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第三十七話  氷の精霊、君に決めた!

「リリアさん!お前リリアさんになんてことをするんだ!」

リオンがスニーティに噛み付く勢いで問いただすがスニーティはごみ虫を見るような目と冷笑で見下しリリアさんの顎を掴んで自分の顔まで寄せる。その光景に冒険者達からもブーイングが炸裂した。

……というかあんな巨体の化物を前にヤジ飛ばせるってすごいね。

…いや、私もだけど。


「なんてこと?別にただ俺の邪魔をした雌を捕らえてべジャン陛下の崇高なる目的の糧としてその魔力を頂いているだけだが?」

「ま、魔力を奪うって…!!酷い!!今すぐリリアお姉ちゃんを放して!!」

なるほど…エルフであるリリアさんの魔力を吸い取ったからこのコルテュスとやらがこんなに想定外災害並みに強いのか。……いや、確かにリリアさんから魔力を取ったのもきっかけにはなったのだろうが、ただでさえ封印の魔物とか一時この付近を魔物で占領したとか言い伝えがあるのだからこの魔物の元々の戦闘能力もこれくらいはあったのだろう。

それにしてもアリシアは魔力を奪うことを酷いと言っているがやっぱり吸われると痛いのだろうか?

「あんなに優しいお姉ちゃんの魔力を人を傷つけたりお家を壊すことに使うなんて許さない!!」

…あぁ、なるほど。確かにリリアさんってまさしく誇り高き女騎士ってイメージだから人を救うための魔法を勝手に殺戮のために、それも天敵の魔物に使われるというのは確かに耐えられないだろう……表向きは。

私の主観でしかないけれど確かにあの娘は基本的には子供や弱きを助け、卑劣な魔物をやっつけるとか常に清廉に、高潔にという感じだがその言動とかから彼女の絶対崇拝のご主人さまとやらが仮に子供とかごと殺せとか命じたらなんの躊躇いも無く命令を実行しそうな気がする……。


それはともかく、いくら体が女の私でいつも美少女の裸体は見慣れているとはいえミニスカートの騎士服美少女が触手に犯されている方が見ていられなくて気になるのだが…。

しかも何だかんだで大半の男達の目が血走ったように見開いて鼻息荒くしているし。あ、何か下からリリアさんのスカートの中覗こうとした男が奥さんに叩かれている。ざまぁ。

「…ともかく、まずはりリアさんを救わなくちゃ。減速リダクション時間クロック――――」

私を中心に展開されていく赤く濁った世界。


「―――ぬ?それはリーフィンとかいう小僧が使っておった時を操る術……そうか、思い出したぞその銀髪!貴様は奴の子孫だな!?」

減速時間を見たコルテュスはその反応から以前にも時間制御を見聞きしているようだがその話からソフィアの先祖らしいリーフィンというのと闘ったことがあるのだろうか?

それなら奴はこの魔法の恐ろしさを知っているのだろう。全ての止まった世界で動くことも気づくことも出来ずにやられてしまうがいい。ふふふふ――――


「せっかく得た力を世界に還元し弱体化するような愚か者の術がこの闇の支配者に効くものか!!かぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

コルテュスが突然口から黒い霧を吐き出し周囲に散布していく。もしかして煙幕のようにして姿を消し時間制御の範囲から逃れようと画策したようだが私の時間制御はあの屋敷の修行で半径500メートルまで伸び―――

「か、母さん!時間制御が…時間制御の空間が壊れてる!!」

「――――――――はっ!??」


リオンの驚愕から周囲を見渡して展開したはずの時間制御を確認するといつもは赤く濁った世界が展開されるはずなのにまるでそれは引き千切られたタイツのように穴が大きくなってボロボロと消滅してしまった。


「時間制御が…効かない!?いや、あの霧が時間制御の発動を妨害しているのか!?」

これはヤバイ!相手の動きを止めて一方的にこちらが殴れるアドバンテージが完全に無くなってしまったようなもの。しかもそうなると私なんて銃を持っているだけの一般人でしかなくあんな巨体の攻撃を受けたら……

「銃!?そういえば銃があった!」

ポケットの銃を取り出して弾丸を装填する。どうやら弾丸に込められた魔力は無くなっていないことからあの黒い霧は魔力を無効化したり消滅させるものではなく時間制御のみに対して効果を発揮するようだ。幸か不幸かはわからないけれど。


「けっ!何がファンタジーだ!何が魔物だよ!せっかくの私のふつくしいエルフファンタジーを触手陵辱で汚すような馬鹿は現代科学の英知によって滅びるがよい!加速アクセル弾丸ショット!!」

魔力を補填して発射時の威力を増幅された弾丸は流れ星の如く緑色のテイルを残しながら狙い通りリリアさんを掴んでいる左手―――から少し離れた肘辺りに着弾した瞬間にさらに弾丸内に残っていた魔力が暴走を起こして激しい爆発が魔物を襲い、爆風と爆煙を撒き散らす。


