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第十九話  厨二病VS黒きドラゴン

リオン視点

鎧の男との闘いからしばらくして僕とアリシアは焼け焦げた街の中を二人で歩いていた。

街の地獄のような風景と鎧の男を殺してしまった罪悪感から少しでも逃れたくて出来れば走って街から抜け出したかったけど先程の戦いで体力が限界に近くて歩くだけでもやっとだった。


アリシアはずっと僕の手を握ったままだ。

未だに鎧の男を殺してしまった恐怖でその手から小さな震えが伝わってくる。

とても一人で歩けるような状態じゃないから、手を強く握り返し、引っ張りながらなんとか歩み進んでいる、そんな状態となっている。


「お兄ちゃん…。もう、こんな所嫌だよ……。みんな死んで…赤くて…怖くて……。かえりたい……お母さんのところにかえりたいよぉ…」

僕も一刻も早く母さんの下に帰りたい。でも母さんの所にはアーグル達が向かっているはずだから無事かどうか…。

もし、家に着いたときにお母さんがめちゃくちゃにされてアーグルが我が物顔で僕らの山小屋にいたら、と考えると怒りでどうにかなりそうだ。…いや、母さんのことだから無事だ。無事に決まってる。いつもは色々残念だけどこと戦闘に関してはその残念さを遺憾なく発揮して銃とか強い武器を用意してたし大丈夫なはずだ。






……でも肝心なところで抜けてるんだよね、母さん。







ようやく街の北側にまでやってきてあることに気づいた。中央広場を越えた辺りから横たわっている死体が今まで街の人のものしかなかったのが北に向かうにつれてさっきの鎧の男と同じ鎧を着た死体が急激に増えているのだ。

誰か風の国軍の強い勇者が現れて鎧の男と同じ奴を倒してくれたのかな?


あと不思議なのが死体の中で微かに生き残っている鎧の男がアリシアを見て何故か

「あ…悪魔ァァァァ!!」

「来るなァァァ!こっちへ来るなぁぁぁ!!」

「やめろー!死にたくなぁぁぁい!死にたくなぁぁぁぁい!!」

と叫んでよろけながらも必死で逃げていったけど何だったんだろう…?



だけど今はそんなことを気にする余裕もなく、また鎧の男達も勝手に逃げて行ってくれるから再びアリシアと歩みを再開した。

…ただ、少し遠くのほうで

「死んじまえよぉぉ!おぉぉらぁぁ!!」というどこか懐かしい声だけどその後に響く無数の悲鳴から明らかに戦闘を楽しんでいるような声が聞こえたけど二人一致で関わらない方がいいと判断して無視して行くことにした。


あの声の主が鎧の男達の怯えている元凶なのかなぁ?



「おう、久しぶりだな小僧」

僕らの進行を遮って現れたのはいつかの嵐の日にアリシアにあげるはずだったビスケットを奪い取った浮浪人だった。

「お前ら町から脱出するつもりか?それならオイラについて来い。脱出する道へ連れて行ってやる」

浮浪人は急にそんなことを話し出した。街からの脱出ルート、確かに今は一刻も早くこの街から出たかったがそれよりも母さんのいる山小屋へ行くのが最優先だ。僕達だけで脱出するわけにはいかないし母さんがいなければ仮に脱出できたとしても子供の僕達じゃそこから先どうしたらいいか分からない。

「いや、僕たちは他に行く宛があるからいいよ。おじさんだけで逃げなよ。」

だから簡潔にその提案を断る。


…まぁそれだけが理由じゃなくて、この浮浪人からは親切さを一切感じないからだ。先のビスケットの一件による先入観かもしれないけどなんだか目が僕とアリシアの顔を見て明らかに気味悪く笑っている。

特にアリシアの顔を見て…


「なんだ?いいのか?お前らの母親もオイラの所にいるんだが…」

嘘だ。明らかに目が嘘と物語っているし、僕とアリシアを見てから思いついたように言ったことから後付の嘘だろう。


「それっていつから?」

「あぁ?あ~さっきだよさっき」


僕が質問すると浮浪人はイライラした表情で投げやりに回答した。

「やっぱりいいよ。おじさんに迷惑掛けるわけにはいかないし。」

やはり母さんが居る云々は嘘みたいだ。まずあの母さんが僕たちを見捨てて自分だけで逃げることが考えられない。母さんのことだからアーグル達から無事逃げ出したと仮定すれば今頃街の人に話を聞いて僕達が閉じ込められていた倉庫街に向かっているはずだ。もっともこんな状況じゃ情報集めは上手くいっているかどうか分からないけど…。


