第二十三話 プレーン草原地帯
ヒーズ・タウンの戦場から脱出し帰る家をなくした私たちはとりあえず一番近くの村へ行くことにし、広大な草原地帯を半日かけてようやく抜けコトシゲ村という和名っぽい村へと到着した。
早速泥だらけ、傷だらけの体を清めようと宿屋に行ったのだが私達と同じようにベラストニア地方から逃げ出してきた人が大勢いて部屋はどこも満員。なんとか風呂だけでも貸して欲しいといったら了承してもらえとりあえず体を清めることは出来たのだが(ちなみに当然だったが風呂とは名ばかりの井戸のようなものでシャワーが無いのは仕方ないとして湯船すらなくただ水を汲んで体にぶっかけるという中身現代人の私ではとても風呂と呼んでいい代物ではなかった)今度は今夜一晩明かす寝床が無いことに頭を悩ませることとなった。
「今日の宿どうしましょ…」
「こんな状況だし仕方ないよ母さん。別に僕は野宿でも大丈夫だよ。アリシアは?」
「私も……お母さんと一緒だったらどこでもいい」
野宿…か。正直私の体が"アサギユウジ"のもので子供たちがいない状況なら別に野宿でも問題ないないのだが、この体が女性でしかも美少女体、さらには子供たちがいると訳が違ってくる。下手に野宿などしようものなら寝ている間に何をされるか分かったものではないのだ。
私が男なら財布掏られる程度で済むのだがもし寝ている間に主にあっちの目的で襲われでもしたらたまらない上に子供たちが連れ去られるなんてことも十分考えられる。あのベラストニア戦争でも以前教会でアリシアを泣かせたクソ浮浪人があの戦場でリオンとアリシアを攫おうとしていたと子供達から聞いた。やっぱりというかなんというか攫おうと思った理由は二人ともトップクラスの美形で特にアリシアは私と同じ銀髪だから高額で売買する予定だったらしい。本当に二人をあの戦場で見つけられず売られていたと思うとぞっとする…。
そういう理由諸々考慮するとやはりどこかに泊まるしかない。しかし宿屋はどこも満員で近くの民家も少しお金を高く出せば泊めてくれたらしいのだが今ではどこもかしこも埋まってしまってこちらも定員オーバー。あぶれた人は仕方なく野宿の準備をしていたが父親母親が揃っているところはどうやら交代で周囲の見張りと警戒をするようだからいいのだが片親、しかも母親だけの者たちは互いに固まって協力して見張りをするという協調性あふれる集団行動をしていた。
……。
………え、私?元々引き篭もり体質だしあんな集団行動なんて無理無理。協調性?なにそれおいしいの?て感じである。いくら同じ女同士とはいえ中身が男の私ではまず話は合わないだろうしそれに他人と共に夜を明かすなんて私のストレスがマッハだわ。それになんだかあの集団から睨まれているような気がするのだが気のせいだろうか……
「さぁ!リオン、アリシア!あの夕日に向かって走るわよ!」
そんな訳で結局コトシゲ村を出て現在延々と続く草原地帯を駆けている。
夕日が新たな冒険を迎える私たちを祝福するように暖かく包み込んでいた……
俺たちの闘いはこれからだ!
