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第四十一話 絶望の中で…

side ???


「お母さんお母さんお母さんお母さん!!良かった…無事で本当に…」

「母さん!僕たちのこと本当に忘れていないんだよね!?スニーティに洗脳されていないんだよね!?」

子供たちが泣きじゃくりながら抱きついてくる。状況はよく分からないしこの私を子供たちに引き合わせてくれた…やたら角張って無機物的なゴーレムについてもよく分からないけど私はもう一度子供たちの暖かい手に触れることが出来る。そして私の帰るべき場所へ帰ってこれた。それだけで今は―――


「ね~ね~早くあの肉片凍らせないとまた再生しちゃうよ?とりあえずソフィアはそっちの小さいほうと大きいほうで合体して"カンゼンタイソフィア"に早く変身しようよ~。このまま氷ちゃん一人にあの黒いのの冷凍活動させるの可愛そうだよ~~」

あらこの娘は…?全身が少し水色がかった人よりも遥かに小さく背中に羽を生やした可愛らしい女の子が口を尖らせてリオンとアリシアに注意するように言う。

これは…もしかして精霊!?本当にあの本の中だけの存在じゃなくて本物なの!?

「あ!そうだった!!まずあの魔物を完全に封印しないとまた復活しちゃう!アリシアそちらの魔力の残存量は?」

「う~ん…なんだかお母さん取り戻せてから少しあがってあの肉片の郡ならなんとか凍り付けにできそうかなぁ?」

何の話かしら?魔物に捕らえられているときはスライムに拘束されてよく見えていなかったし正直魔物の声がうるさくてリオン達の会話も私の耳では聞き取れなかった。でもチラッと魔物が子供たちに突っ込んでいったときはもうだめだと思って全身が凍りつくような思いをしたしもう二人には危ない真似をして欲しくない。そう思って二人を止めようとした。


「アリシア、二時の方向の肉片を凍らせて!氷の精霊さんは6時の方向をお願い!」

「お兄ちゃん!この肉片大きすぎて凍らせれないよ!どうしよう」

「きゅくっるる~~!」


…でも、必死でそしてあんなに嬉しそうな顔で黒い破片を凍らせている子供たちを見ていると何だか止めるのは良くない気がして私はそのまま立ち尽くした。私にはエンディミオン様の氷魔法が使えない。だから私に出来ることは二人に錬魔術で魔力を供給させることくらいかな?

ふと、私を魔物から引き離してくれたゴーレムが丁重にもう一人、あの私と同じように魔物に囚われていた金糸の髪が美しい女の子を草むらに下ろしていた。そういえばこの娘リオンとアリシアに面識があったようだけど一体何者なのかしら?疑問を頭の中で反芻しながら女の子を膝枕しその美しい髪を優しく梳く。すると黄金の髪が波打つように揺らめいてその中から肌色の尖ったものが顔を出した。…これはもしかして耳?でも人間の耳がこんな尖っているはずがないしこれは一体…

「お、おいエルフの嬢ちゃん大丈夫か?目を覚まさないみたいだが…」

そういえばこの娘エルフだったわね。でもエルフって本の中でしか知らないし昔魔王に滅ぼされたって聞いたけどまさか実在していたなんて…。


エルフの少女の頭を優しく撫でると今まで苦しそうだったその顔が優しく穏やかな表情となりまるで子供のように軽く抱きついてきた。

「……ん…ソ……ア……………」

よく見ればまだ年齢は14,5といったところだろうか?一見彼女の美しい顔にもう少し年上に見られそうだがこう寝顔を見ていると明らかにまだ幼さを強く残していることが伺える。もっともエルフの年齢は人間のそれとは違うと聞いたことがあるから実際は分からないけれど、そんな子供達があんな凶悪な魔物に立ち向かって行ったなんて…それにリオンとアリシアも私を助けるためにあんな恐ろしい相手に立ち向かっていったのに何も出来なかった私。

…何だか私は私自身が情けなくなってきた。


でもそれはエルフの女の子を心配した冒険者のおじさんやベテラン冒険者、村人達も同じ気持ちのようでせめてリオンとアリシアを積極的に手伝おうと魔物の肉片を運んだり怪我人の治療に勤しんでいた。





