第十七話、森林街近辺演習 ーII
「さて、ここまでキョウゲツも戦えるようになったことじゃ。そろそろ一緒に戦ってみるとするかの」
「え? シラアイ先生と共闘を?」
「先生ではない」
しかし、先生の戦い方といえば、お箸くらいのぶっとい釘を力でぶん投げモンスターの急所にぶち当てる脳筋スタイル。モンスターは死ぬ。
「次は一緒に……と、早速来たの。忙しない奴らじゃ」
「奴らの縄張りに土足で踏み込んできているのは俺らですよ、先生」
と、先生は釘の一本を腰から抜き、口元に持っていって、ぺろと小さな舌で釘の先端を舐めている。
「そんなもの舐めたら危ないですよ」
「ちゃんと向こうのモンスターを見ておれ」
現れたのは再び同じタイプの四足の獣のモンスター。今戦ったばかりなのでちょっと休憩が欲しい。まぁ一匹なら先生がどうにかしてくれるか。
モンスターは俺たち二人の元へとのこのこ歩いてくる、と、先生が腕を振りかぶってモンスターに投げた。釘は、獣の肉を多少傷つけたくらいで、獣の体の側面を掠ってころころと地面を転がる。
「先生ちゃんと狙ってください。当たってませんよ」
「何を言うておる。倒すのはそちじゃ」
えぇ……また俺かよ……せめて交代で戦おうよ……と、俺は武器を握って前に出る。先生は後ろで傍観するようだ。
獣は、釘を投げ傷ついたことに驚き、あるいは苛立ち、俺たちをその場でじっと睨んでいる。俺は再び剣に光を溜めていく。
「がぅっ!!!」
と、獣が吠えた……あれ? 飛び掛かって来ないな……消極的なタイプか? 俺は剣を握って獣へと駆け出す。
剣に溢れんばかりの光が溜まっていく、距離を詰めるが獣はまだ動かない、俺が剣を振りぬくと、光の剣はそのまま獣の首を側面から捉えた。
あれ? こいつ弱いな……俺は飛んだ獣の体を追いかけ、ペイントソードで滅多切りにする。たくさんの白い傷跡が残り、それは時間とともに赤くなって、そして次々と獣の体に斬撃を刻んでいく。見ていれば、獣はそのまま動かなくなった。
俺はそいつを倒したのを確認して、シラアイの居る方向を振り返る。
「先生! なんか楽勝でした! 俺が強くなりすぎちゃいましたね……」
「馬鹿を言え。今のはわらわのおかげじゃ」
「先生が何かしたんですか?」
シラアイは歩いて、転がっている釘を回収している。
「そちには言わんかったか? わらわは呪いを扱う」
そう言えば以前に言ってたな。今までずっと筋肉で倒していたから忘れていた。
「わらわの体液の付着した釘で敵の体に傷を付け、すると相手の傷にわらわの体液が付く。これで呪いの前提条件が完成する。わらわとそいつを繋げば、後は相手に呪いを与えて敵を弱体化させる」
なるほど、今の個体は、シラアイが“呪い”を与えたせいで動きが鈍っていたわけだ。道理で呆気なかったと思った。
「便利ですね! どうして今までは使わなかったんですか? それも魔力を消費するんですか? 普段から使ってたら、今までも楽に倒せていたのでは?」
「そちは、呪いを使っている間のわらわを見ておったかの?」
「いえ!」
モンスター見てろって言われたので! シラアイは説明を続ける。
「この“呪い”による弱体化は、敵にだけ与えるものではない。わらわと相手が繋がり、相手に弱体を与えたなら、同時にわらわの体も弱まる」
諸刃の剣か。要は、もし一対一だったなら、相手も自分の同時に弱まることになるし使う意味があんまりないのか。
「先生の体は大丈夫なんですか?」
「呪いのことか? 呪いなら、わらわの任意で発動できる一時的なものじゃ、解除されればわらわの体は何ともないし、それは敵に与える呪いも同じじゃな。まぁ長引けば気力は減るがの」
なるほど、瞬間的にこちらと相手に一人ずつ弱体化を与えるスキルね。
「わらわは本来、この“呪い”を扱うサポーターじゃ。今までは身体能力に任せて戦っておったが、上に行くほどわらわのようなその場しのぎの戦い方は通用せんくなろう。これからは、そちにはどんどん前に出て強くなってもらうから、そのつもりでの」
ふむ。先生はこれからはデバフ撒きに専念して、俺に前衛を張ってもらいたいと。俺としても、より強い個体を今のままの実力でも戦えるようになる。悪い話じゃない。
「任せてください! 先生には傷一つ付けさせませんよ!」
「……そちが守らんでも、わらわの体は容易には傷つかん」
先生は、顔を逸らしながらそんなことを言っている。
「まぁでも無理な時は無理なんでその時は一緒に逃げましょう!」
「そんなことはわざわざ言わんでいい」




