表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/83

閑話  ケルノン大聖堂

今回はまさかのあの人登場。

――――side ???


微かに聞こえる小鳥のさえずりと朝日の柔らかい光で私は目覚めた。ぼんやりとした視界にはふかふかのベットや部屋の壁が写っている。しばらくして意識がはっきりして初めて思ったことは『何故私がここにいるのか?』ということだった。


あの日、私が●●●た日から深いまどろみの中にいるような気分を永い間感じてきた。時たま私の可愛い子供達の声が聞こえてきて子供たちが無事に生まれて健やかに育って行くのを嬉しく思いながら偶に"あの人"が見ているであろう視覚を私も共有することが出来たが私の意識で動けるなんて今までなかったもに…


いや、深く考えるのはやめよう。多分これは主が私に与えてくださったご褒美なのだ。

どうやら私の中の"あの人"も『むにゃむにゃ…しごと…したくないでござる……』と寝言を呟いて夢の世界から戻ってくる気配は無いようだし一日くらい私が替わってしまっても大丈夫でしょう。



「すぅ…すぅ……かぁさん…もうたべられ…ない……」

「うぅ~~ん……おかぁさぁ~~ん…。おしごと…して……」


あらあら。天使たちの寝言は本当に可愛らしいわね。リオンもアリシアも気持ちよさそうな寝顔で規則よく寝息をしている。それにしてもリオンは子供の頃のエンディミオン様とそっくりね。初めて出会った頃の彼に本当に瓜二つだわ。

もうあと数年したら私と恋仲だった頃の彼と見分けがつかないかもしれない。……そうなったらリオンの姿を見て私は耐えられるのかしら。己の至らなさであの方を失ってしまった苦しみに。


いえ、それでも…彼が望んでいなかったとしても認めなかったとしても私にはリオンとアリシアという彼との絆が確かにある。私の愚かな独り善がりでしかないけれどこの二人がいる限り私は彼を感じることが出来る。彼に迷惑をかけないためにももう二度と会うことは出来ないけれどこの子達がいるだけで私は十分幸せなのだ。



「…ふぁぁぁ~~~…むにゃむにゃ…。あ、母さんおはよう」

「ふにゅ~~…。おかぁさん…おはよ~」

しばらく二人の寝顔を眺めながら髪を撫でていると大きなあくびと共に二人とも目を覚ました。


「おはよう。リオン、アリシア。朝餉の仕度出来ているわよ?」

どうやら今いるこの部屋は冒険者ギルドの宿泊部屋の一つのようだ。子供の頃から孤児院育ちだったから基本的に外泊はしないから泊まったことはないけれど院長からギルドには宿泊できる施設があるのは聞かされていたし一度ギルドへは行ったことがあるから間違いない。


丁度この部屋には小さなキッチンがあったので備え付けの調味料と荷物の中の食料で簡単な料理をすることが出来た。リオンとアリシアは椅子に座って料理を前に何故か手を合わせて「頂きます」と食前の祈りのようなものをやっていたけどあれはなんなのかしら?


「……母さん?この料理って何?こんな料理今まであったっけ??」

私の作った料理を一口食べたり音が不思議そうな顔をして私に問いかけてきた。…こ、子供の口には合わなかったかしら……?

「お兄ちゃん、これって前にお母さんが作って失敗してた"ミネストローネ"の完成したものじゃない?前のは仇辛かったけどこれはあっさりしてておいしいよ」


「え、ええっと一応これプカスっていう白の国の一般家庭料理なんだけど……」

アサギさん。あなたは今までこの子達に何を教えてきたのですか…?