「よ~し!あと少しで完全に凍り付けだ!早く終わらせて思い切り母さんに抱きつくぞー!」

「あ、お兄ちゃんずるい!アリシアもアリシアも!」

何だか魔物の封印というとんでもない偉業が普通のギルドの仕事のように思えるのは気のせいかしら?あれからしばらくの間怪我をしている子供達の手当てをしながら意思疎通が可能な水の精霊が今までの経緯や氷の魔法で魔物の傷口を凍らせると再生不能になることなどを教えてもらったりした。


それでリオンとアリシアはあの黒い肉片を凍らせているのね。どうやってあんなにバラバラにしたのか聞いてみたらなんとというかやっぱりというか…大部分は私達の後ろで控えているゴーレム?がやったそうだ。名前は"てつかいざーぜっと"というらしい。凄い趣味の造形ね………誰が考えたのかしら?あと何故か水の精霊はリオンとアリシアの名前は知らなかったみたいだけど私の名前は普通にソフィア~ソフィア~て読んでいるけど本当に何があったのかしら?


それにしてもこんなとんでもない魔物と闘うなんてぼんやりとしか記憶が流れ込んでこなくて、本当に何があったのかとても気になる。魔物が残した爪あとは余りにも大きく、そして深かった。周りを見ても子供の亡骸に縋り付く女性や未だに呆然としている冒険者。そして元の原型が完全に破壊しつくされた村。それらを見ただけで心に深くナイフを突き刺されたような錯覚に襲われて胸が苦しくなる。


「え~~ん!お姉ちゃん痛いよぉ~」

「大丈夫すぐに痛いの消えるから我慢して。ね?」

そんなことを考えながら魔物との戦いで怪我をした子供たちの手当てをしているとふいに一人のローブを纏った男が私の横を通り過ぎた。その瞬間私は言葉にならない嫌な感じがして振り返る。

体が何故か警告を発している。心が今すぐリオンとアリシアを守れと叫びだす。




あの男は危険だ!





「――――ようやく捕らえた。リーシェライト」

「……?」

それは唐突に起きた。魔物の肉片を凍らせているアリシアの元にまるで瞬間移動のように現れるとあのコルテュスが使っていたような黒く濁った触手が男のローブの中から大量に放出されてようやく不振に思って振り返ったアリシアに触手は一斉に襲い掛かりその小さな体を、そして首を惨たらしく締め付けた。


「―――――!!?っいやぁぁぁぁぁぁぁ!!アリシア!アリシア!!放して!私のアリシアを放して!!」

「アリシアーー!!このぉ―――っがはぁ!?」

私とほぼ同時に異変に気づいたリオンがすぐに男をアリシアから引き離そうと氷の槍を掃射しようとしたが、それは横からの容赦の無い蹴りによって妨げられてしまった。そしてそこにいたのは魔物を復活させた貴族の男。男は蹴り飛ばされたリオンの頭を踏みつけると徐々に力を入れて踏みつける力を強くしていく。


「リオン!!やめて!やめてください!!私の子供たちを放してよ!いやだ…いやだぁ!!」

「くくくく…ソフィア安心してくれ。このローブのお方は僕の仲間さ。ちょっと君に因縁があるようだけど僕が君の身の安全を保障するから安心してこのいらない餓鬼が処分されるところを見ているんだ」


男が狂気の瞳でリオンを踏みつける足の力を強くしていく。ローブの男がアリシアを締め付ける触手をより増やして強く締め付けていく。

「……ぁあ…か…ぁ………アリ………ア…」

「ぅ……ぅぁ……おかぁ……」


声にならない叫びで私に助けを求める子供たち。そしてそれを見て泣き叫ぶことしか出来ない私。どうして私はすぐに違和感を感じて動かなかったの?と頭の中で自らを責めたけど実際は未だに私自身突然の状況についていけていなかった。何故リオンが、何故アリシアを殺そうとするの?私たちがなにかやったの?あのローブの男は何なの?


……また…私から全てを奪おうというの?


まるで貴族の男の狂気に魅入られたかのように濁った黒いものが私の中を渦巻く。どうして!どうしてこんな時に時間制御魔法が使えないの!?子供たちを…あの人との最後の絆を守れない力なんて意味が無い!!どうして私は何も出来ないの!?こんなのいやだ!いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!



