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第四十三話  対話

side アリシア


『見ているかエンディミオン!ついに!ついに僕はソフィアを手に入れたんだ!貴様が手に入れたと安心して、間抜けにも王によって寝取られそうになり、結局取り戻すことも出来ず失ったと思い込み、そしてその復讐を糧に戦争までしているお前のソフィアは、この僕が!このスニーティ様のモノにたった今からなったのだ!ひゃははははははははは!!』

古代の魔物コルテュスを倒したその晩、廃墟となった村では宴会が開かれていたけどその喧噪のなかで、私の頭の中にはあの最低男のスニーティのその言葉が反芻していた。

元々父親であるエンディミオンに関してはお母さんの日記でしか知ることが出来なかったのだけど、お母さんを失ったと思い込んで復讐の戦争をしているってどういうことなんだろう?それにスニーティのお母さんに対する執着心やエンディミオンに対する憎悪は凄まじいものがあった。一体過去に何があったの?

……何かが、何かが致命的にずれているような気がする。確かにお母さんの日記にあったことは事実だと思う。描写がかなり鮮明だったし何より指名手配されていなければあんな、私達が生まれ育った山小屋のような明らかに人との接触を避けるような場所には住まないはず。

でも、もし…スニーティの話でよく分からなかったけど、王様によってエンディミオンとお母さんが引き裂かれたとしたら?実はエンディミオンは今でも…いや、最初からお母さんを深く愛して、婚約者の人が襲撃してきた一件が王様による仕業だとしたら?そしてその怒りで戦争を…


……なんだか頭が痛くなってきた。今日はとんでもないことが色々あったし考えるのはここまでにして早いところ寝ようかな?




side ソフィア


カリカリカリ…

魔物の攻撃によって破壊された家屋の代わりの簡易テントのなか、鉛筆が紙を擦る音だけが響き渡る。この部屋に居るのはソフィアただ一人だが、現在この部屋ではある人物とソフィアとの対話が確かに行われていた。

『こうして話すのは初めてですね、ソフィア・リーシェライトです。まず、リオンとアリシアをあんなに立派に育てて頂きありがとうございます』

ノートに記入を終えると鉛筆を置き、深呼吸を一つする。すると今までの所々に気品の見られる姫々とした雰囲気から少々ガサツな雰囲気に一瞬で変わった。

『何か今更変な気もしますが…俺は浅木祐二と言います。それとリオンとアリシアについて貴女がどう思うかは分からないけど二人はもう俺の子供だと思っています』

魔物との闘いで意識を取り戻した本来のソフィア・リーシェライトはその夜、自らの中にいるアサギの意識へ筆談による対話を思いつき皆が宴会で出払っている今行うことにした。

一応子供には教えられない話や今までの自分が別の意識であったことなどをおいそれと話すわけにもいかず二人の面倒はリリアに見てもらうようお願いする事にした。彼女も先の戦闘で

疲労している筈なのに快く引き受けてくれて本当に感謝してもしたりない。


互いの自己紹介から始まった対話は今までの経緯や細かい質問などを重ねて認識を合わせていく。

『孤児院の院長から再三時間制御が使えることやリーシェライトの血を継いでいることは話すなと言われてましたしその理由も知っていましたけどまさかこんなことになるなんて…』

リーシェライトの血。古代に存在した王家の血を引く一族で時を自由自在に操り、その開祖は遥か昔に存在した魔王的な存在を倒したとかなんとか。それ故に表ではリーシェライトと言っても見向きもされないが裏では常に狙われているとか。

…うん、この体の容姿を見たときにどこかの姫君のように美しく整った顔とか身体とか雰囲気だなぁとは思ってたけどまさか本当に姫君だったとは…。

そして、そんなことを全く気にせず時間制御魔法バンバン使っちゃってたけどやっぱまずいかなぁ~と思っていたらソフィアさんから『で、でもそれはリオンとアリシアを守るためだったのだからしょうがないですよ!』と慰めの言葉を貰った。


逆に捕らわれたリオンとアリシアを助け出した時に一体何をやったのかと聞かれたから自らの体内の時間を加速させて神経の伝達とか筋肉の運動速度とか血流を速めて強制的に加速したと答えたら『なんという無茶をしたんですか貴方は!最悪子供たちの目の前で母親が爆発するというトラウマを植え付けたかもしれないんですよ!?』

…いや、あの子供達死にかけていたから。トラウマどころじゃないから。



「あ、お母さんこんなところに居たんだ。…何書いているの?お勉強?」

「アリシア?どうしたのもう戻ってきて。宴会はまだ続いていたと思ったけど?」

丁度目的地の風の国王都について質問していたところでアリシアがテントの布を退けて入ってきた。軽く目を擦っているところを見ると眠たくなったのかな?突然のアリシアの登場に私と中のソフィアさんはびくってなったけどどうやら筆談を何かの勉強と勘違いしたようだ。アリシアはそのままとてとてとテントの中を歩きベットへ倒れこむようにしてすぐ眠ってしまった。そういえばリリアさんはどうしたのかな?リオンの方を見てくれているのだろうか?一応あのローブの男とスニーティはあのドサクサで完全に逃げてしまったようだけどローブの男は片腕を、スニーティは足を失っている重症だし冒険者たちもあいつらには強い怒りを抱いて血眼になって探しているみたいだから大丈夫かな?