「そういえば今いる地方は何地方だったかしら……?」

「お母さんまだ眠いのかな?今いるのはトレーネの街だよ。昨日『ようやくまともな街に着いたーーー!!』って飛び跳ねていたじゃん」

何だかアリシアに婉曲的にまだ寝ぼけているの?っていわれた気がするけどこちらはあの馬車から意識を失って、街での戦争で若干意識が戻ってそして今日はっきりと自我を取り戻したのだから気が着いたらここにいた様なものなのだから仕方がない。


「トレーネ……確か風の国の神聖教会の総本山だったかしら?神聖術士の修行の場でもありドダイトス山脈から吹雪く厳しい雪に耐えた者のみが中級神聖術士として認められるという風習があったり、神聖教会の本部のケルノン大聖堂は観光地としても有名であそこのステンドグラスは風の国でも有数の美しさを誇ると……etc」


「……お兄ちゃ~ん、お母さんが風邪ひいちゃったみたい。」


…アサギさん。あなたは(以下省略




「母さんケルノン大聖堂に行くの?」

「ええ、せっかくあのトレーネまで来たのだから観光に行きましょう。荷物はギルドで預かってもらえるのでしょう?」

「えへへ!お母さんと観光♪観光♪」


食後の片付けも終えてこれからどうするか考えている時にアリシアからここがトレーネの街だと聞いたので今日は大聖堂へ観光しに行くことにした。

アリシアは私と観光できるのが嬉しいのか歌なんて歌ってる。将来は歌手か劇場の人気女優かしら?

とにかく外行き用にアリシアの私と同じ銀の髪を優しく櫛で梳いて整える。髪を梳く度にアリシアはくすぐったそうにしながらも大人しく整え終わるのを待っていた。

「おかーさん、くすぐったいよぉ…」

「ほら、もう少しだから…………はい、終わり。綺麗になったわよ?」


整えたアリシアの髪はまるで銀の皿の様に輝き澄んでいた。本当に幼い頃の私とそっくりね。院長が見たら何ていうのかしら?でもこうして自分の子供としてアリシアを見ると自画自賛の様だけど本当にお姫様みたいね。顔もお人形さんみたいに整っているし銀色の髪の毛も神秘的なイメージを醸し出しているし…。

なんでエンディミオン様は私よりローズ様を選んでしまったのかしら?やっぱり私のような孤児院出のみすぼらしい女では不釣合いということだったのでしょうか?でもそれなら妻でなくとも愛人としてでも側において頂きたかった…と、駄目ね。考えれば考えるだけ暗くなってしまうわ。


子供たちの前でそれは避けなくては。それにそうなったらそうなったで本妻との子であるローズ様の子供よりこの子達のほうが兄妹になるからどちらにせよこの子達が邪魔になってしまうからあの時お腹のこの子達ごと私を葬ろうとしたのだから愛人などと縋り付くこと自体が浅はかね……。



若干思案して落ち込んだ気分を転換するように今度はリオンの髪を優しく梳いていく。リオンの髪はエンディミオン様の髪と同じでふわふわの金髪だからあまり力を入れないで空気を含ませるように梳いていくのがコツだ。

「かっ…か…母さん…っ!か…顔が……近い…っ」

「ちょっと我慢してね~。……はい、男前になったわよリオン」


心なしかリオンの顔が赤いような気がするけど気のせいかしら…?





―――――side リオン


母さんの様子が今朝からおかしい…。

初めは気のせいかと思ったのだけれどやっぱりこうして街中を歩く母さんを見ていると昨日までの母さんとは明らかに違うことが分かる。


なんというか…雰囲気が違うのだ。今まではなんというか外見がもの凄く姫々しているから息子の僕から見ても美人だとは思うけど、口調とか仕草が色々な意味でその整った外見を台無しにしていたのだけど、今日は口調もどこか女の子らしい言葉だし仕草もアリシアのものととても似通っていて本当の意味で女の子という感じだった。外出前に母さんに髪を梳いてもらった時はその女神のような表情に息子であるはずの僕がドキドキして顔が直視できなかった。


そして一番の衝撃。なんとあの母さんが外出前におめかししていたのだ!

あの街に行く時には手櫛で適当に寝癖を直して化粧の一つも(化粧無しでも母さんは綺麗なんだけど…)しないで街に着く頃には寝癖が一、二本ピョンピョン跳ねていたあの母さんが!