次にこの浮浪人の独自のルートとかいっていたけど、周りの死体を見て分かるように既に風の騎士団が街にいて、街の人の避難誘導とかをしているにもかかわらずこれだけの死者が出ているのは、鼠一匹抜け出せない包囲網が既に形成されている証拠だ。それに独自ルートと言っているけどヒーズ・タウンから脱出するルートは風の国の王都方面かしばらく山道を進んでの土の国方面、あと危険なルートだけど僕らの山小屋のある山の横を迂回してゆく白の国方面しかない。このルートはそれぞれ僕らの山以外は

ヒーズ・タウンの周囲はただ一本の川が流れるだけの平原。隠れる場所も洞窟すらない平原地帯だ。

逃げ場なんかあるはずがないし、そんなものがあったらとっくに教会の友達や5歳の頃"あらびあんふぁっしょん"をやっていた母さんがとっくに見つけている。


「……ああああ~~~!!もう面倒くせぇ!せっかくオイラが優しくお前らを売ってやろうと思ったがもうやめだ!お前ら満身創痍っぽいから都合がいいぜ。」

結構早く正体を現した浮浪人は腰からナイフを取り出していやらしく笑いながら僕らに突きつける。どうやら上手く(?)誘導して僕らを奴隷として売り飛ばす算段だったらしい。


僕とアリシアは浮浪人を睨みつけてなけなしの魔力で形成した氷の槍と剣を構える。

「ほぉ、お前ら魔法なんて使えるのか。こりゃ本当にラッキーだぜ、売れば金貨10枚は下らない」

にじり寄ってくる浮浪人に僕はアリシアを背に回して槍を構えたが、アリシアはそれを拒んで僕の横に出た。

「嫌。お兄ちゃん、私も闘う」

僕の考えを遮るように強く言放つアリシアは空中に氷の剣をさらに3本出現させて浮浪人に向けて構えた。


―――そうだった。僕らは二人で一つ。

僕だけでもアリシアだけでも駄目なんだ。どちらも欠けちゃいけないし一方だけでは何も出来ないけど二人でなら出来る。それをあの鎧の男との戦いで学んだばかりじゃないか。アリシアと一緒ならこいつにだって負けやしない!


「ケケケケ…前は泣き虫だった小娘がずいぶん生意気になったじゃねぇか。だが魔法が使えるとはいえ大人相手にボロボロの子供が勝て―――」




そこで浮浪人の言葉は途切れた。黒い影が現れ、飲み込まれたと同時に。



「な…なんだ?これ…」

「この影…なんなの?」

その影は大通りの端から端よりさらに大きくて影なのに立体になっていた。しかも所々ゴツゴツ尖っていて上のほうには赤い光が二つギラついている。



―――いや、これは影じゃない。これは…






―――ドラゴン!

「ギャシャァァァァァァァァァァァーーース!!」



影だと思っていたそれは体長50メートルはあろう漆黒のドラゴンだった。黒いドラゴンは先程食らったであろう浮浪人を咀嚼し飲み干すと今度はその赤き双眼を僕とアリシアに向けてきた。

「ギィシャァァァァァァーーーーー!!!!」

地が響く地震のような咆哮と共にその口から唐突に黒い炎の塊が吐き出されて―――っ!


「氷の壁よ…っ!!」

間一髪、咄嗟の判断で最後の魔力を振り絞って氷の壁を作り出しドラゴンの放った黒い火球を防ぐことが出来たが急とはいえ厚さ30センチの氷の壁を一瞬で溶解させてしまった。


目の前のあまりに大きすぎる存在とその強大過ぎる力に驚きと混乱でただ呆然としている僕らとは逆にドラゴンは再びその禍々しい口を開いて黒の炎を放とうとする。

「アリシア!氷の壁をお願い…!」

「氷の壁…氷の壁……やぁ!」


アリシアの作り出した厚さ50センチ以上はあろうかという氷の壁は再び炎を完全に防ぎきったが炎がぶつかる轟音と共に氷の壁は跡形もなく蒸発してしまった。そして炎を防ぐのに精一杯な僕らをあざ笑うかのように再び黒い炎を放つドラゴン。それを氷の壁で防ぐ僕ら。ふと周囲を見ると僕らの周りの建物や地面はまるでマグマに溶かされたかのようにドロドロになっていた。それを見て背筋が凍りつきそうになった。


