閑話、保護者はこの子
「すみません、未成年への売買は出来ない決まりになっているんですよー。保護者の方は居られますかー?」
通りの露店で何やら魔道具を買おうとしていたジャノメが、店員さんに突き返されている。
「あ、保護者の方ですかー?」
ジャノメの声が俺を呼んで、店員さんの目が俺を見る。
「……まぁ俺でもいいですけど。年齢は足りてますか?」
こっちの成人っていくつだ。冒険者カードを差し出すと、露店のお姉さんは渋い顔をしている。
「あー……」
「何やっとるんじゃ」
と、離れた所に居たシラアイも俺たちの元へとやってくる。
「こいつが子供には売れんなどと訳の分からんことを言って商品を売ってくれんのじゃ」
「これ、知らん奴に迷惑を掛けるでない」
「だって……」
「……ったく。仕方ないの。ここはわしが顔を立ててやろう」
子供たちの会話に店員のお姉さんは苦笑していたが、シラアイが差し出したカードを見てぎょっとする。
「ほれ、これで買えるじゃろ」
「す、すみませんがお客様、このカードは本物で……?」
「そちがわらわに無知を晒して何になるのじゃ? 本物と偽物の区別も付かんなら最初から提示を要求などするでない」
「す、すみません……その、お若く見えますね……」
と、ジャノメが欲しい品の購入は、そのまま滞りなく終わった。俺たちはその場を離れる。
「爆弾じゃ! これでわしが弱った時もモンスターを倒せるぞ!」
ジャノメは嬉しそうに買った品を頭の上に掲げている。それ子供が持っちゃダメな奴じゃない?
「シラアイ、どんなズルしたの?」
「なぜわらわが不正をしたのが前提じゃ」
「だって、今の店員さん、子供は商品は変えないって言ってたでしょ。じゃあシラアイの顔でも買えないじゃん」
「失礼な奴じゃな。……まぁ確かに顔だけでは足りんだろうが、わらわはちゃんと正規の手順を踏んで購入した。そちもそばで見ていたであろ」
「いやだって、それだと、シラアイが成人してるってことに……」
シラアイはそっぽを向いたまま何も答えない。無言で頭の後ろをこちらに見せている。……あれ? この流れ前に見たな……。
「……え? シラアイって今いくつ?」
「……女性に年を聞くなど失礼であろ」
「22だぞ」
ジャノメが頭に買った商品を掲げたまま答えた。
「22だぞ」
カードを盗み見たかそれとも最初から知っていたか、もう一度繰り返すジャノメに、シラアイが静かに向き直る。
「……そちのそれは爆弾といったかの。さっそく使い時が現れたようじゃの」
「おい、これはわしの金で買ったわしのじゃ。触るな」
ジャノメとシラアイが並んでいる。二人の背丈は同じくらいに見える。
「え? 本当なんですか? シラアイさん」
「敬語やめろ。……そんなに確かめたいのなら、そちもカードを見ればよかろ」
と、シラアイからカードが差し出される。そこには彼女の情報が書かれてあり、確かに年の欄には22と読み取れる数字が書いてある。
「へー、すごい。どうやって偽造したんですか?」
「偽造ではない。……前に言ったであろ、わしの体には鬼の血が流れている。わしの一族は普通の人間より長寿であり、その平均は250年ほどじゃ」
250年。普通の人間の寿命を80年とすると、22歳を普通の人間に換算し直せば、まだ7、8歳ほど。なんだ、じゃあ大体ジャノメと同じだな。
「なんだ、じゃあ結局子供か。そうだよな、どう見てもまだ子供だよな」
「子供ではないと言っておるだろ。わしはもう二次成長も終えておる。わしの一族は大体十五の年で成長は止まる、それ以上は成長しない」
「ふーん? じゃあ子供の見た目で成長が止まる一族ってこと?」
「子供ではない。十五で大人の体まで急速に成長し、それ以上はずっと大人の姿ということじゃ。……わしの見た目が少し幼く見えるのは……その、個人差じゃ」
俺はシラアイの発言を受けて、じろじろと彼女の頭から爪先まで見回してしまった。先日裸も見たが……うーん?
「え? その体で?」
「……」
ゆらぁ、とシラアイの首が倒れて俺を見る。
「あー……ドンマイ! おごぉっ……!」
「なにが“どんまい”な体なのか、裏でじっくりと聞かせてもらおうかの」
俺は首の後ろを掴まれずりずりと引きずられていく、凄まじい力で引っ張られ抵抗できない。
「あぁ待って! ジャノメ! あいつが先ですよ!」
ジャノメはその場に突っ立ったまま俺を見送っている。
「じゃあなキョウゲツ。わしは先に帰っておるからゆっくりしてきていいぞ」