「アリシア、あの服似合うのじゃないかしら?」

「可愛い!……でも今は旅の途中だからまた今度にする…」

「そっか……そうよね。でも確か今は風の国王都を目指しているのよね?それなら王都に着いた時に買ってあげるから一緒におめかしして王都の町を巡りましょう?」

アリシアと女の子らしい会話をして盛り上がっている母さんだがさっきから周りの視線がとても気になる。いつもの残念な目立ち方とは違う、圧倒的美しさから来る存在感で大通りの多くの男の人たちが惚けた表情で母さんを見ていた。


…あぁ、確かに仕方のないことなんだけどやっぱり他の男に母さんを見られるのは何だか嫌だなぁ……。








―――――side ???


大聖堂はそれ程込み合ってはいなかった。やはり地方の教会とは違い大きさも聖堂に入ってからの空気もどこかとぎ澄まされた感じがして神聖な感じがする。

「わぁ……綺麗…」

思わず呟いたアリシアの視線の先にはこの大聖堂の一番奥のステンドグラスが太陽の光を透かして美しい色彩で輝いていた。

「お母さん、あのステンドグラスは何を映しているの?」

「あれはね、主リーフィン様よ。…リーフィン様とその父アゼル様については聞いたことあるかしら?」

「そういえば教会で聞いたことあるかな。"シボウフラグ"の人がたくさん出る話だっけ…?」


"シボウフラグ"?何かしらそれは?魔法使いとか神聖術士の新しい呼び名かしら?



「主はね、あのように全ての人を照らして見守っているの。苦しいときも悲しいときも寂しいときも何時でも私たちのそばにいて見守っている」

そこで語るのをやめて周囲の人たちと同じく私も静かに礼拝をする。


―――主よ、どうかこの子達を…私の愛するリオンとアリシアを……お守り下さい…。どうか……どうか……







礼拝を終え、私たちは大聖堂内を観光しながら楽しんでいた。ケルノン大聖堂は主を模して作られた銅像や石造が多くあるが他にもヨハネス聖戦で使用された魔具や武器、勇者一行が持っていたとされる聖剣や聖父アゼルが持っていたとされる魔法の杖等も数多く展示されていた。

アゼル様が持っていたとされる杖を見た後、次にどこへ行こうか三人で話し合っていると聖堂の出口の辺りから悲鳴のような声が聞こえてきた。


「お願いします神官様!この子を…私の子供を助けて下さい!!」

居たのは布に包んだ赤ちゃんを抱えた一人の女性だった。女性は必死に赤ちゃんを助けるように神官にすがり付いていた。

「はっ…肌が黒ずんでいる…!これはもしや呪いか!この子は呪いの子だ!!悪魔の化身だ!!」

赤ちゃんの様子を見た神官は汚物を見るような目となって親子を突き飛ばすと声高に彼女の赤ちゃんを悪魔だ悪魔だと冷罵した。それを受けて母親は信じられないような目で神官を見て必死で

「この子は悪魔の子なんかじゃない!私の…人の子です!!」

と声高に叫ぶが周囲の人間は既に神官の言を信じて疑わず、神官の言葉に合わせて『悪魔!悪魔の子だ!』『なんと汚らしい!』『そのような汚物を神官様に近づけるとはなんと恐ろしい…』と口々に罵倒を始め、さらには『子の母親も悪魔に違いない!』『親子共々焼き討ちにしろ!』と親子を焼き殺せと叫ぶものまで現れた。


なんなの?あれは…

あんなに必死で我が子を守ろうとする母を悪魔と、泣いて懸命に生きようとする赤ちゃんを悪魔の子と罵倒するあの者達はなんなの?赤ちゃんを蹴り殺そうとする集団から必死に赤ちゃんを庇って蹴られる母親が悪魔であるはずがない。肌が所々黒ずんでもなお懸命に泣いて生きようとするあんなに愛らしい赤ちゃんが悪魔の子であるはずがない。



