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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
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フィールド探索”近場の森”2*

「んじゃ、オレたちこっちだから」

「じゃあねー」


 森の手前でそう言われ、ワカバさんとキララさんがさっさと森の中に消えていく。


 この場には、俺とミナモさんだけが残された。


「え?」



 話を聞くと、三人のうち、キララさんはガンガンモンスターと戦って行きたい派、ミナモさんはのんびり周りを見ながら進んで行きたい派。ワカバさんがどっちかに付いていくとどっちかは一人になってしまい、そこで俺が呼ばれたらしい。なんか騙された気分だな……。


「じゃあまぁ……行くか」


「……うん」


 どちらが先を歩くでもなく、微妙な距離感を保ちながら、俺たちは森の中を歩きだす。手には、簡素な地図と方位器、歩くのは慣れない異世界の森の中。ここはまだ街の近くで、門を出てすぐの道の上から、見える森に逸れて入ってきたところだ。


 ミナモさんは、同じクラスの髪の長い女の子。彼女の綺麗な、淡い水色の長い髪は、今は邪魔にならないように後ろで結んで一つに固めてられている。この子は、俺と同じ転世勢なのだろうが、その髪色はあっちじゃまず見ないが、世界渡りの影響か何かで変質したのだろうか。


 彼女の表情は先ほどからあまり動かず、表面的な感情があまり読み取れない。俺より拳一つ分、彼女の方が背が低い。どちらかと言うとのんびり屋、どちらかと言うと幼い振る舞い。


「武器、どんな素材がいいんだろうねー」


 俺は“都市アイリス近場で取れる素材!”というパンフレットを眺めながら、ミナモさんの後ろを付いていく。パンフレットの表紙には、ギルドの印が付いている。


「私は綺麗な結晶をいっぱいあげて、きらきらにする」


 美術品でも作る気か? いや、でもまぁ、あげる基準なんて、そんなもんでいいのかな。先生も、特にこれがいいとかは言ってこなかったし。


「あれ、あそこに木の実生ってる」


 と、ミナモさんが何かを見つけたようだった。指をさした先、目を細めてみれば……何やら赤い点がある。近くまで歩いていくと、まばらに生える樹の一本、高い枝のところに赤い果実がなっている。


「ほんとだ。蜜も滴って美味しそうだね。取ってみる?」


「透明……」


「うん?」


 赤い、リンゴのような真っ赤な果物。それは高い枝の途中にぶら下がっていた。あの高さ、二人で肩車しても届かない、取るのなら木を登って枝を伝って、あるいは打ち落とすとか。


「お腹空いてきた」


 と、ミナモさんは続ける。なんだ、食べる用か、武器にあげる方じゃなくて。


「一個だけだね。他の木には……」


 ……ふむ。他の木には見当たらない。おそらく周囲の木々も同じ種だ、にしては、その赤い果実は目の前の一個しか見つからない。同じ木にも、その一個しか生ってない、なんなら、未熟なものや地面に落ちたもの、熟れたものも……花や、蕾さえその木には見当たらない。まるで、一つ浮くかのように赤い果物はなっている。


 ミナモさんは足元の石ころを拾い腕をぶんぶんと頭上の果実に狙いを定めている。


「待ってミナモさん、あの木の実、なんかおかしいかも―」


「うりゃ!」


 と、小さく声を上げて石が放たれる、それは狙い過たず赤い果実のへたの部分に当たった、そして落ちてくるだろう果実を受け止めようと、駆け出すミナモさんの腕を引っ張って止める。


「あ、え!? なんで!?」


 べちゃ、と、俺たちの視線の先で、赤い果実は土と落ち葉の地面の上に落ち、潰れ、飛び散る。


「あぁー……あぁ?」


 と、すぐにだった。うにょ、うにょ、と、地面に広がった赤い粘性の水たまりは意志を持ったように波打つ、そしてそれは見ているうちに―

 やがて完全な円形を取り戻し、透明な赤い球体の中には小さな丸い結晶を持つ。極めつけにぽよんと地面を跳ねた。


 モンスターが現れた。


「ミナモさん、あれモンスター! 生き物! 別の生き物!」


「え、食べられる?」


「分かんないけど! 先に倒してから考えよう!」


 この森に居るモンスターだ、先生の言う通りならば、それは俺達でも対処できる強さのはず。俺は、先ほど成長させたばかりの曲刀を手に持つ。刀よりは幅の広い、刃の曲がった片刃の剣。銀色で、板金からくりぬいたような簡素な形、装飾も一切ない、まさに進化前といった感じの“成長武器”だ。