「フン、我が主であるコルテュス様に逆らう忌々しい一族め!この場で根絶やしに――――なに!?」

瞬間、閃光がアリシアを締め付けていた男に襲いかかった。閃光は…いや、私が介抱していたあのエルフの女の子はアリシアを締め付けていた触手を一瞬で切り裂いて男に肉薄する。そして男の心臓を一突きしようと流星の如く迫る。

「――――――を――――――放せーーー!!」




「我を忘れておらぬか?小娘―――」

だが、閃光を放ちながら直進するエルフの女の子の前に貴族の男を遮る様に巨大な黒い腕が…凍らせて封印したはずの魔物コルテュスの巨大な腕が迫り、その小柄な体をあっさりと捕まえて握り取られてしまった。


「くひゃはははは!!いいザマだなエルフよ!この僕の計画を邪魔したツケだ!炎の黒魔法には自信が無かったけどコルテュス様はこの通り復活なされた!さぁソフィア!このイラナイゴミを始末して僕と君の愛の証を共に育もう!ひゃははははははは!!」


咄嗟に―――

触手から解放されたアリシアを飛びついて取り返そうとした。でも、それはローブの男の新たな触手によってまるであざ笑うかのようにアリシアは取り上げられて再び触手に首を締め付けられた。

「くくくく!!これで…これで終わりだリーシェライトよ!そして貴様も陛下の奴隷となり我らが宿願は果たされる!」

「死ね!死ね!!エンディミオンの餓鬼が!お前なんか要らないんだよ!!」



「…………ぁ…ぁ……………」

「………………………………」




リオンとアリシアの息が小さくなるのを見た瞬間、私の頭も意識も真っ白になった。


「いやぁぁぁぁぁ!!お願いします助けて!私の子供を助けてください!!私ならどうなってもいいです!性奴隷でも何にでもなります!だから助けて!!いやだ!いやだ!エンディミオン様との最後の絆が!!いやぁぁぁぁぁ!!誰か助けて!!誰か助けてください!!いやだ!いやだーーーーー!!エンディミオン様!!エンディミオン様!!」

「やっと僕の気持ちが分かってくれたんだねソフィア!でももしかしたらまたあのエンディミオンに洗脳されてしまうかもしれないから今この場で僕が永遠の愛を与えて真に君を僕のモノにしてあげるよ。」

スニーティはおもむろに私の胸を掴むと一思いに破り捨てる。そして私の白い肌が露出したのを見ると黒い笑みを浮かべて今度はスカートを捲り上げようとする。


「んーでも、もし君が僕との子供を生むとしたらこの餓鬼共はやっぱり邪魔だなぁ~。僕らの子供だってこんな汚らわしい餓鬼が兄弟だなんて可哀想だろうし…やっぱり殺してしまおう!」

「そんな!話が違います!!私が貴方の恋人になる代わりに子供達には手を出さないって!!」

「君は僕を愛しているんだろう?だったらこんなイラナイゴミなんか不要じゃないか。さぁ安心してあのエンディミオンの汚らわしい血を引くゴミが始末されるところを見ていてくれソフィア」


あざ笑うかのようなスニーティの言葉にローブの男も同意するかのように一時的に緩めていたアリシアの首に絡みつく触手の締め付けを再び強くする。


「――――――――――――――――――――――――――」




……………もう…私は何を考えているのかも、何を叫んでいるのかも分からなくなった。ただ、リオンとアリシア。この世界で一番大切で大好きでちょっぴり切ない宝物を救い出すことが出来るなら何だってする。悪魔に魂を売ってもいい。どんな汚いことだってやるし私の体が欲しいならいくらでもあげる。……だからっ!!







「くくく…死ぬがいい。リーシェライト―――」

そう呟いて、ローブの男がアリシアに巻きついている触手の締め付けをさらに強くして、完全に絞め殺そうとし、私の意識が、視界が絶望の闇に飲まれて、貴族の男の狂気の笑い声が空に響いたその時、遥か彼方からまるで私の心の叫びに応えたかのようなその言葉が、声が、強く印象に残った。







「じゃぁテメェが死ね――――」

第二章書ききれたので連続投稿させて頂きます。…長い間お待たせしました。

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