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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
ーーー大陸へーーー

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第十八話、成長の痛み

 宿の部屋を出ると、ばったりと白髪の少女と出会う。いや違うな、恐らくは俺が出てくるのを待ち構えていたのだろう。時刻は朝、窓の外からは明るい朝の光が差し込んでいる。


「よっ、ジャノメ。修行の方は順調?」


「あの……たぶん、出来るようになったから。見て欲しいなって」


「おっけー。じゃあシラアイも呼んで見てもらおうか」



 俺たちは装備を整え街の外に出てきた。ここには、街の内部の建物と街を覆う壁との間に折衝となる荒野がなく、また街の中に大きな空地もないため、大きな魔法を練習するには街の外まで行く必要がある。とはいえ、今日は彼女の魔法の成果を見に来ただけだ、門から出てすぐ外の森、後ろを見ればそこに街へ入っていく道が見えている。


「中級魔法は覚えたのかの」


「……たぶん」


「多分ではない。はっきりせい」


 ここの街に越して来てすぐ、俺たちはシラアイとの間に実力の乖離を感じた。今まではそれでも良かったのだが、ここの狩り場のモンスターはレベルが高い、仮にもアタッカーである俺とジャノメの攻撃がここのモンスターには通用せず、いったん三人パーティーを解除して、個々の実力を高めるための修行パートに入っていた。


 ジャノメは魔法、特に魔力量に秀でており、高威力の魔法をばかすか撃ってもガス欠しない、優秀な魔法アタッカーである。今までは初級魔法という、爆発や放出などの単純な魔法をメインに扱っていた。


 中級魔法は彼女も一応使えるには使えたが、中級魔法は威力の向上の代わりに起こす現象のレベルが上がり、魔法を撃つ際の準備時間が増える。彼女のそれも、実戦で使えるほどの準備時間ではなく、なので今までは初級魔法ばかり使っていたわけだ。


 今回魔法の威力不足を感じた彼女は、中級魔法の特訓を行い、その詠唱時間を短縮することで実戦でも使えるようにする、という修行を行っていた。


「まぁまぁ、まずは見てみようよ。彼女の成果を」


「……もう撃っていいか?」


 俺たちはジャノメの背中から少し離れ、彼女の後ろからその様子を見守る。少女が腕を掲げた、ふわと、少女の周りの空気が持ち上がる。


「“解放、生成、魔力の集中、属性転化”」


 少女の腕に、螺旋を描く光の帯のようなものが現れる。その末端は、少女の手の先へと集中し、そこに星のような小さくまばゆい輝きを生んでいる。


「“魔法の発現、形象生成”」


 少女の手にぱりぱりと氷が生まれ、棒を作り、それは宙を浮いて左右に広がっていき、槍の形を作っていく。


「“器に集中……方向転化、方向指定”」


 氷の槍がひるがえり切っ先があちらを向いた。


「“射出”」


 途端、氷の槍が加速し向こうへ一人でに突進する。それは大樹の幹へとぶつかり、大きく冷気の波動を生みながら、ビキビキと幹が凍り付いていく。それは、俺たち三人がまとまるより太い木の幹を裏側まで凍らせ尽くし、氷は上と伸び、また下へと伸びてその根や地面さえ覆っていく。


 見ていれば、まだ音がする。表面滑らかに氷に覆われた木の幹が、ビキバキと嫌な音を立てている。やがて……弾けた。ピシ、パシと表面に亀裂が入り、小さな欠片が剥がれ、跳ねる様に飛んでいく。魔法の冷気により、その幹では尋常でない収縮が起きているようだ。狭い体積への収縮に収まりきらなかった氷の破片が押し出され、弾けて飛んでいるのだろう。


