表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
ーーー大陸へーーー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/437

第十三話、船の上の夢

「そろそろ、ここいらの豊穣の時期も終わりじゃ。わしはまた別の町へ行く。そういうことで、よろしく頼むの」


 突然シラアイが部屋を訪れたかと思えば、そんなことを言う。


「どっか行くの?」


「龍脈には天気のようなものがあり、それに応じて各地に出るモンスターの状況も変わる。わらわはまた別の稼げる地域へと移動する。その時期が来た」


「ふーん?」


 俺は少しだけ考えて、シラアイに返す。


「俺も一緒に行っていい?」


「……」


「まぁ邪魔にならないならだけど」


 シラアイは、じっと俺の目を見つめていた。少し息を吐いて、シラアイは口を開く。


「……そちは尻軽じゃの。わらわの意見一つで、自身の居所をそんな簡単に決めてよいのかの」


「でもシラアイの意見でしょ? 俺より経験豊富だし、付いてったらいいことあるかなーって」


 シラアイは、口元をムニムニとさせて言葉が返って来ない。


「……まぁ好きにすればよかろ。足手まといではあるが、邪魔とは言わん」


「庶用あればお任せくださいませ」


 と、隣で黙って聞いていたジャノメが、くいくいと俺の袖を握って引いている。


「あの……わしは……」


「ジャノメももちろん付いて来るよな?」


 俺がジャノメを振り返ってそう聞くと、ジャノメは一瞬固まった。次いで顔を逸らしつつ言葉を漏らす。


「しょうがないな……おぬしが付いて来いと言うのなら……行ってやるのじゃ」


「わらわは許可してないぞ」


 と、シラアイがまたジャノメに意地悪を言っている。ジャノメの表情が切り替わる。


「シラアイに付いて行くんじゃない、キョウゲツに付いて行くんじゃ。隣に居るお前はどうでもいい」


「キョウゲツ、二人乗りの乗り物を手配するかの」


 ジャノメが胡乱な目でシラアイを見つめている。


「おっけー、じゃあジャノメは走ってね」


「おぬしの膝が空いておるだろ。わしはそこでいいぞ」


「そこはわしの席じゃ」


「二人乗りならたぶん三人入るね」


 がやがやと騒ぎながら、俺たちは出立の準備を始める。大きな荷物は勝手にミナモさんの部屋に置いておくことにした。


 *


 世界は龍脈に侵されている。この世界のどこかには、龍脈が噴き出す根元のような所があり、そこから距離が遠くなるにつれて龍脈の濃度は薄まっていく。龍脈は土地を変え、生き物の姿を変える。龍脈が濃い場所からは人間は土地を追われた、今は、世界のほとんどはモンスターたちが支配する魔境の土地である。