そういえばあの戦いの中で聞いたライフル音についてリリアさんに聞いたけど答えは結局『最新の魔具じゃないでしょうか~?私エルフだからよく分かりません~』と思い切り目を泳がせながら返されて結局聞けず仕舞いだった。…あんた絶対知ってるだろ。


「……ねぇお母さん…。エンディミオンのヤリ○ンは………やっぱりいいや」

既に眠ったと思ったアリシアが唐突に訊ねてきたけど自分の中で消化してしまったのか打ち切ってしまって結局そのまま夢の中へと旅立っていった。


『もし、アサギさん?子供たちは私とエンディミオン様の関係を知って?』

ええ、知っちゃったみたいですよ。私はあんな男女間のドロドロした昼ドラ話教えたつもりはなかったけど貴女の日記読んじゃったみたいで…。

『"ヒルドラ"?それで…何故アリシアは自分の父親のことを名前で呼んでいるのでしょうか?あと"ヤリ○ン"とは一体……』

え?そりゃ名前呼びにもなりますよ。あなたを孕ませるだけ孕ませてお腹のリオンとアリシアごと始末するような最低男、間違ってもお父さん、パパなんか呼べないでしょ?あと"ヤリ○ン"っていうのは女の子を弄ぶだけ弄んで妊娠したらポイッと捨てるあのスニーティみたいな――

『なんということを子供に教えているんですか!貴方は!!まさかそんな言葉の説明をあの子達にしていないでしょうね!?だいたいトレーネの街から感じてましたが―――」


その後はひたすらソフィアさんによる教育指導という名のダメ出しを受け続けてリリアさんとリオンがテントに戻ったころには机に突っ伏して倒れこんでいた。





「そっか、リリアさんとはここでお別れになるのね?」

翌朝、私たちは封印の村を出て王都へ発つことにした。村はほぼ壊滅状態で正直復旧の手伝いをした方がいいかな?と思ったのだけどなんとあの嵐の結界の外で既に風の国の騎士や兵が対策に追われていて待機していたらしく、国主導で復旧作業を進めてくれるらしくむしろ邪魔になりそうなので早々に旅立つことにした。

昨日の宴会の炊き出しや簡易テントも騎士団が準備してくれたため村人や冒険者は風をしのいで寝ることが出来たし本当にこの国の騎士団は統率率も機敏もいい。

「ええ。私の目的ももう達成されましたし、またご主人様から離れてしまったら今度再会できるのは何ヶ月かかることか…」

それでリリアさんにも王都に向かう旨を伝えたところ最初に話したように彼女の主人が見つかったとかでもう王都に向かう必要はなくなってしまいここでお別れとなってしまった。あぁ、こんな可愛いエルフの女の子ときゃっきゃうふふしながら旅したかったんだけどなぁ~…って王都まであと2、3日で着いてしまうから旅というほどでもないか。

「リリアお姉ちゃん、もしあの主が酷いこと言ったら私達に教えてね?氷魔法でカッチンコッチンにしてあげるから!」

「本当にありがとうリリアさん!またどこかで会えるかなぁ?」

リオンが何気なく訊くとリリアさんはどこか寂しそうな顔で「…うん、きっとまた……あ、そうだ」と答えてから何かの石?宝石?をリオンに渡した。

「え?これって氷の精霊石?どうして…」

「これから多分色々大変だと思うけれど少しでも役立ててくれれば。それに氷の魔法をあれだけ上手く扱えるリオンさんとアリシアさんなら問題なく使えると思うし…多分氷はそのためにあの人から貰ったものだから…」

「??とにかくありがとう!大切にするね!」

あの人?誰のことだろう?…いやそれより精霊石ってエルフにとってかなり大切なものではないだろうか?おいそれとキャンディーみたいに渡していいのだろうか?



そして最後の挨拶をして王都への道を歩き出した時に唐突にリリアさんに呼び止められた。


「そ、ソフィアさん…。いえ、ソフィア・リーシェライトさん。これから貴女には数々の苦難や絶望が襲いかかると思います。でも…でも決して諦めないでください。貴女と…貴方の愛する人との絆は決して無くならないし受け継がれています……それを、忘れないで」



彼女の最後のその言葉は何故か私の中の彼女ソフィアの胸に深く響き渡った。






「さぁ!ようやくもう少しで王都だ!しゅっぱーつ!!」

「えへへ!私王都に着いたらお母さんとお洋服見るんだーー!早く着かないかな―――――わふっ!?」

アリシアがまだ見ぬ王都に期待を膨らませつつくるくると回ってはしゃいでいると何かにぶつかって可愛らしい悲鳴を上げた。

「あ、アリシア前見なきゃ危ないよ。ごめんなさい、妹がぶつかってしまって…」

どうやらぶつかった相手は人…というか黒灰色の髪が特徴的な青年だったようで、彼もリオンの丁寧な対応に片手を軽く差し出して礼をする。最近会う男はスニーティとかアーグルとかどいつもこいつも碌な奴がいなかったからかその久々のまともな対応に感心してしまった。

「ごめんなさいお兄さん…アリシア王都に行くのが楽しみで……ふにゃぁ!?」

やはり人見知りが激しいのかアリシアは俯きながら小さくなって謝ると青年はアリシアの頭を優しく撫でだして最後にポンと撫でると私に一礼して封印の村の方へ去って行った。



「お兄さんが優しい人でよかったね………アリシア?」

何故かアリシアはポーとした表情で去って行った青年の方を見ている。これは…もしかして年上の男性に恋するというアレか!?アレなのか?確かにさっきの青年髪で目元は見えなかったがそこそこ美形だった気がする。私はニヤニヤしながらアリシアに

「アリシアちゃ~ん、さっきのお兄さんが気になるのかなぁ~~?」と訊くと途端にリオンが不機嫌になった。しかしアリシアはまるで子猫の死を見た子供の様な半泣き声で答えた。




「あの人…優しそうだけど…とっても悲しそうな顔だった。顔では笑っていたけど心で泣いてる……可哀想だよぉ……」



青年の影は既になくなっていた。

筆談対話のアイディアは感想のを参考にさせて貰いました!ありがとうございます!

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