第八話、依頼“碁盤町近辺の大量発生の制圧” ーIII*
岩場のあちこちから湯けむりが立つ。温泉特有の臭いにおいもどこからか漂ってくる。俺たちは、モンスターの気配を探して岩場の上を歩いていく。
「さっそく来たな」
「流石は大量発生」
湯煙の中をちょろちょろと地面を這って近づいてくる黒い影、その体表はてらてらと光っている。
「トカゲじゃな」
「イモリじゃない?」
「何が違うんじゃ」
地面を這う四肢としっぽの細い体、岩場に張り付き尖った頭がこちらを見上げている。
モンスターが現れた。
「はっ、見た目からして弱そうだ! こいつは俺がやらせてもらうぜ!」
「気を付けてなー」
俺は胸元のお守りを千切り、握りしめる、するとそこには真っ白い棒のような剣が現れている。
「なんじゃ? オモチャか?」
俺は剣を握りしめイモリに近づく、イモリはちょろちょろと凹凸の多い岩場を滑るように走っていく。ちっ、ちょこざいな!
「逃げるな卑怯者!」
「これ、落ち着いて行かんか!」
と、突如イモリが進行方向を反転、俺の方に一気に駆けてくる。俺は間近に迫ったイモリの体を上からその剣を叩きつける。
「おりゃ!」
イモリは俺の剣をすり抜け俺の足元に迫る、俺は慌てて足で蹴飛ばした。弱い個体だった、俺の蹴りでもイモリは怯み、後退する。
「こら! ちゃんと狙え!」
「当たってはいると思うぞ」
「なに……?」
離れたイモリの背には、白く塗られた線が残っている。それは段々と赤く色づいていき……爆発した! イモリの体が地面に叩き付けられる、俺は出来た隙を狙って再び距離を詰め、今度は頭を二度、三度、十字に切りつける。イモリの頭には再び白い十字の線が出来た。
“ペイントソード”、と俺は名付けた。この剣は、相手に物理的に接触しないが、切った後に白い線を残す。描いた白い線は徐々に赤く色づいていき、やがて爆発し、その瞬間に切った時に与えるはずだった攻撃を与える。
「時間差で攻撃を与える剣か……面妖な武器を使うの」
イモリの頭に描かれた十字の白い線が、また赤く色づいていく……爆発した。イモリの頭が跳ねる、その瞬間に再び追撃を入れようと思っていたが、どうやら終わったようだ。イモリの体は裏返り、体から星の粒子を漂わせてしぼんでいく。
四発か、なかなか火力は高い剣……いや、このイモリのモンスターが弱かっただけか? 俺のただの蹴りで怯んでたしな……。
「終わったよー」
俺は地面のドロップ品を拾って二人の元に帰る。
「少しは強くなったの」
シラアイ先生が褒めてくれた。
「あ、ほんと? うれしいー」
「その武器、強そうじゃな」
ジャノメも興味深そうに俺の手元の白い棒を見つめている。
「みたいだねー。防御に剣を使えないから、敵の攻撃は全部避けなくちゃいけなくて、なかなか扱いは難しいんだけど」
俺は手元の剣を見下ろす。まぁ扱いは難しいが、これが無ければほかに鉄の直剣しか持っていない。今はこれが一番強いし、これを使いこなすしかない。武器は、戦闘が終われば勝手に勾玉に戻り、俺の胸元にぶら下がっている。どういう原理の物なんだろうこれ。
「よし。一匹倒せばすぐに次を探すぞ。キョウゲツも使えるようになった、今日の稼ぎは期待できるの」
「あぁ、でもこれ使用時間みたいなのがあって、使ってるうちにその内武器の形を保てなくなるんだよね。そしたらしばらく使えない」
「なんじゃ、武器のくせに怠惰な奴じゃの……」
≪ひとくち魔物ずかん≫
温泉イモリ
温泉地帯に好んで生息する大型のイモリ。たまに、自身の耐えられない熱泉に、みずから飛び込み茹で上がる。