 人間の今の拠点の多くは、龍脈が湧き出しているという地からは最も遠い位置にある、龍脈の希薄な世界のごく狭いエリアに集中している。


 俺たちが今まで居たのは、その安全地帯の島国の一つであり、今から行くのは、比較的龍脈に侵された大陸の上である。俺たちは今、大陸行きの船の上に居る。青い海洋の上だ。


「海じゃー!」


 ジャノメが甲板の柵に身を乗り出し叫んでいる。ここは青い海原の上、深い青に塗り潰された地面は、遠く水平線の向こうまで続いている。


「これ、ジャノメ。あまり身を乗り出すと落ちてしまうぞ」


「なぁなぁ、この海ってやつは、どこまで続いておるんじゃ?」


「世界の果てまで続いておる。この世界は陸地より海の方が広い」


 ねぇねぇかわいいーと、通りすがりの他の乗客たちの衆目を子供たちが集めている。


「あんな小さい子たちまでこの船に乗ってんだねー」


「まぁいろいろ事情があんだろ……ってあれ、ありゃシラアイじゃねーか?」


 と、そちらを見れば二人組の冒険者、剣を腰に差した赤髪のおじさんと薄着のお姉さんが立っている。赤い髪のおじさんの方が、シラアイの名を口に出し、こちらに歩いてくる。


「おーい、シラアイ! やっぱりお前もこの船に乗ってたか!」


 柵にしがみつくジャノメの体を引っ張っていたシラアイが、名前を呼ばれて振り返る。


「……ハウスガッシュ! 久しいの!」


「やっぱりこの時期はあっちに渡るようなぁ!」


 シラアイと向こうの赤髪の冒険者は、親しげな様子で再会の挨拶を交わしている。



「しかし、お前さんが仲間を連れてるとは珍しいな。まさか産んだか」


「馬鹿言え。どう見ても年が合わんかろ」


「なぁ、俺にもそいつらのこと紹介してくれや」


「ねぇガッシュ、私たちにもこの子のこと紹介してよ。一体どこの子?」


 船は大きく、酒場あるいは食事処のような場所も内蔵してある。俺たちはそこへ移動し、一つの円卓を五人で囲む。ジャノメの身長が足りていない、両腕を机の上に乗せるのみだ。建物は絶えず波に揺れている。


「そっちの小さいのがジャノメ、若い男がキョウゲツじゃ。特別な仲ではない、今はギルドで一緒になっているだけの道連れじゃ」


 俺の情報量少ないな。


「ほう? “特別じゃない”と前置きをするあたり、ますます怪しいな……」


 赤髪のおじさんは訝しむようにシラアイを見ている。


「何を言っても無駄じゃな。好きに捉えればよかろ」


「あはは、すまんすまん。お前さんが誰かとつるんでる姿が珍しくてな。こっちはシラアイ、昔ギルドで一緒にパーティーを組んでた仲だ、んでこっちはシズメ、最近一緒にいることが多いな」


「ほう? 浮気なそちもついに腰を据えたか」


 薄着のお姉さんは自分の体を抱いて身を引いている。


「いやいややめてよ、こんな酒臭いおじさん」


「だってさ。悲しくなるねぇ」


 おじさんはシズメさんの言葉に、上を向いてうそぶいている。


「否定せんあたり、そちは満更でもないようじゃの」


「あはは、もうやめてくれ。いじって悪かったって」


 と、頼んでいた料理が運ばれてきた。ジャノメの目の前に新鮮なサラダが置かれ、ジャノメは大人しくそれを摘まんでいる。


「ねぇねぇ、ていうかあんたらいくつよ? なんで子供だけでこんな船に乗ってんの?」


 と、薄着のお姉さんは身を乗り出して、俺たちに聞いてくる。胸と腰に布をまとっているくらいで、褐色の肌をほとんど空気に晒している。


「こらこら、冒険者の身の上にそう簡単に踏み込むもんじゃない。っつーかシラアイは子供じゃないぞ。まだまだ小娘だけどな」


「ふん。若造に言われたくないわ」


「俺の方が年上だろ」


 疑問符を浮かべているお姉さん、シズメさんだったか、シズメさんに向けてハウスガッシュさんが説明している。


「シラアイは鬼の血を引いてんだ。見た目通りの年齢じゃない」


「えぇ、嘘!? ってことはあんたら全員?」


 シズメさんが俺たちの方にも視線を向けている。


「子供です」


「こどもです」


「えぇ? やっぱり子供じゃない」


「別に全員とは言ってないしな」


 ハウスガッシュさんは手元の丸焼き肉に豪快にかぶりつき、その肉を毟る。中から肉汁があふれ出し皿に零れ落ちる。


 その後、シラアイとハウスガッシュさん、シズメさんを中心として、談笑しながら食事は進んでいった。


「んじゃ、お前らもあっちに向かうのか?」


「わらわは手始めに“森林街”に行くつもりじゃ。どうせあの時期はまだ先じゃ、先に着いてもやることは変わらん」


「“森林街”? お前なら、もうちょっと上の場所でも……あぁ、そいつらのレベルに合わせてか」


「あの時期って何ですか?」


 俺が聞くと、赤髪のおじさんはこちらを向いて、にぃーと笑顔を浮かべた。


「知らねーか? “黄金街”の“黄金祭り”だ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