「……やば」


 思わず声が漏れてしまった。威力が高すぎる。爆発や放出でさえ適当に火力を出していたジャノメだが、それが洗練されたならここまでの出力が出せるようになったのか。


 ジャノメは魔法の終わりを見届け、こちらを振り返る。少女は自信なさげな表情をしている。


「……すごいじゃん、ジャノメ! ここまで出来るようになったの?」


 俺が歩み寄りそう言うと、少女は顔を緩める。


「ふん。わしが本気を出せば、このくらいは余裕じゃ」


「すごい強くなったねー! いやぁうちのジャノメは天才だなー」


 俺はよしよしと彼女の頬を挟んで撫でる、少女は満更でもない表情でなすがままにされている。と、もう一つの足音が俺たちに近づいてくる。


「魔法の命中精度はどうじゃ? これは、どれくらいの動く相手に当てられるものなのかの?」


 ぴく、と、少女の表情が固まる。ぎぎぎと、ぎこちなくジャノメの目がシラアイの方に向いていく。


「ど、どれくらいとは……」


「“どれくらい”は“どれくらい”じゃ。例えば、“俊敏な四足の獣にも警戒している上から当てられる”のか、あるいは“ゆっくりと歩く無警戒で大きな草食獣くらいにしか当てられん”のか」


 ジャノメは戸惑い、おどおどと言い返す。先日無能と切り捨てられたばっかりだ、ジャノメはシラアイに強く言い返せない。


「……ま、まだ動かない相手にしか試してなくて……」


「ならば動かぬ相手にしか当てられないのかの? わらわたちが、そちが悠長に魔法を唱えとる間、モンスターの動きを拘束をしなきゃならんのかの。それとも、弱った相手にしか当てられんのかの。教えてくれ」


「……えと」


「まさか、相手に当てる想定もせずに魔法の練習をしとったんじゃなかろうかの。戦闘の場は、そちの魔法の発表会の場ではないぞ」


 ジャノメの目は段々外に、下に向かってずれていく。


「……ごめんなさい」


「ごめんなさいではない、わらわが聞きたいのはそちの答えじゃ」


 ジャノメはシラアイの、一見すると高圧的態度にすっかり委縮してしまっている。


「シラアイさーん? 一旦それやめようかー?」


 俺が割って入れば、怪訝な目でシラアイの目が俺を見上げる。


「なんじゃ」


 俺は隠すようにジャノメの体を引っ張る。


「あのね、まずは、ジャノメが出来たことを褒めてあげよう? ほら、ジャノメは毎日一生懸命頑張ってたから」


「ほう。面白いことを言うな。それで、現れる敵がこやつの頑張りを斟酌して手を緩めてくれるとでも言うのか? ここで甘やかせば、危険な目に合うのはそいつじゃ」 


 確かにそれは正論だ。だがただの正論でしかない。


「シラアイ、人間は心で動いてるんだよ。正論ばっかり言ってて、そしたらその言葉が端から頭の中に入っていくと思うの? 人間の頭には成長の速度がある、ジャノメの頭に過剰に教えを載せていったって、その荷車がいっぱいならただこぼれて落ちていくだけ」


「わらわはいつまでも面倒を見やせんぞ。ここまで来るのにどれだけ掛かった? わらわは一緒に居れる間に、出来るだけの助言をしておるだけじゃ。頭がいっぱいで零れていくのがなんじゃ? メモでもして、頭に入るまで何度も反芻せんか」


「だから心で動いてるんだって。今一生懸命頑張った、その成果をこの子は今俺たちに見せてくれてるの。ここでまた出来ない所を次々並べ立てて、明日から頑張る燃料がどこかから湧いてくる? シラアイはジャノメの良いところ一つでも言った? どこか褒めた?」


「心など―」


「キョウゲツ」


 見下ろせば、ジャノメが俺の腕を引っ張っている。


「わしなら大丈夫じゃ」


 白髪の幼い少女は、落ち着いた声で、俺を宥めた。


「……余計な口を挟んでごめん。続けて」


 ジャノメはシラアイに向き直る。


「命中の精度についてはまだ分からん。まだやっておらんからの。近くに動く的が見当たらん。すまんがここからは実戦で練習させてくれ。まだ、うまく当てられなかったり、迷惑を掛けることになる。ごめん」


