第十三話、船の上の夢 ーII
「知らねーか? “黄金街”の“黄金祭り”だ」
赤髪のおじさんは得意げにそう言ってくる。
「おうごんまつり?」
「その町の近くじゃ数年に一度、特別なモンスターがわんさか湧く時期があってな。そこで出るモンスターどもを倒すと、なんと奴らは“黄金”を落としやがる。まぁ本物の黄金とはちょっと違うけどな、そこでとれる“黄金”は高く売れる。金が欲しい冒険者が寄って集ってモンスターを狩る、つまりお祭りになるのさ」
「へー」
俺が淡白な返事を返すと、おじさんは拍子抜けしたような表情で俺を見てくる。
「なんだ坊主、食いつきが悪いな。金が欲しくないのか?」
「こいつはそういった世俗の欲とは無縁なのじゃ」
脇からシラアイが差してくる。
「へぇ、そこらへんが気に入ってんのか?」
「……」
「おぉ、怖い怖い」
ジャノメに睨まれハウスガッシュさんは肩を竦めて場を茶化す。酒が回っているのか、おじさんの鼻は赤い。
「金は良いぞ、坊主。旨いもんは食えるし、高い酒も買える。でかい家も持てりゃ、女だって寄ってくる。金はいくらあってもいいもんだ。坊主ももっと欲を持つといいぞ」
「キョウゲツに余計なことを吹き込むでない」
「余計なこととはなんだ、生きていく上では大事なことだぞ?」
シラアイがおじさんを睨み、おじさんはへらへらと流している。お金か。確かにお金があれば色々なことが出来るようになる。
「俺は、お金をたくさん得るよりも強くなりたいです」
俺の言葉に、おじさんは意表を突かれたような顔をして、それから笑い出す。
「そうかそうか、強くなりたいか! そりゃいいな!」
「キョウゲツ、こやつの言葉をまともに聞くでないぞ。酔っ払いな上、吐くのはそちを惑わす毒じゃ」
「お金をたくさん稼げば、より強く、速く強くなれますか?」
俺が聞けば、おじさんは「んー……」と考える様子だ。
「どうだろうな。俺は考えたことなかったな。俺にとって強さってのは、お金を稼ぐために重要な手段だ、俺はより金を稼げる方向へ進んで……その過程で強くなったのかもな。んで、手に入れた金を何に使ったかといえば、ほとんどは遊ぶ金さ。その日得た大金は、その日のうちに使って泡のように消えた。金自体が俺を強くしたわけじゃない、だが金を得る過程で俺は強くなった。俺の言いたいこと、分かるか?」
顔の赤いおじさんは、お酒が入っている割には真面目に答えてくれた。
「じゃあ、楽に稼げる場所に、たとえばその“黄金祭り”にただ飛び込んでも、俺は強くなれるわけじゃないってことですか?」
んー……と、おじさんは唸っている。
「それはちと違うな、坊主。もちろん楽に稼げる場所ってのは存在するが、そういう場所には基本、自分以外にもほかにたくさんの冒険者が集まってくる。集まってきた横並びの同期を押しのけて、いの一番に飛びぬけて、それで金を得られるのが強いやつだ。負ければ何も得られない。楽に稼げるが稼げるのは強い奴だけ。そういった競争に勝つってことは、つまり強いってことだ」
「……つまり、強ければ、金を稼げるってことで……」
「あぁ、そして、自分は何も得られず、だけど目の前で大金を得てる奴を見て、金に焦がれて強くなる。まぁそういう強くなり方もあるってことだ。お前さんに合ってるかは分からんがな。お前さんが強くなりたいってんなら、一つ、腕試しにその金稼ぎに参加して、死に物狂いで勝利を勝ち取るってんのも、お前さんを強くする方法の一つ、かもしれんな」
おじさんはそう言って、またテーブルの上のジョッキに口を付けた。