気が着いたら私の足は親子の元へと向かっていた。

―――時よ、その流れを止めなさい。


群がる人達を時間制御で完全に止めてその隙に親子を人山から連れ出して時間制御を解除する。


「死ね!悪魔の子……あれ?奴らはどこに…?」

「あ、あそこだ!いつの間にあんなところへ!」

「悪魔だ!悪魔の力だ!!」



「お黙りなさい!!!」


「「「!!!???」」」


私の一喝と共に静寂に包まれる聖堂。私はそれを無視して未だむせび泣く親子に笑いかけて彼女の赤ちゃんに優しく手を添える。

「もう大丈夫。大丈夫だから……ね?」

出来るだけ優しく彼女に声を掛けると彼女は安心したのかきつく子を抱える腕を緩めてくれた。


「おい君!その悪魔から今すぐ離れるんだ!……いや、もしや貴様も悪魔の使い――」



「主よ、汝に仕える小さき者を救いたまえ………エリクシル」

神官の声を無視して私は詠唱を開始し詠唱と共に私の手が淡く発光し、その光が親子を包み込んで癒していく。しばらくしてようやく光が収まったときには、母親が蹴られて出来た傷も、赤ちゃんにあった黒ずんだ肌も全て治っていた。


「あ、ああ…私の赤ちゃん……もうなんともない!………ありがとうございます…!ありがとうございます!!」

赤ちゃんの肌を確認して黒ずみが消えていることを確認した母親は私に抱きつき御礼をいいながら泣きついた。


「い……いま…のは…最上級回復神聖術……エリクシル……!?」


「ほら、いつまでも泣いていないの。赤ちゃんが戸惑ってますよ?」

「本当に…!なんと御礼を申したらよいか!貴方様のおかげで大切な我が子が救われました…!本当に…本当に……」

母親を宥めながら私は内心『しまったなぁ…』と思っていた。先程の神聖術は神聖教会でも秘匿中の秘匿神聖術"エリクシル"。神官の中でも飛びぬけ優秀だったり信仰心の強いもの、それらの者が大司祭として任命されるがその中でもさらに指で数える程だけの者が神聖官として任命され、神聖官のみが先程のエリクシルについて知ることが出来、尚且つ神聖術の力量から唯一使えるといわれているもの

だが、そんなものをこんな公衆の面前で使っておいて神聖教会に目をつけられない訳がない。


きっとこの後私は神官達に連れて行かれるであろう。でも後悔はない。

詠唱前に確認したがこの赤ちゃんは既に黒ずみに犯されて死に掛かっていたため、どうしても強力な神聖術でないと救うことは出来なかった。しかもあの黒ずみはなかなか厄介でこの神聖術か上級神聖術のレベルでなければとても完治させることは出来ない。しかもこの地域では珍しい病気だからあの神官は呪いだと勘違いしたのだろう。だから私は躊躇わず最上級神聖術を使った。

…もし、私が逆の立場でリオンやアリシアが死にかかった状況を想像するとそうせずにはいられなかった。



「母さん!母さんって神聖術使えたの!?」

「いつも神聖術のこと否定して超能力っていってたのになんで!?」

今まで見ていたのかリオンとアリシアが駆け寄って私に凄い勢いで問い詰めてきた。…確かに悔しいけどアサギさんがこの子達を育てたようなものだから神聖術とリーシェライトの血の関係について知らないのも無理はない。

……だけど神聖術を超能力はないと思います…。


「ご婦人、申し訳ないが少し我らと共に来ていただきたいのですが…」

子供たちの後ろには神官がザッと20人ほど私たちを取り囲んで並んでいた。やっぱりこうなるか…。

私を取り囲む神官の目は私だけでなく私の子供のリオンとアリシアにも向いている。上級神聖術が使える者の血縁者なのだからやはり目をつけられてしまった。だが、この子達は神官たちが何を言おうと絶対守り通すつもりだしもし子供たちを連れて行こうものならこの人たちを殺してでも―――――



「……子供達の身の安全を保障するならついて行きましょう。ですが…」

神官たちを鋭い目で睨みつけて子供達に手を出させないよう釘を刺す。私に抱きついていた母親は取り囲む神官とそれを睨みつける私に戸惑いキョロキョロしていた。リオンとアリシアも突然のことに戸惑っているようだ…。巻き込んでしまってごめんなさい……。


にじり寄る神官に対していつでも時間制御を発動できる準備をしておく。時間制御を発動したら素早くギルドに戻って荷物を受け取り早々にトレーネを経たなければ。そしたら今度は国どころか神聖教会に追われることになるのかしら?






