第四話、冒険者の休日 ーII
「何を見て回るんじゃ?」
「ギルドの売店と……市場みたいなのはないのか? 中古の装備とかアイテムとか売ってる」
「なんじゃ、観光かと思えば、今日も冒険者のことか」
「服や食べ物を見て回る余裕はまだ無いだろ」
俺たちは、のどかな町の景色を歩いていく。どこも町の建物は背が低く、多くは一階建てで、土地も余っているのか平べったく町は広がっているようだ。
「住むならあんな家がいいな」
と、少女が一軒家を指している。赤い屋根の、敷地の中に少しの庭がある、なんというか普通の家。ここは田舎で土地も高くなさそうだから、冒険者として続けていれば手の届かない家ではないだろう。
「いいんじゃないか」
「……おぬしも住まわせてやるぞ」
「そりゃありがたい」
家か。今はギルド管理の無料の貸し部屋に住まわせてもらっている。ある程度装備が整って、収入が安定したら新しい部屋を探すのもありだな。今はトイレも風呂も部屋の外。壁は薄いし部屋も狭い。
とりあえずギルドに着いた。ギルドの左手奥に売店のスペースがあり、そこには軽食や、冒険者の必需品、冒険者が有用な道具や情報誌なんかが置いてある。
「何か欲しいものがあるのか?」
「武器」
とはいえ、ある程度目は付けている。コーナーに数本並んでいるロングソード。ギルド監修の直剣だ。評判も良く信頼性も高くコスパも高い。まぁ何の効果もない鉄の剣だが、今の手ぶらよりはマシだろう。フルプライスで五万、それでも十分安いのだが、俺はまだ初心者冒険者が使える武器割を使ってないから、それを使えば一万五千ライトまで下がる。
俺はぼーっとそれを眺める。正直、貯金を使えば買える。全部無くなるが。
「買わんのか?」
今日買うのもありだ。どうせ手元に武器は来る、なら早いほうがいい。明日のお金は明日稼げばいい。
「……まぁ、町を見回ってからな」
ギルドの隣に大きな倉庫があった。中に入れば、そこは商店で、おそらく隣で買い取っただろうモンスターの素材やドロップ品などが、所狭しと並べて置かれてある。
「正直、ここにいいものはないと思うぞ。冒険者なら、自分で狩って手に入れればいい話だ」
少女の言う通り、あらかた見終わったらそのまま建物を出る。
「ほかにどこを見たいんじゃ?」
「武器屋と、道具屋と、あと冒険者の中古品とか扱ってる場所があれば」
「全部あるな。こっちじゃ」
俺は少女の背中を付いていく。少女が履いているのは、茶色の、ぼろぼろの靴だった。土の道を、心なしかご機嫌に少女は先を歩いていく。
「武器屋はそこじゃな」
ぎらぎらと、店内に吊るされた大量の金属剣。奥に居る店員さんは、俺たちを軽く見て「あぁいらっしゃい」と軽く声を掛けてくる。正直来てみたものの、価格破壊の一万五千ライトギルド製直剣に勝るものはまぁおそらく無い。あるいはここにも初心者割のようなキャンペーンがあれば別だが。だが、今後欲しいものがあるかもしれない。鉄の剣はただの鉄の剣だし。
と、壁の棚に、目立つように大きな斧が飾ってある。あの質感……、
「あ、導器だ」
「じゃの」
壁にある斧は刃から柄から全てが一つの金属製。“導器”とは、特別に魔力と親和性の高い素材から作られた杖や武器の総称であり、武器に魔力を通し魔法を纏わせ、魔法と武器一心同体の攻撃が可能な特殊な武器。
「たっ……」
っっかぁ。百五十万ライトとか書いてある。等級は★4、属性は“炎”。等級は、高ければ高いほど魔力の効率が良いんだっけ。おそらくはこの店の目玉となる商品だろう、一番目立つところに飾ってある。
「あんちゃん、それが気になるか」
と、カウンターに居た店主さんが話しかけてくる。
「かっこいい武器ですね」
「だろう? 俺が打ったんだ」
「ここでは導器の作成もやってるんですか?」
「あぁ。俺は腕が良いからな。基本はオーダーメイドになるが……まぁお前らには当分無理かもしれないな。金を持ってくれば打ってやるぞ」
俺たちがガキだと思って舐められている。その通りである。と、俺は壁に気になる文言を見つける。
「装備の手入れもやってくれるんですか?」
「あぁ。武器は消耗するからな。長く使いたいなら俺のもとに持ってくるといい」
「……一応、ギルドで直剣を買おうと思ってるんですが、それの手入れも可能ですか?」
「あぁ、ありゃおススメだな。癖もないし品質も安定してる。値段も安い。どこの町でも手に入る。持ってくれば、うちで手入れもしてやるぞ」
よそで売っている剣のはずだが、店主さんは思ったより何も気にしていなさそうだ。
「……商売敵とかじゃないんですか?」
「はは、確かにな。だが安心しろ、俺もあれの製作には一枚噛んでる。利の少ない仕事ではあるがな。身を挺して町を守ってくれる冒険者様が使ってくれるんだ、多少の身銭は切るさ」
店主はからからと軽快に笑っている。いい人そうだ。
「ちなみに、“成長武器”とかの扱いってありますか? あるなら、いくらくらいになりますか?」
俺がその単語を出すと、店主は目を丸くする。少しして、店主は苦笑しながら話し出す。
「一応言っとくが、ありゃ武器じゃねーぞ坊主。まぁ戦うための道具って言うんならそうだが、あれは俺たち鍛冶屋が打って出来るもんじゃねぇ、元々そういう性質を持った、不思議な“物質”なんだ。知ってるか? あれは最初は、まん丸の塊の形をしてるんだぜ。そこに武器を与えるとあら不思議、その形を取り込んで武器になりやがる」
知ってます。やりました。
「そうだな……まぁ取り寄せてくれってんなら取り寄せるが、金額は導器の比じゃねーぞ」
「そんな高いんですか」
「家が一戸建つな。だがそれくらいの価値のあるもんだ、あれは」
俺の頭から魂が抜けていく。自力で再獲得するのは無理そうだな。
「まぁ、実物を見るだけなら都会の魔道具屋とかにも置いてあるんじゃねーか」
「諦めます」
「そうか。まぁ用があったらいつでも来てくれ」
俺は店を出る。ジャノメは興味がなかったのか、話の途中から店先に出ていた。
「お待たせ」
「次は道具屋じゃな」




