閑話、恩返り
「キョウゲツアオイさん宛てに、お届け物がありますよ」
ギルドに行けば、そんなことを言われる。誰からだろうか? 受け取ると、小包とともに、小さな手紙が入っていた。
“小さな勇者さんへ。すみません、あなたから貰ったお守りは、どこかで失くしてしまいました。けれど、あなたがくれたそれは確かに私を守ってくれました。感謝します。失くしたお守りは見つけることが出来ない状態にあったので、代わりのものをあなたに贈ります。受け取ってください。いつか直接お礼を伝えに行きます。迷子の兎より。”
手紙には拙い字で、言いたいことが淡々と書いてあった。包みを開けると、中には……なんだ? 最近買ったスキルブローチにも似ているが、それには三つの穴があって、緑色に色づいた、三つの宝石が嵌まっている。えだまめ? と、説明書が付いていた。
“”身代わりのブローチ“。あなたが受ける傷を三度肩代わりします。魔力による充填式の魔道具ですが、充填には結構な魔力を消費します。こんなものしか見つかりませんでした、すみません。”
どうやら、いつか渡したお守りが、こんなブローチになって帰って来たらしい。どうせあれも俺のものじゃないし、失くしたって気にしなくて良かったんだけど。
しかし、あの子は無事だったか。手紙を書く余裕や、俺への贈り物を探す余裕もある。少女の近況に関する情報はほとんど無かったが、便りがあるという報せが俺をほっとさせた。しかもいつか会いに来てくれるらしい。今の俺の居場所は知ってるのかな? まぁ、ギルド経由で届いたということは、たぶん俺の名前くらいしか知らないのだろう。
なんにせよ、彼女が無事で良かった。貰ったエダマメは大切にしよう。魔力は、都度ジャノメに補充させればいいか。
*
「あの人ですか?」
「あ! あの人です!」
ギルドに行けば、受付さんと、傍らには女の子。どうやら二人して俺の方を見ている、気がするが。
「俺ですか?」
「あのときのおにいさん!」
と、女の子が俺に駆け寄ってくる。俺らしい。で、この子は誰?
「あの時の俺だよー」
「おにいさん! あのときは、お金ありがとう!」
「おかねー?」
……あぁあの時のあれか。ここの町に来る途中、雨の中、道をうろつく女の子を見かけた。不審に思って話を聞けば、どうやら母が病気で倒れ、一人薬を買う途中、お金をどこかに落としてしまったらしい。それは結構な額だったが、俺は女の子が言う通りのお金をあげた。その場で別れてそれっきり、その後も色々大変だったしですっかり忘れていたが。
「おかあさん、元気になったー?」
「うん、少し……だけど、あのね?」
と、女の子は曇った様子で下を俯いている。
「どうかした?」
「お礼、返したいけど、お金、うちには無くて……」
「大丈夫だよ、こどもがそんなこと気にしなくていいから」
「あの……わたしのおうちの周りに咲いていたおはな、きれいだったからこれ、あつめて……」
と、女の子が花束を差し出してくる。それはか細く、ラッピングもされていなくて、野の花を束ねたようなものだったが。
「いいの? これ、貰っちゃって」
「うん……」
女の子は不安そうに俺を見上げている。
「ありがとう! お兄ちゃんは、いっぱい嬉しいよー」
「ほ、ほんと? よかったー」
俺がそう言うと、女の子はほっとした様子を見せた。
女の子は用を果たして、ギルドを去っていく。去り際に何度も振り返り、こちらに手を振っていた。女の子が帰って行った後、まだそこに立っていたギルドの受付さんが、俺に話しかけてくる。
「やっぱりあなただと思いましたよ。いつも暇なんですか?」
受付さんは、若干呆れたような顔でそう言った。
「気分がいい日には、そういうこともあるんですよ」
「そうですか。私にも何かくれません?」
「何かお困りですか?」
うーん……と、受付さんは少し考えている。
「誰も手を付けてくれなくて、長い間残ってる厄介な依頼があるんですよ」
「じゃあ俺はそろそろ仕事に行きますね」
俺は帰りに花瓶を買って、しばらく部屋の棚の上にその花を飾っていた。ジャノメがそれを見つけて、「これは食べれる花じゃぞ」とか言っていたので殴っておいた。




