第十七話、森林街近辺演習
「見えたぞ。戦い方は教えたな? 次は、そち一人で倒して見せよ」
森林街を、一歩でも外に出れば広大な森林が広がっている。木々の一本一本が大きく、その頂上の先は見上げる高くにあり、また、生い茂った木々の枝葉が地上の光を奪っているため、地上付近は太い幹と根と土の地面しかなく、歩きやすい。
俺たちは今、モンスターを狩りに街の外に出てきている。
「どこか借ります!」
「胸じゃの」
俺は剣を握り前に出る、得物はペイントソード、スキルブローチには彼女から貰った“溜め切り”のスキル石が嵌まっている。
シラアイの指した方向を見ていれば、やがて木々の向こうから、一匹のモンスターが現れる。四足の獣、ふさふさの毛皮は虎模様。体格の大きさは俺と同じくらい。
俺は一歩前に出て剣を構える、早速、スキルの発動に必要な“溜め”を行う、モンスターは俺の様子をうかがいながら、そろり、そろりと地面を歩いてくる。
モンスターは少し向こうで立ち止まった、そのまま地面で足踏みをしている。俺たちは少し距離を取って向かい合う、俺たちの間に、一枚の葉っぱが流れてきて、地面に落ちた。
その瞬間、獣は飛び上がっている、間もなくその鋭利な爪の付いた前脚が俺を襲うだろう、俺はそれに合わせて“スキル”を発動させる。
“溜め切り”っ!!
光を湛えた剣は振り抜かれ、前足の上をすり抜け獣の顎の下に入る。クリーンヒット、今握っているのはペイントソードだが、“溜め切り”は武器の特性を上書きして今この瞬間に獣にダメージを与える。
鈍い音がして、獣の体が俺の脇の地面に落ちる、スキルの再発動にはインターバルが必要だ、次に使えるのは数拍置いた後。俺はよろけて距離を取ろうとする獣の背中に追撃を加える、二度、三度、その背中に白い塗り跡が残った。
塗り跡は赤く染まっていく。塗り跡が弾け、斬撃をモンスターに加える。俺は手の平の照準を獣に合わせる。
「“ライトニング”!」
斬撃に怯んだ獣は避ける隙がない、過たず雷撃がその無防備な胴体に当たる、俺は再び剣に光を溜め、剣を両手でしっかりと握りながら奴の体に近づく。
「これで終わりだっ!」
深い斬撃がモンスターの体に刻まれた。モンスターは力なく横たわり、その体から何かが抜けて、萎んでいく。
「上出来じゃな」
後ろで見ていたシラアイが歩いてきて、モンスターの亡き骸の傍に屈み、その体を見ている。
「俺は……強くなれましたか?」
「そちは強い力を手に入れただけじゃ。強いのはスキルの力」
確かに……今、シラアイから貰ったスキルを取り上げられたら、俺の実力は簡単にその前のものに戻ってしまう。
「じゃが、強い力を使えるというのもまた強さじゃ。剣の素人に同じものを与えて、すぐに今のように扱えるかというとそうでない」
「……えっと、つまり……?」
「そちは強かった。強い力を使いこなすための土壌となる経験値を、すでに持っていたということじゃ。そちは適当な力を持っていなかっただけのこと」
ん……つまり……? シラアイは、疑問符を浮かべている俺を見かねたのか続きの言葉を紡ぐ。
「……まぁ、強くなったということじゃ、キョウゲツ」
「ありがとうございます! 先生のおかげです!」
「別に先生などしとらん」
しかし……と、シラアイは獣の体から目を離し、俺の目を見上げる。
「そちの戦い方は、対モンスターというよりかは対人のそれじゃの。どこかでやっておったのか?」
対人? やった覚えはないな。
「……? ずっとモンスターとしか戦ってませんけど」
「そうか。ならばそれがそちの生来の戦い方なのかもしれぬの。そちのそれは、力の強いモンスターを相手にするというよりも、知恵のある人型を仕留めるような方向に向いておる。覚えておくといいかもしれぬの」
力の強いモンスターより、知恵の回る人型を倒すのに向いている戦い方……か。正直人型とはあんまり戦いたくないんだよな……。
と、シラアイはすっと立ち上がる。
「さて、ここまでキョウゲツも戦えるようになったことじゃ。そろそろ一緒に戦ってみるとするかの」