またもや炎を放ったドラゴンにただ氷の壁を作り出して防ぐしかない僕ら。炎が氷の壁にぶつかるけたたましい破砕音と周囲の物体の解ける音、周囲の物体が蒸発して発生する灼熱の熱風で頭がおかしくなりそうだった。


「アリシア!氷の壁を!!」

「…だめ!もう魔力が……」

ドラゴンの攻撃がついに13回目になりついに魔力が底をついてしまった。さっき作った氷の壁は厚さが10センチのものを作るのがやっとでもう1センチの壁を作ることすら出来そうにない。


魔力切れでボロボロの僕らにとどめといわんばかりの今までの2倍の大きさの黒炎を放ってきたドラゴン。


迫る黒炎――――――――――やられる………っ!!



もう駄目だ、せめてアリシアだけでも……

アリシアの腕を引っ掴み僕の背後に回して眼を瞑ったと同時に今までとは異なる破砕音が響き渡った。








「……」






「…………」






「……あれ?」

いつまでたってもやってこない衝撃にそっと眼を開けてみると僕もアリシアも傷どころか火傷一つしていなかった。何がおきているのか?とドラゴンを見てみると、ドラゴンのその顔に建物丸々一つがめり込んでいた。


ただドラゴンは炎を吐き出す直前に建物がめり込んだらしく、建物の半分は溶解していてドラゴンの顔は煤だらけになっていた。まぁ元々が黒だから分かりにくいのだけど。


「ガシャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

ドラゴンが怒声のような咆哮を上げその赤い双眼を僕らからドラゴンの後方へと移らせる。


黒炎から助かったことにようやく理解が追いついた僕とアリシアもドラゴンの後ろの、建物が飛んできたであろう方向を見てみるとそこには……










ドドドドドドドドドドドドドドド…

「次は貴様だ」

所々煤で焼け焦げ気絶している鎧の男の首根っこを掴んでゴミのように放り投げ邪悪な笑みを浮かべる銀の髪の女の人が……








というか母さんがそこにいた。


「…何してるの?母さん」そして次とは誰なのだろうか?


「え……?リオン!アリシア!無事だったのね!!」

僕らを見るなり母さんは邪悪な笑みからいつもの優しい顔に変わって今度は泣き崩れた。

「よかった…本当に無事でよかった…。私の最後の、最高の宝物…」


…?ふと、そう呟いて泣き崩れる母さんに違和感を感じる。表情や仕草はいつもの母さんなんだけど雰囲気がいつもに比べて、何と表現したらいいのか分からないがどこか女の子らしい感じがしてまさにその美しい外見と一致するような、そんな変な感じがした。


「ギィシャァァァァァァァァァァァ!!!」

互いに駆け寄り距離を短くする僕らにドラゴンは無視をするなというように咆哮を上げてその巨体で地響きさせながら母さんの方へ突っ込んできた。ドラゴンの巨体に潰される建物、ぺしゃんこにされる死体、あんな体で体当たりされようものならどんな屈強な男であろうと一撃で潰される。ましてや母さんの華奢な体じゃあれを避けるのも難しい。僕らが母さんの側にさえいれば氷の魔法で特大級の氷の壁を作り出してドラゴンの動きを止められるけど母さんまでの距離はまだ100m以上はある。そんな遠距離に氷の壁を作ることは出来ない。そしてこの時は忘れていたが僕もアリシアも魔力切れだ。どうすることも出来ない。


だから僕らは母さんに逃げるように叫ぶしかなかった。



「母さん!逃げて!!」「お母さん!お母さん!!」

迫るドラゴンの巨体、それを見て立ち尽くす母さん。何しているんだ母さんは!?今すぐにでも逃げないといけないのに…!呆けている場合じゃないだろう!もしかしてドラゴンの恐怖で動けないのか…?


母さんは顔を伏せて未だ立ち尽くしている。きっとその顔を恐怖に歪ませて動けないでいるに違いない。僕とアリシアもあのドラゴンを初めて目撃した時はその大きさと禍々しさで動けなくなってしまったほどだ。




―――あと30メートル


そこでようやく顔を上げた母さんの顔は、ドラゴンに怯えた表情を…


「…おい、せっかくの親子の再会を……」

そこら辺に突き刺さっていた剣を手にとってその刃を見る。ドラゴンとの距離15メートル。


「ギャシャァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーズ!!!」

「邪魔してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!この爬虫類の分際がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!加速(アクセル)時間クロック3倍速!」

先程の慈母のような表情からいつもの…悪女?のような凶悪な表情に一変した母さんは怒鳴りながら唱えた呪文によって周囲の景色が突然赤く淀んだ世界に変わり、それと同時にドラゴンの動きが動いているか分からないくらい遅いスピードになった。


―――これは…超能力?