「どーだぁ!見たか図体だけデカい単細胞の馬鹿め!貴様ごときでこのソフィア様が「これがどうした小娘」………ごめんなさい嘘です」

派手に爆発して着弾したコルテュスの腕は千切れるどころか傷一つ、凹み一つなく存在していた。あの弾丸発射の余波で地面を抉り、岩をも木っ端微塵に砕いてしまうあの加速弾丸が……全く通用していなかった。


「そんな……お母さんの銃が効かないなんて………」

「あんなに硬いんじゃ僕とアリシアの氷魔法も効かない!?」

「クハハハハハハ!!!どうやら今のは切り札だったようだがあの程度でこの我を倒せるとでも思ったのか?思い上がりも甚だしい!!全く無意味だわ!!」






「―――――――――本当にそうでしょうか?」

ザシュッ……


「「!!??」」

何か鈍い音が魔物の笑いを切り裂くように響き、その後すぐに地響きと共に岩のようなものが落ちるような爆発音が村を包み込んだ。

「なっ!?何故だ!!貴様は我の触手によってただでさえ身動きは取れず、魔力は吸われて既に何も出来ないのでは!!??」

地面に落ちたものは漆黒の肉片―――いや、魔物の指?そしてうろたえるコルテュスとスニーティ。それを見据えてレイピアに滴る紫の血を振り払って切っ先をコルテュスに向け金糸の美しい髪とエメラルドの瞳を煌めかせる姿はまさに女騎士。


捕らえられていたリリアさんが完全に開放された形でそこにいた。



「簡単ですよ。ソフィアさんが放った弾丸は確かに貴方には効果が無かったようですがその衝撃は充分に左腕に響き渡った。そしてその反動で私を拘束していた右手の触手が緩み、私はこのレイピアを抜刀してあの嫌らしい触手をバラバラにして脱出したという訳ですが理解できましたか?旧世代の魔物さん?」

「レイピア…?だ、だが貴様の魔力の殆どは我が吸い尽くし何の力も残っていないはず。…そうか!そのレイピアは何かの魔具なのだろう!小癪な真似をしおって!!」


確かに、触手はどうかは分からないけれど冒険者達の屈強な剣や斧の攻撃で傷一つ入らず、さらには私の加速弾丸ですら碌に凹ますことすら出来なかった強靭な魔物の肉体を切り裂くと言うのは俄かに信じ難く、コルテュスの方もレイピアに何かしらの付加効果魔法があると見た様だがふと、昨日の斬撃の段階の話を思い出して納得した。

この娘、本当にただのレイピアで魔物を斬ったんだ……


「ならば今度は捕らえた後裸にしてその邪魔な腕と足を?もいでやろうではないか!」

リリアさんに迫る魔物の左手。よく見れば斬りおとされた指が煙を上げて消え失せて、斬られた指の部分からは逆に煙を上げながら指が生えている。こいつ再生能力持ちなのか!?だとすると仮に加速弾丸が効いたとしても意味がない。


「なるほど、再生ですか……厄介ですが仮に――――挽肉のように切り刻んでも再生されるのでしょうか?それとも―――」

魔物の左手が押し寄せる中冷静に分析し出すリリア。そして捕まりそうになる紙一重で目にも留まらないスピードで後方に飛びそのまま宙回転しながら左手を切り刻み魔物の渾身の左手掴みスイングが終わる頃には紫の噴水をそこに作り上げていた。


「ああああああ!!!よくもぉぉ!!よくも我の体に傷をつけたな娘!!!!」

「そちらこそ、よくも散々いいように私の体を汚してくれましたね……まだご主人様に味見すらして貰っていない私の体を……!スライムの様な下等生物に!!貴方たちは……貴方たちは絶対にこの私がその汚らわしい体が元が何であったのかの判別が出来ないほどバラバラに斬り刻んで炎の魔法で完全に廃棄処分して己の行いを後悔するほど痛めつけてからこの世から完全に消し去ってさしあげますわ!」


今度は背中の翼竜巻が一斉にリリアに襲い掛かるがそれをバック転、側転、しゃがみと縦横無尽に避けてさらには突然レイピアを鞘に戻して静かに構える。それを見たコルテュスは諦めたかと勘違いしたようだがあの構えは紛れも無く…。

「ようやく諦めたようだな小娘!だが―――――ぐあぁぁぁぁぁ!!?」


――――蒼刀術、抜刀殺。二の太刀、雷斬。三の太刀、双雷の槍


一瞬何かが光ったと感じたときにはリリアに迫っていた竜巻は二つの半円となって真っ二つに叩き割られ、次に迫る竜巻を大きく跳躍して竜巻は地面にぶつかり回避。そしてそのまままさしく雷のような空竹割をコルテュスの脳天に叩き込み最後に迫る二つの竜巻も、レイピアと鞘の二刀で叩き伏せて跳ね返した。



「……………」

「リリアお姉ちゃんすごーい!カッコイイ!!」

「…エルフってなんだっけ?魔力が優れているはずなのに剣で闘うエルフって……」

うん、リオンの呟きに心の中で右に同じ。なんなのあれ!?てっきりエルフだから昨日の件からそこそこ剣の腕はあっても本気の戦いでは魔法重視になると思っていたのに明らかに魔法要素が一つもない物理の究極の剣戟じゃん!!