………で、解決する訳もなく結局草原地帯で夜を迎えることとなった。
正直あのまま睨まれはするかもしれないが女性集団になんとか入れてもらって一晩明かす方が子供達にとっても安全だったのだが私の我侭で巻き込む形になってしまった。
「ごめんね……リオン、アリシア…」
「いいよ別に。それにあの人達母さんを見て嫌な気配飛ばしていたし、そんな人達と寝るなんて僕も嫌だよ」
「お母さんは私が守るから安心して眠ってね!」
謝る私を逆に励ましてくれたリオンとアリシア。
本当にいい子に育ってくれて、お母さんうれしいわ……
「むにゃ…むにゃぁ……すぅ…すぅ…かあさん…」
「すや…すや……んん…おかあさぁん……」
…まぁそれでもやっぱり子供だから睡魔には勝てないのか月が南中した頃には二人とも夢の中へ旅立っていた。気持ちよさそうに眠りながらも二人とも私のスカートの裾をギュッと握って離さなかった。あぁ本当に可愛いやつらめ…。
そんな可愛い天使たちの寝顔を見つめながら今現在のこと、これからのことを考察する。リオンに聞いたのだが、今現在の場所はヒーズ・タウンから西に離れた所でコトシゲ村があることからもプレーン草原地帯という場所らしい。
年間を通して降水量が少ないためあまりこの辺一帯は木が生えず代わりにそこそこの高さの草原がただひたすら広がることから畑が少なく村や街もしばらくしてこの草原を抜けるまではそんなにないという。こういう気候をステップ気候っていうのだっけ?その影響で獣の類や小ドラゴン等の動物も少なく、水の入手し難い環境から盗賊や浮浪人も少ないらしい。もっとも今はベラストニアから人が雪崩れ込んで来ているからどうか分からないが…。
ただ、降水量が少ない地域だが、北の山脈から流れてくる川のおかげで水には困ってないらしく、ただ必然的に川の近くでないと水が引けないため村が少ないだけであってこの地域の住民は特に水問題や日照りに悩まされてはいないらしい。
さて、これからどうするか…。正直いくら降水量が少ないけど川もあって住みやすいとはいえこんな戦場(跡地)から歩いて半日のすぐ近くの所にはとても住む気にはなれない。そもそもあのヒーズ・タウンが国境から近いのは日記云々から分かったがまさか隣国と小競り合いしているすぐ近くだと知っていれば早々にあの街から引っ越して戦火など別世界事のようなド田舎…では子供達が可哀想か。まぁ安全な王都とか近隣の中規模都市にでも移住していたのだが現状は戦争から逃げてくるのがやっとで今の所持品もなけなしの貨幣とナイフ、銃が一丁。先程の村で価格高騰していた食糧と今リオンとアリシアに
かけている布くらいしかない。
要するに新天地へいってからなにかしら働いて金を稼がなくてはいけないのだ。だが、コミュ障の私が人と密接に関わる仕事など出来るわけがないしそうなると一番楽なのは今までのように畑仕事とかだが王都みたいな大きな都市付近で畑に出来るような土地はまず無いだろう。
そうなると……いっそ食堂とかパン屋でも開いてみるか?料理は子供達には受けが良かったしどうやら現代洋食のレシピの殆どがこの世界にはない料理らしいからな。でも店を開く資金はどうするよ?
………そうだ!あのプロトゴノスさんの魔物とドラゴンについての情報を伝えた報酬としていくらか貰えるかもしれない。王宮うんたら騎士というくらいだから報酬もそれなりに出るはずだろう。そうなると目指すは王都か。そういえば王都へは西へ―――というのは分かったけどどのくらいの距離があるのだろうか?何かこの後ギルド都市とやらとか山脈があったりとか妖精が住む湖が広がってる…etc といってたから距離的には相当あるのだろう。
ウト…ウト………って、いかんいかん!ただ一人で考え込んでいたらウトウトと眠ってしまいそうだった。何か眠気を吹き飛ばす暇つぶしはないだろうか……。そう思って周囲を見渡すと丁度手のひらに収まりそうな形のいい石が一つ落ちていた。
―――そうだ、これを使って今のうちに時間制御の訓練でもするとしよう。
戦場では結構考えなしでバンバン使っていたが、あれはあれで発動中気力を使う感じになって長時間使い続けると魔力的なものがゲシゲシ削られた。そして最後のあのトロル戦では魔力がなくなるなどという最悪の事態に陥ってしまったほどだ。今のうちによく慣らしてどのくらいで魔力切れになるのか知っておいたほうがいいだろう。
それに何故か減速・時間は何度やってもナイフなど魔法をかけた物が暴走して高速スピードで飛んでいっていたし確実に魔法を使いこなせるようになっておいて損はないだろう。
いつまたあのトロルや黒い竜みたいなとんでもない化物が現れるか分かったものじゃない…いや、多分そこいらに大量にいるであろうトロルですらあの強さだったのだ。この先の旅ではもっととんでもない化物が出るかもしれない。それこそコボルトなら鉄をも豆腐のように切り裂く爪を持ってるとか
スライムならあらゆるものを溶解させる液体を飛ばしてくるだとか……
そんなわけで修行を開始しようとしたのだが、私のスカートは依然としてリオンとアリシアに握られたままなのでとりあえず石を投げてその間に加速と減速を交互にかけるという修行をしようと思い立ち早速石を夜空高く投げた。
「加速・時間……」
ポテッ…
……。うん、詠唱している間に石が落ちてきてしまった。"加速"までは間に合ったのだが"時間"まではとても間に合わないようだ…。これは改良した方がよさそうだな。戦場では全員目で見てから確認した敵だったから加速・時間まで唱えることが出来たがもし不意打ちを喰らったらいちいち全文詠唱しているような余裕などない。もっと詠唱は短くしても魔法が発動するようにしたほうがいいな。
……というか勝手にカッコイイと思って前世のアニメとかを参考にこの詠唱考えたけどこれ詠唱する必要本当にあるのか?