「その方に手を出すでない」


そんな硬直状態は一人の老人の言で唐突に解けた。現れた老人は温厚そうな顔つきで服装は神官のような祭服だが少々異なっている。あれは……大司祭の祭服?

「だ、大司祭様……しかし!」

「その御方に手を出すでないと申しておる。その御方様とその御子息様を拘束するということはそれ即ち主に対する反逆ぞ!」

大司祭の一喝で取り囲んでいた神官たちはそそくさと散っていった。そして大司祭は私に呆けたまま抱きついていた母親に二三何かを述べると母親は深く私に頭を下げて場を去っていった。


「いや、申し訳ありませんでした。私の見ていぬ所でこのような事態となってしまい貴方様の神聖術を使わせるようなことになってしまい本当にお詫びと…そして感謝を申します」


どうやら大司祭は私の正体について既に見通してしまっているようだ。だがそれはまずい。もし大司祭の口から私がまだ生きていることが分かったらあの人はきっと私たちを探し出して私ごとリオンとアリシアも始末するだろう……。せめてそれだけは避けなくては。私の浅ましい願いでしかないのだけれど私はこの子達と静かに暮らせれればそれで満足だから……あの人には迷惑をかけないから……。


「大司祭様…お願いなのですが私のことについては……」

「勿論他言はいたしません。安心なさい、もし貴女の様な存在が生き残っていると世間に広まればどんな連中が狙ってくるか…それこそまさに主に対する反逆ですじゃ」




その後大司祭は再び私の存在について神官達を含め他言しないと再三誓ってから大司祭に別れを告げて大聖堂を後にした。


「ねぇ母さん。なんで母さん神聖術を使えたの?教えてよ」

「昔いた孤児院の院長に教えてもらってね。多分努力すればリオンもアリシアも神聖術が使えるようになるわ」

「本当?でもあれ主に対して信仰深い人じゃないと使えないのに普段から『神様なんかいねェよこんちくしょう』って言ってたお母さんが何で使えるんだろう?」

アサギさん……


大聖堂を後にした私たちはトレーネの市場まで来ていた。会話が何か私の知らないところでの大暴露大会の様なものになっているのは気のせいかしら…?それはともかくトレーネの市場は活気があって風の国の東部から西部への唯一の玄関口のような町だから物流もそれなりに大きいものだった。リオンもアリシアも最初は何度も私の神聖術について質問していたが市場の珍しい物に興味を惹かれたのか次第に話題は市場のことへと変わっていった。

挿絵(By みてみん)

くぅ~~

丁度調理器具の店を見ていると可愛らしいお腹の音が聞こえてきた。

「……なんで私を見てるのお母さん?私じゃないよ!」

あらあら、アリシアは恥ずかしがり屋さんね。でもそろそろいい時間だし財布を見るとお金もそこそこあったので稼いだ本人のアサギさんには申し訳ないけど夕食は外食にしましょう。

「だからアリシアじゃないよ~~!お母さん!」

「…………」


ぷりぷり怒るアリシアの後ろで何故かリオンが顔を赤くして俯いていた。風邪でも引いてしまったのかしら?





「母さん、ケルノン大聖堂が綺麗だよ。」

「とてもいい場所がとれてよかったわ。ディナーも美味しいし」

市場を一通り見て周り料理の質やワインの質を見分けて、それでいてあまり派手やかでないお店を探して通りの大きな店との間にあるこのお店を選んだのだけれど正解だったようだ。路地裏のような店の奥には開いた空間があってそこから二階へ上がると眺めの良いテラスが広がっていた。このテラスがまた素敵でリオンのいう通りテラスからはドダイトス山脈の雪山を背景にケルノン大聖堂がオレンジ色に