しかも最初に使ったあの閃光を放った攻撃、剣を抜くところが全く見えなかったけどあの構えって居合い抜刀だよね!?まさかこんな西洋風な世界で居合い抜刀があるなんて思わなかった…

先程からあまり村人とか冒険者の声が聞こえないから殺られたのか?と思ったら全員口を開けて唖然としている。まぁ無理もないよね。

綺麗でスタイル抜群の美少女があんな化物相手に剣一本でガチに殺しに掛かっているのなんて見たらいくらプロトゴノスさんとか人外魔境見てきた私でも唖然とする。


「くっ!やはり魔力無しで倒すのは厳しいですね…」

だが、どんなに攻撃を加えたり肉片を斬りおとしても魔物は即座に再生を始めだしてきりがない。しかし先程の連撃のダメージがまだ効いているらしく再生はしているが一時的に魔物の動きを封じることが出来たのか、隙を見計らって数十メートルほど距離を取って腰のポーチから何かを取り出し、軽快なカチカチという音を立てながら蓋らしきものを捻ってその中身を一気に煽った。

……青いラベル、茶色い容器、しばらく見ることどころか類似品すらなかった透明の容器。そしてリリアさんの口端から零れた一滴の黄色い液体。そう、その疲労した魔力を一気に回復させるマジックアイテムは―――



「リポDじゃねーーか!!何の回復アイテム!?そして何でファンタジー全開のエルフの貴女が持っているの!?」

私の突っ込みに気づいたリリアさんは柔らかく微笑んで可愛らしく首を傾いでリポDを投げ渡して一言。

「ファイト?」

「いっぱーーーつ!…………っじゃなーーーーい!!」


「わぁぁぁ…茶色なのに透明な容器だ!しかもこれってガラス!?こんなに整ったガラス細工を二つも持っているなんて…リリアさんってやっぱりお金持ちなのかなぁ?」

「お兄ちゃんそれだけじゃないよ!この鷹さんの絵すごく細かくて……それにこれって…文字?どこの言葉だろう?」

と、アリシアがリポDの"使用上の注意"を読んでいる間に魔物が態勢を立て直したのか怒りに染まった黄色の瞳でリリアさんを捕らえて地響きを鳴らしながら一気に距離を詰める。


「これで一時的なドーピングとはいえ精霊召還は問題なし。…さて、敵は闇の属性…とはいえ操るのは風が中心。ならこちらの属性は―――」

リリアさんは迫る魔物に臆することなくサーベルを納刀し、再びポーチから今度は何かの布を取り出して頭にスポット被って―――被った布、というか赤と白の混じったキャップの唾を後ろに回し、そして右手でマントを払うように後ろの腰にある何かを掴んで思いきり魔物の方へ投げつけた。


「氷の精霊!君に決めた!」


リリアが投げた物はまるで宝石の様な水色に輝く透明の石。そしてそれが地面に当たると眩い閃光が噴射されて幻想的なダイヤモンドダストの雪を舞い上がらせながら白色の妖精が姿を現した。


「おい!それどこの携帯獣育成者!?普通に精霊召還しようよ!!というか君絶対現代人だよね!?そうだよね!?」

「…?もしかしてソフィアさんはこの動きやポーズの意味が分かるのですか?実はご主人様が『精霊を召還する時は必ずこのポーズと動きでやらなければ駄目なんだ!分かったかリリア?』と言われたものですからそれから必死に練習して……」

元凶はやはりお前かご主人様とやら!確かに直接的にリリアさんに酷いことはしてないけれど間接的というか別の意味で酷いことを強いているじゃないか!事情知らなければ思いきり痛い娘だよリリアさん!清い性格だから主もある程度大丈夫かと思ったけどやっぱり碌でもない人物じゃないか!


「なっ!あれほど魔力を吸い尽くし既に絞りかすのはずがまだ精霊を召還できるほど魔力が残っていたとは……だが精霊如きでこの我が倒せると思ったか、愚かな」

「キュくくくくーーー!キュクク!」

へぇ…精霊ってあんな鳴き声するんだ。まるでハムスターみたいな可愛い声ね。

「え?お腹が減った?魔力は今与えた―――え?魔力じゃなくてお菓子?チョコレート?またこれが終わったらあげるから今は我慢しなさい」

「キュ~~~~……」

精霊ってお菓子食べるの?そしていやに感情豊かで何か世俗に塗れた精霊ね…。精霊ってもっとこう森や湖なんかの自然の力を使う存在だと思っていたけど人工物の甘味料を求めるってどうなの?


「わぁ~~リリアさんカッコイイ!僕もこれから魔法使うときはあのポーズ「駄目!!」なんでなの母さん!」

主に私が恥ずかしくて心の傷が痛むからです……本当にリオンとアリシアが真似したらどうしよう?



かつてなく緊迫し、絶望感に包まれているはずなのに何だかリリアさんが復活してからシリアスさが消えたのは気のせいだろうか?

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