「……そうかの」


 シラアイの追及は止まった。


「他になにか気になったことはあるか? シラアイ。全部教えてくれ」


 ジャノメの言葉に、シラアイは再び口を開く。


「……そうじゃの。そちは馬鹿正直に魔法の段階を呪文にしておるようじゃが、人語を介する魔物には初見で発動の段階がある程度見切られてしまう。改めると良かろ」


「わしの魔法の腕が未熟で、まだ詠唱による安定化の補助は不可欠じゃ」


 ジャノメは、今度はシラアイの言葉に淀みなく言い返す。


「詠唱の有無について言っている訳ではない。そちのそれは確かに長いが、必要な分だけ唱えるとよかろ。そうではなくて、詠唱の言葉を、もっと敵に分かりにくく、しかし味方にはある程度伝わる詠唱に変えた方がいいと言っておる。……冒険者の間では、唱える詠唱に作法のようなものがある。分からないなら、書籍など探して参考にするとよいの」


「分かった。後で勉強する」


「それと、練習しているのは一撃集中の魔法だけかの? 難易度は上がるが、より小さい三つの魔法を同時に扱えるようになれば、数に任せて素早い相手にも当てられるようになる。次の練習のアテがなければ参考にするとよいの」


「分かった」


 淡々と語るシラアイの言葉を、ジャノメは素直に頷いて聞いている。


「―それから、そうじゃの」


 と、それまで口を滑らかに言葉を紡いでいたシラアイだったが、途端に言葉の切れが悪くなる。ジャノメは素直にシラアイの言葉の続きを待っている。


「……いろいろ言ったが、そちの魔法の才は、わらわが見てきた冒険者の中でも随一じゃ。その……練習に励めばもっと強くなれる。わらわが保証する」


 シラアイは、慣れてない言葉付きでジャノメのことを誉めている。


「……ありがと」


 ジャノメもまた、いつにもなく素直にシラアイに言葉を返した。


「ねぇ、一ついい?」


 俺が話しかけると、二人の少女の顔が上がる。


「なんじゃ? キョウゲツもわしに意見か? 忌憚なく述べてくれ」


 ジャノメが顔を上げてそう言ってくる。


「いや……ジャノメの魔法の撃った樹だけどさ……もしかして傾いてない?」


 みんなの視線があちらに向く。見れば、ジャノメの魔法の放った樹は、今も溶けず、ピシピシと氷の欠片を弾いていて……そして、凍った幹の上部から、段々と傾いているように見えている。


「おいおい、何を言っておるのじゃキョウゲツ。ここらの樹木はほかの木々のそれより一際丈夫な種類なのじゃぞ。あれだけ太さもある。こんなちびっ子の魔法の一発で傾くようなら、“森林街”の名折れ―」


 ……いや気のせいではない、大樹の枝葉はゆっくりとずれて来て……それは着実に傾いてきている。


「……おい待て。あれはもしや街の方に傾いてはおらんかの。万が一、塀にでももたれかかって崩してしまえば酷い損害を……おい、傾いておる! 傾いておる! ジャノメ、なんとかせんか!」


「え? なに? 魔法撃てばいいの?」


「何でもいいから樹が折れるのを止めよ! このままだと街の壁に―」


 傾きは加速する、ジャノメが何やら魔法を呪文を唱えだす。


「は、はよせいジャノメ! 壁が壊れれば大問題じゃ!」


「“ら、ライトニングスピア”!!」


 ジャノメが放った魔法が、過たず“氷”と同じ箇所に直撃し、氷でカチカチになっていた木の幹は粉々に砕け散る。


「折れたぁーーーー!! あぁ、壁が! 壁が!」


 何事かとガリウスさんがすっ飛んできた。大樹は結局、壁にもたれ掛かっただけに終わったので、壁から外せば事は済んだ。もう少し離れたところで練習しろと怒られた。


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