でも僕があれを使ったときは色のない世界に変化して完全に僕とアリシア…あと一応フェスティバルで

母さんも動けることが分かったけど、それ以外の全てが全く動かなくなったはずだ。でも母さんが使ったと思われる超能力はまず景色から違うし止まっているみたいだが、僕とアリシア、母さん以外も非常に遅いスピードで確かに動いている。


母さんは動きの止まったように遅くなったドラゴンを見て不敵に笑い手にある剣をドラゴンに投擲した後地面に転がっている刃物を同じように拾い上げドラゴンに次々と投擲していく。投げられた剣は丁度最初の剣と同様ドラゴンの顔から50センチ程手前で空中に浮き止まり非常に遅いスピードでドラゴンに向かって行く。

そうして全部で50本程の剣やら槍やらナイフやらがドラゴンの顔面手前で止まっているような非常に不気味な光景が完成した。


「蜂の巣だ。解除リリース時間クロック

再び唱えた母さんの呪文と共に赤い世界は消滅しドラゴンも元のスピードで動き出した。ドラゴンの顔面に向かう刃物の郡と共に…。


ドスドスドスドスドスドガガガガガガガガガガ………

「ギシャァァァァァァァァァァ!?」


総計50本もの刃物がドラゴンを目指して同時に動き出しドラゴンのその顔へ次々と刺さってゆく。しかしドラゴンの硬い皮膚のせいであまりダメージを与えられてはいないようだが突然の刃物の同時攻撃にドラゴンは驚きの悲鳴を上げていた。



ドスドスドスドスドス―――――――


「ギャシャッ!!ギャアァァァァァァァァァァァァズ!!」

その内の一本が見事にドラゴンの目玉に突き刺さるとドラゴンは今までにない大きな悲鳴を上げて怯んだ。



「………。」

「………。」

このありえないとしかいえない光景に僕とアリシアはただ唖然とするしかなかった。

いや、確かに今すぐ母さんに抱きつきたいとかこんな地獄のような場所から逃げ出したいという思いは今も健在だけどそれらを一時的に忘れてしまえるほどとんでもない光景が今、目の前で繰り広げられたと思う。


だって想像してみて欲しい。銀髪の綺麗な女の人があんなに大きなドラゴンを…姑息な手と超能力(?)を使っているとはいえ刃物の郡を投げてドラゴンにぶっ刺して冷笑しながら一時的とはいえ圧倒している光景を。ほら、思考が凍りつくでしょ?そんな光景が目の前で繰り広げられたら…。


やがてドラゴンは弱点であろう目に刃物が刺さった痛みと断続的に続く刃物攻撃に耐えられなくなったのか黒き翼を広げながら何処かへ飛び去っていった。



未だ呆然としている僕らのほうにゆっくり、確実に地を踏みしめて歩いて来る母さん。

「リオン…アリシア……二人とも無事でよかった…」

目の前で僕とアリシアをそっと抱きしめた母さんはその眼に涙を流しながら僕らの温もりを感じていた。


母さんが抱きしめたことで微かに香る母さんのお日様のような香りと母さんの温もり。それを僕らも感じてようやくこの地獄の中から母さんの、僕達の居場所へと帰ってこれたと心が理解したのか、あらゆる感情が麻痺し、凍てついていた心が溶かされて行くように気が付けば目から涙が零れ落ちていた。


アリシアも嗚咽を上げながら目に涙を溜めながら母さんにひたすら抱きついていた。





その地獄のような赤い空を背景に抱き合う親子の姿は見るものにどこか神秘的な雰囲気を味あわせていた。





…ただ、ソフィアが行ったドラゴンへの惨状とそこらに散らばる白の国軍の屍骸でせっかくの感動が台無しになっていたのだが、リオンはそれについて深く考えるのをやめた。

色々未完成だったり表現が足りませんがいちいち継ぎ足していると更新が止まってやる気が無くなるので再びスピード重視で書いて行きます。

見苦しい点が多々目立つでしょうが申しわけありません。

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