトラレて、それに怒った夫が独立して別会社を興して復習するといったよくドラマとかエロマンガとかでありそうな展開である。
(いえ、全然違いますよ!エンディミオン様が王都に出ている間に私を攫う計画をベジャン王が計画。まずはローズ様をけしかけたけれど、私は何とか逃亡出来て、逃亡中私が時間制御を使うところを刺客が見てしまい、私がリーシェライトの末裔と知ると国中に指名手配した。
そんなことを知らないエンディミオン様は帰ってきたら私が逃げ出した惨状とローズ様の意味の分からない婚約発言に混乱しながらも、秘密裏に私を探して……結局あの馬車の襲撃で助けられず、死んだと思った………全然違うじゃないですか!ものすごい陰謀に巻き込まれているじゃないですか!私も……エンディミオン様も!)
「…君が死んでしまったと思っていた日々は辛かった…この世界自体に嫌気が差して何度自殺しようかとも考えた……いや、違う…あの頃の私はベジャンに対する憎しみだけで生きていたようなものだ。…だからこそ、あのベラストニア戦争で君の日記を発見したとき…プロトゴノス殿から君とリオンとアリシアのことを聞いたときは、救われるような気分だった」
(エンディミオン様……)
エンディミオンは瞳を細めながらアリシアの頭を優しく撫で、リオンの頭も撫でようとしたが…それは叩き返されてしまった。
「……確かに、私は真実を語ったつもりだ。けれども、どれだけ私が君を…君達を愛していようと、現実の結果として私は妻も子供も守れなかった不甲斐ない情けない男でしかない…。リオンだって…今までお母さんを裏切り、ひどい仕打ちをしてきたと思っていた人間が突然現れて無実を訴えても到底信じられないと思う…」
『そうそう!そういえば何で私のアリシアは見事に誑かされているんだ!?エンディミオン、貴様何をした?」
「いや、私は何も…強いて言えばこの子を庇ったくらいだろうが…」
「あぁ…あのナイフに刺されそうになった時ね。記憶が朧気だけど……何か変な場所にいつの間にか居たと思ったら見たこともない景色が見れる水晶玉みたいなのがいっぱいあって、それを見てお父さんとお母さんの過去が分かったんだけど……説明し難いなぁ…」
『―――それ…もしかして……主の…世界…かしら…?」
『それって私達の時間制御魔法のことじゃないの?○・ワールド!…って』
「?…そのザ・なんとかは解りませんが、私達の先祖であるアゼル様はリーフィン様を生んでから至った場所が『主の世界』と呼ばれている空間だそうです。…リーシェライトがまだ皇国だった時代でも、そこに至れたのは一人ないし二人だったそうです…。まさかアリシアがそこに辿り着けるなんて…」
結局その主の世界はよく分からなかったが、アリシアが凄いことだけは理解できた。流石私の娘である。…それよりリーシェライト皇国とか何かヤバそうな単語が聞こえた気がしたが気のせいだろうか。
「こほん……話を元に戻すが、君達を殺されたと絶望した私は、白の国の現体制に反感を持っていた貴族や親族の派閥を取り纏めて反抗に出ることにした。…これが銀の国の始まりだ」
…エンディミオンが妻を殺され、それに怒って白の国に反抗しているのは噂で聞いていたが、殺された妻というのはローズのこととばかり思っていた。
当初俺が予想していたのはソフィアはお遊び、ローズはベジャン王に反抗する口実作りで、エンディミオンの真の目的は銀の国の生誕にあるのでは…と予想していたが……いや、まだその可能性は捨てられない。
「…とか何とか言いながら新たな国を興して自分の支配に置いて、果ては白の国も奪う腹積もりなんじゃないの?」
権力者なんて皆野心と薄汚れた欲望の塊みたいな奴らばかりだからな。それはアーグルやスニーティを見てきてこの世界でも同じであると思い知らされてきた。
さぁ…その薄汚い本性を明かせよ!この銀髪美女を再び抱きたかったからでまかせた嘘だと…風の国の王女に良い格好をしたいから見せた父親のフリだと吐き出しちまえ!
「…そう…思われても仕方がないのだろうね…。…ソフィアにそう言われると堪えるな…。一つ訂正すると、私は白の国どころか銀の国を支配するつもりもない。その証拠になるかは分からないが、今共和制に移行する案を議会に通しているところだ。君や子供達には悪いが王子、王女の地位は与えられない…」
「そんなものいらない!私はお母さんとお父さんとお兄ちゃんと静かに暮らしたい!」
「……」
…共和制…か。それが本当だったとしたら確かにエンディミオンは王ですらなくなり支配者とは呼べないのかもしれない。しかし、元の世界では表向きの民主主義なんていくらでも見てきた。エンディミオンが出したという案を見ない限りここでこいつの真意を問いても時間の無駄か…。
一通り話を聞き終え泣きはらすアリシアと、気まずそうな表情のリオン。
「…さて、私の今までは概ね話し終えたと思っている。次は、君のこれまでを話してくれないだろうか?ソフィア」
エンディミオンに促されて私は口を開こうとした……が、声が何故か出ない。
「……?お母さん?」
アリシアに声を掛けられて我に返る。そうだ、エンディミオン(こいつ)の過去が何であれ私も私でここまで来るのは大変だったのだ。それにリオンとアリシアにも真実を……私が私であることを話さないと―――
――――もし、それで拒絶されたらどうする?
「………」
そう、結局そこに帰結するのだ。あのゲスジュコロイドが見せたしょうもない悪夢の贋作リオン、アリシアにはどう思われようが、どうしようが、どうでも良かった。
しかし、今ここにいるのは紛れもないこの私が育てたリオンとアリシアだ。そんな二人からもし拒絶されてしまったら…?
―――今まで母親だと思っていた人物が本当はしがない男であったと知ったら?
「………っ…」
「…母さん?どうしたの?」
考えれば考えるほどに喉が粘土で塞がれるように喋られなくなる。
『…アサギさん』
背後霊と化している私が問い掛ける。
『…あの悪夢の世界でアサギさんは言いましたよね?〝私のリオンとアリシアを馬鹿にするな〝…って』
「……っ…」
『リオンとアリシアは私の子供であるけれど、正真正銘貴方の子供でもあるんです。あんなに立派に育てたリオンとアリシアを…もっと自分の子供に自信を持って下さい。貴方の子供達は〝そんな程度のこと〝で大好きなお母さんを拒絶するような子供なんですか?』
――おぅ、言うじゃねぇかこの小娘!私の子供達は優しくて、思いやりがあって、可愛くて、ちょっと意地っ張りで、的確なタイミングでツッコミを入れる自慢の子供達だ。そんな子供達があの悪夢の世界の糞餓鬼みたいにこの私を拒絶するはずがないだろう!
もう、喉のつっかえは無くなった。
「私……実は、憑依者なの」
少し内容が足りてない気がしますが、今はスピード優先します。
後で加筆するかも…すみません。




