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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
ーーー大陸へーーー

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第十五話、御馳走の肴(さかな)

「ほら、歓迎の意を込めて貴様らにご馳走を用意した。存分に味わえ」


 街の中を(連行され)歩いていくと、その内開けた場所に現れた。そこは街の中央にあり、塀に囲まれ一つの大きな館が立っていた。俺たちは門を開けられ、その中へと入っていく。玄関までまた歩き、大きな扉が開いて中に入り、また建物の中を歩いて一つの部屋に案内される。


 待っていると、部屋の大きなテーブルに、次から次へと皿が運ばれ乗せられていく。長机の、こちら側に俺たちが座り、対岸に貴族の青年が座っている。しばらくして料理が運び終わったのか、人の出入りが終わった。


「じじい。出て行け」

「しかし……」

「ここからは私用だ、警護も要らん」


 彼の言葉に、近くに控えていた執事らしき老人もまた部屋を出て行った。ぱたんと扉が閉じ、そして部屋には、俺とジャノメ、その貴族と、机の上に乗せられた大量のご馳走だけが残った。


 俺たちは身動きできないまま男を見ていると、突然男はだらんと頭を下ろす。そして、くつくつと、彼の喉の奥から音が響いてくる。


「……っぷぷ、くくく……あははははははは!!!」


 と、突然彼は頭を上げ大笑いを始めた。


「あぁすまん、好きにくつろいでくれ。ほら、料理も好きなだけ食え」 


 貴族の青年は俺たちの視線を思い出したように顔を上げ、そして手を差し出して目の前の料理を示す。


 いや……さっきの今で、出された料理に手が出せるわけ……と思っていると、隣のジャノメが手を伸ばし、気に入った皿を引き寄せ、さっそく鳥の丸焼きにフォークを刺している。お前セミくらいの記憶力しか無いんか?


「しかしやってくれたなぁ、お前」


 と、貴族の青年は話しかけてくる。先ほどまでの作られた表情とは違い、毒気のない笑顔が俺に向いている。


「な……なんですか? 馬車なら弁償しませんよ……?」


「あぁいい、どうせ貰い物だ。壊れたならまた貰えばいい」


 贅沢な野郎だな……。


「どうした? 食わんのか? 俺の街で食べられる最高クラスの料理だ、どれも一級品だぞ?」


 と、言いながら彼も皿を手に取り、取るようのフォークで皿に料理をよそっている。


「……なんで、俺をここに呼んだんですか?」


「おや、聞いていなかったか? 俺が貴様をもてなしたかったからだ。正確にはお前と話がしたかったからだが……無論、お前の技に感嘆し、お前を歓迎したいという提案も事実だ。ほら、食べていいぞ? 俺からの、精一杯の褒美のつもりだ」


 俺は静かに彼に答える。


「……褒美なんて要りません。もし褒美をいただけるというのなら、豪華な料理より、あなたが二度と子供を安易に傷つけないことを、ここに誓ってください」


 貴族の青年は、皿にフォークを伸ばした姿勢のまま、俺の言葉に固まる。


「確かに。子供に馬車はやり過ぎたかもな」


「……やり過ぎなんてものじゃありません。あれは、大けがじゃ済まない、下手すれば……ジャノメは、この子は死んでいたかもしれない」


 俺の言葉に彼はきょとんとした。皿やフォークを机に置いて、また笑い出す。


「……何がおかしいんですか」


「あはははは! いやぁ……すまんすまん。しかし、あれは神性をまとった馬車だ。いくら人を轢いたからと言って、人間など殺せるものか。確かに、馬車に跳ね飛ばされれば多少のトラウマは残るだろうがな」


「……は?」


 しんせい? しんせいをまとった……馬車? 彼は、目をぱちくりとさせる俺を見て、言葉を続ける。


「知らんか? あれは、神のご加護を賜った、特別な馬車なのだ。人を傷つけるには向いてない。たとえ最高速で人にぶつかったって、ぶつかった相手の指の骨一つ折れることはあるまいな」


 あー………………と、つま、り?


「あなたは……ジャノメに……この子に、水を浴びせられて、最大限出来る脅かしでこの子に仕返しをしようとしただけ……?」


「まぁ、そういうことになるな」


 彼は平然とした態度で返す。


「じゃあ、傷付ける意図は無かったと……?」


「言ったろう、あれは神の馬車であると。その子供の体に傷一つ付けば、神の名に傷がつく。そんなことはあり得ない」


 ……はぁ。とたんに体から力が抜け、俺は背後の椅子にもたれ掛かる。なんちゅうことをしてくれたんじゃ。あまりわらわを困らせるでない……。脱力のあまり、頭の中に小さいシラアイが出てきて俺の心境を喋りだす。


「……っくく! しかしな! そんな神性をまとった馬車を、まさか傷つけるものが現れようとはな!」


「……うぁ?」


 正面を見れば、青年の笑顔の奥で、彼の眼はしっかりと俺を射抜いている。


「道中のモンスターでさえ、まとめて轢き殺し、その上で傷どころか汚れ一つ付かない神性をまとう馬車だ。さて、あの馬車を傷つけたお前の“技”、俺はあの“技”に極めて興味を持った。さぁ、ご馳走の肴に、お前の話を聞かせてくれるな?」


 頭の中に小さい先生が出てきた。「だから、私はあれほど人前であの技を無闇に使うなって、あなたに言いましたよね?」と言い出している。いやぁ……俺は非常事態だと思ったし、仕方ないんじゃあないかなぁ……。

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