 彼女も背中の直剣を抜いた。彼女の筋力でも扱えるようにか、心なし短くて細い剣。それは彼女の“成長武器”だろう。


「これも……スライム?」


「どうだろうね、前見た奴とは全然雰囲気が違うけど」


「アメリンゴと名付けよう」


「多分命名権ないよ」


 赤いアメリンゴは、ぽよんぽよんと、粘つく球体の体を地面で跳ねさせる。地面には、赤いねばねばした跡が付く。


「こういうのは大体物理も魔法も効かないんだよねー」


 と、彼女が隣に呟いている。


「く、詳しいの? じゃあどうやって倒すか分かる?」


「たぶん、見えてるあの丸い石壊したら死ぬと思う」


 彼女は赤い粘体の中の石を指さす。


「おっけー、とりあえずそれで行こう」


 俺は、慣れないなりに剣を構える。アメリンゴは、いまだその場で足踏みを続けている。


「よく分からないけど、あの体には触れたくないね……慎重に―」


「おりゃー!」


 と、ミナモさんは剣を掲げて飛び出した、そのまま剣を地面に振り下ろす。彼女の剣は地面を叩き、その上に居たアメリンゴの体をも強く打った、しかし、当たる瞬間中の石はずれ、剣の軌道上からは逸れたように見える。剣は粘体の中央を打ち、しかし石はその片方に寄り、変形した体も徐々にそっちに集まっていく。


「ちぃ! 小癪な!」


 彼女は再び剣を上げて振り下ろそうと、構えた瞬間。


「危ない!」


 俺は彼女の後ろの襟を掴み引っ張る、彼女の顔があった位置、赤い球体は跳ねて彼女の顔があった位置へ飛んできた、それは俺たちの頭上を過ぎて背後へと落ちる。


 ひぃ、顔狙ってきた! 何する気だこいつ、気道をふさぐ気か?


 アメリンゴは、まるで攻撃を外したことに苛立っているかのように、体の端をふつふつと泡立たせ、飛び散らせている。


「あ、ありがと……」


「ごめん急に引っ張って! 首とか大丈夫だった?」


「平気……」


 俺は改めて剣を構え奴へと向き直る、アメリンゴは、何かを待つように地面の上にとどまり続けている。


 今度は俺から行こう、この子にばかり危ない目に遭わせる訳にはいかない。


 俺は一歩踏み出し、振り上げた曲刀をアメリンゴの丸い石の部分へと振り下ろす。


 やはり、奴は避ける素振りを見せた、石が粘体の中で移動を始める、だが、最初から避けると分かっているなら合わせられないほどではない。


「人形より遅いんだよお前!」


 モンスターを倒すと、どういう原理か、その体は星型の粒子と化して消えていく。そしてその場にいくつかの物が残った。小さな結晶がいくつかと、薄い紙に包まれた、蜜で濡れた小さな赤い果実。


「パンフレットに載ってたね。“リンゴモドキ”。落とした、ドロップ品の果実は食用可だってさ。どうする? 食べてみる?」


 俺たちは、地面に残ったそれらを二人でしゃがんで眺めている。


「……いいの? 倒したの、キョウゲツくんだけど」


「いいよ。お腹空いてたんでしょ? 得体も知れないし」


「……毒見?」


「まぁまぁ。パンフレットには食べられるって書いてあるよ」


 彼女は怪訝な目をしつつ、足元に落ちた紙に包まれたそれを手に取る。紙を開くと、赤い蜜で濡れた、二口か三口かで終わるような小さな果実が乗っている。彼女は恐る恐るそれに顔を近づけ、小さな口でかぷりと齧った。


 皮が赤く、中は白い果実だった、と思えば、それは彼女が齧った瞬間にどろどろと形が崩れ、溶けていく。一口、また一口と彼女は慌ててそれを齧ったが、すでに口の中がいっぱいになったようで、彼女は今も溶けていく果実を前に慌てている。


「んー! んー!」


「え、なに? 俺?」


 彼女が俺の方にその包み紙を差し出してくる、のぞき込むと、ぐぅぇっ、口にそれを押し付けられ、不格好に、俺の口の中に残りの、溶けかけの果実の欠片がねじ込まれる。


 俺は口の周りをべたべたにしながらそれを啜り、口の中に果実を取り込む。甘い、ねばねばの飴のような甘さが口の中で溶けていく。甘さを楽しんでいれば、それはすぐに溶けて無くなった。と、役目を終えたのか、彼女の手に乗っている包み紙もほろほろと空中に消えていく。便利な紙。


 俺よりたくさんそれを口に入れた彼女も、もう食べ終えたようだった、ごくんと彼女の白い喉が大きく嚥下する。


「ふー……あぶなー……」


「……美味しかったね」


「うーん。でもあんまりお腹は膨れない。溶けちゃうし」


 彼女は特に気にすることもなく、口の周りについた蜜を舌で舐めとっている。


「でも……二人でも、倒せたね。この調子でどんどん行こ!」


 そう言って、ミナモさんはにこっと笑いかけてくる。

≪ひとくちモンスターずかん≫


リンゴモドキ

 甘い香りの、甘い蜜の体で出来た、赤いネバネバの生き物。赤い果実に擬態して枝にぶら下がり休む。生き物の喉に飛び込み、その温かい喉に留まる習性があるが、害意はない。

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