第八話、依頼“碁盤町近辺の大量発生の制圧” ーII
ギルド発の荷馬車に乗って、揺らり揺られて道を行く。異世界の馬は強靭で、バスほどの大きさの籠を引っ張り走っていくようだ。乗れば開けっ放しの窓から流れていく景色が見える。遠くなっていく町、道の上、空では雲が違う方向に流れていき、街道や周囲の森は背後に流れていく。
「やっと着いたの」
背後で荷馬車が走り去っていく。俺たちが下りたのは、“碁盤町”と呼ばれる小さな町だった。木造の古い家屋が立ち並び、古式ゆかしい風情を感じる。碁盤町の呼び名の通り、町の通りが碁盤の目のように規則正しく交差している。
「まずは宿を取るかの」
シラアイはくっと背伸びをして、ぐい、ぐいと上体を捻って回している。
「宿かー。宿泊費は、いくらくらいの?」
「こういう時はギルドの貸し部屋でよい。どうせ寝て起きるだけの部屋じゃ」
シラアイは慣れた様子でそう述べる。結構経験あるのかな、頼もしい。
「えー? こういう時くらい良い部屋で寝たいぞ」
と、ジャノメはそんな事を言っている。
「観光で来たのではない。上等な宿が良いならそちだけで取って来い」
ギルドを訪ねると、現在貸し部屋は満杯のようだった。
「……まぁ、必要な旅費ならギルドから出るからの」
「朝晩ご飯が出るなら、むしろ手間が減っていいんじゃない?」
「出来るだけ高い宿に泊まるぞ!」
「出るのは一定額だけじゃ、全部出してくれる訳ではない」
ギルドから出て少し歩き、宿を見つけた。個々で止まる部屋が見つからず、大部屋を一つ借りて布団を並べて寝ることに。
「おっきい部屋じゃ!」
ジャノメはいの一番に部屋に乗り込み、目を輝かせて内装を見て回っている。
「……まぁ、他にないなら仕方ないの」
古民家っぽい、古い作りの部屋。暗い色調の木で作られたこの家は、なんだか懐かしくて居心地が良い。もうここで落ち着いてしまいそうだった。
「今日はみんなで一緒に寝れるぞ!」
「あまりはしゃぐでない。仕事で来たんじゃ」
「それくらい分かってるし」
部屋で荷物をまとめて、俺たちは外に出る準備をする。
碁盤町付近ではモンスターの大量発生が起こっているらしく、現在、他の街から冒険者を呼んでその鎮圧に当たっている最中だ。俺たちも、高い報酬金につられてやって来たその冒険者の一行。
碁盤町付近には火山があるらしく、周囲の地形はごつごつとした岩場が多い。視界の各所から湯煙が噴き出し視界を遮り、温泉の川や池もそこらに見受けられる。
「あたたかい水じゃ! あたたかい水が地面から湧き出しているぞ!」
ジャノメが足元を流れる温泉に手を突っ込み、興奮した様子で報告してくる。
「そうだねー、あたたかい水が湧き出してるねー」
「あまり寄り道していると置いていくぞ」
楽しい気分でいる所に水を差されたからか、ジャノメは不服そうな目でシラアイの顔を見つめている。と、ジャノメが口を開く。
「こいつはいったんこのあたたかい水に浸けた方が良いんじゃないか? 人付き合いの悪いその冷めた態度も、少しは柔らかくなるかもしれぬ」
「ならばそちは冷水にでも浸かってこい。ふやけた顔が少しはひきしまるかもしれぬの」
俺は、突き合わせた二人の小さい頭の間に割って入る。
「ほらー、ケンカしないよー……いだだだ! おいジャノメ! 腹いせに俺の腹をつねるな!」
湯煙の立ち上る岩場をしばらく歩いていけば、おそらく現地住民が引いたらしいロープが張ってある。
「モンスターどもはこの向こうじゃの」
「今日はどれくらい狩るつもりなの?」
シラアイはふむと考えている。
「ここのモンスターは一個単位の単価が高い。見つけた端から全部狩るのじゃ」
シラアイは、落ち着いた様子でロープの向こう側を見つめている。稼ぎ時だし、せっかく遠征してきたのだから出来るだけ稼いで帰りたいのだろう。
「そっか。まぁ慣れない土地だし、日が暮れる前には帰るつもりでいようか。数日あるし、まだ初日だしね」
と、ジャノメが後ろから俺の服の端を掴んでくる。
「ここは見晴らしが悪いの……煙の向こうから、いつでもモンスターが飛び出してきそうじゃ」