ありませんでした☆
普通に心の中で加速しろっておもったら赤く濁った空間が形成されて石が超スローで落ちてきました。
……まぁ色々思うことはあるけどとにかくこれなら咄嗟の発動は可能そうだし石の修行も問題なさそうだな。
さて、まずは指定したもののみに加速、減速が出来るようにならなければいけない。先程の加速・時間は自分にかけて石の動きを遅いと感じたわけだが、今度は石のみに指定して効果範囲を自由自在に発動させなければいけない。減速時間の時に強く感じたが、指定箇所への時間制御は静止物に対してはあまり難しくないのだが、動いているものに
対して発動させるのが非常に難しかった。この投げた石のように動いている物に時間制御をかけるときは動いている石と合わせて時間制御の発動座標も動かさなくてはいけないのだ。
だからこの修行で石の動きに追従する形で確実に時間制御を発動しきればどんなにゲッタンしている敵に対してでも綺麗に心臓麻痺をすることができるだろう。(実際は心臓爆散になるのだが…)
そんな訳で修行を再開し石に対して念力のように加速時間を発動させて上昇する石の動きを早めようとする。
―――ボワッ
何故か石を中心として赤く濁った空間が広範囲に広がり、私まで飲み込んで石は加速どころか減速して上昇していた。
「効果範囲の制御がそもそも出来ていないのか……はぁ、まずはそこからだな。」
そう思い時間制御を解除しようとした
――――――「ん?」
が、そこであることに気がつく。
「なんで加速させた石が減速しているように見えたんだ?今は私自身に時間制御を使ってないのに……」
それにあの効果範囲制御ミスで出来て私すら取り込んだこの空間だが今遅い速度で飛んでいる石の中心から広がって私を飲み込んだということは間違いなく私に対して発動させたものではない。それなら普通は石も普段と同じ速度で動いている私と同じように魔法発動前と同じ速度で飛ぶんじゃないだろうか……。
これって…まさか……
試しにもう一度、今度は私も効果範囲に入らないように石を遠くへ投擲して石に向けて加速時間を発動させると、石を中心に赤い結界のようなものがドーム状に出来上がりそこから透けて見える石は止まっている様なスローな速度で放物線上に草地へと落ちていった。
……要するに見事に減速していた。そして加速魔法を発動させたつもりが減速魔法になってた。
…ということは何か?今まで加速して相手より早くなったと格好つけながら戦ってたが実際は相手の動きを遅くしてそれを自分が早くなったと動けない相手を一方的にボコボコにしていたただの勘違い野郎だったのか?恥かしい何てもんじゃねぇぞそれ!!
何が加速・時間だよ!
加速・時間になってるじゃねーか!!
……て、ことはもしかして減速・時間も…。
いや、これは検証するまでもなく考えてみれば今まで実例が何度といわず全てであった。減速させたつもりが暴走したような超スピードで飛んでいくナイフ、心臓麻痺させたつもりなのに爆散する心臓。
要するにこちらも減速・時間が減速・時間になっていた……。
もうやだこの魔法。
「……ふにゅ…う~~ん…おかぁさんおはよ~……あれ?どうしたのおかあさん??」
翌朝日の出と共に起床したリオンとアリシアが見たものは体操座りで蹲って鬱になっているソフィアの姿だった。
お待たせしました。スピード重視で書き進めていますが体調不良、空き時間、やる気…etcで遅れてしまいすみません。
次々話のイラスト背景で悩んでます。一度小説投稿してからUPしようか…?