淡く輝きロマンチックな雰囲気を醸し出していた。


お料理を注文した時に他のお客さんに聞いたのだけどこのお店は所謂知る人ぞ知る名店でこのテラスから見える絶景はまさに知る者のみの特権で他の場所や声高に大聖堂が一望できると叫んでいる店でもここまで綺麗に大聖堂を見ることは叶わないとのことらしい。さらに店の料理に関しても経営している店主が元水の国の王宮料理長で引退後静かにこのトレーネの街で店を開いたそうで味も一級品だそうだ。

しかも店のワインは水の国で王宮料理長時代に築いた伝で低価格で仕入れている上級ワインだそうでこれも他の店どころか風の国そのものに出回っていないらしい。そんな店を偶々偶然かもしれないが見つけられた私はとてもラッキーだといわれた。

確かに場所的には隣の煌びやかな店との間にあるから分かりづらいし目立たない。店主についてももう常連や知る者のみが来れば静かでそれはそれでいいと思っているらしく特に口コミをする気はないらしい。


出てきた料理はとてもあっさりとした味わいでお肉を口に入れた瞬間香りが口の中に広がりお肉が蕩ける様な歯ごたえでアンドラダイト家に仕えていたときもシェフのお料理や賄いは一級品だったがこのお店のお料理はそれ以上だった。さらに料理を食した後のワインも上級品…いえ、これはもう最上級品と呼べるような代物だった。


美味しいお料理とワインを味わいながら眺めるケルノン大聖堂。

……出来たらエンディミオン様とここにデートに来られたら…いえ、それはただの欲張りね。あの人との絆、リオンとアリシアがいてくれるだけで私は幸せなのだからこれ以上求めては駄目。


「…?母さん……」

知らず知らずのうちに私はケルノン大聖堂の淡い輝きを悲しい目をしながら眺めていた。










――――side ソフィア


「ふぁぁぁぁぁぁぁ!!よく寝たーーー!何か今までで一番よく熟睡した気がする~~」

気分的に2日間眠ったような気分だ。この旅を始めてからギルドで寝泊りするまでまともに寝ていなかったのだから気分最高だ。ただよく眠って精神的にはすっきりなのだがどういうわけか体の疲れが完全に取れ切っていないらしい。まぁそれでも通常活動には問題ないのだが。

「…ふぁぁぁ~~~…むにゃむにゃ…。あ、母さんおはよう」

「ふにゅ~~…。おかぁさん…おはよ~」


可愛い我が子達も私の後に目を覚ました。そういえば寝起きなのに二人ともやたら整った格好なのだが気のせいだろうか?

「おはよーリオン、アリシア。さて、今日は久々の大都市だから遊ぶわよ!」

まず市場で飯を食して、適当に回って、観光して、飯を食って…etc


「……何いってるの母さん?昨日散々観光したじゃん」

「今日は一気にトレーネを下ってポペルの森に行くんでしょ?」


……は?


昨日観光した…?そんな記憶がまるで無いんだけど。というかアリシア、ポペルの森ってなに?

「昨日話していたじゃんお母さん、ポペルの森は薄暗くて鬱蒼と木が生えている森だけどその中に村があるからそこを経由すれば平原に出られるって」







…………これはまさか"夢遊病"!?

いや、そうとしか思えない。まさか夢遊病だったとは…通りで2日も眠った気分なのに体が少しだるい訳だ。



この時ソフィアの頭に"本来のソフィア・リーシェライト"の文字は欠片ほども思い浮かばなかった。

お知らせ

いつも"残念なお母さん"のご愛読ありがとうございます。突然で申しわけありませんがスランプに陥ってしまったので今作品を1ヶ月程投稿を休みたいと思います。

誠に身勝手ではありますが申しわけありません。また再開の際には今作品をよろしくお願いします。


ちなみにスランプの最大の理由は一度通して書いていたらとある複線をどこに入れたら良いのか分からなくなってそうしているうちに今作品の書き方が出来なくなって…etc

とりあえずリハビリとして今、別作品を書いていますがむしろその別作品が伏線となるわけで…いや、訳分かんないですよね。すみません。

1ヶ月休止と言ってますが何だかんだで1週間程で戻ってくる場合もありますのでその時もよろしくお願いします。

長々とすみませんでした。   意血病出 (停滞虚無)


追記:イラスト移動。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