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教科『異世界』の時間だよ! ~武器と魔法とスキルを学んで、仲間と共に異世界を歩き、モンスターを倒し強くなれ!~  作者: 藍染クロム
冒険者の道

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第二話、手ぶら

 ギルドにやってきた。


 先ほどの少女たちは、詳しい話はまた後でと去っていった。いくら待つのか分からないが、今の俺は家無し職無し金も無し、何なら武器も取り上げられ何も持っていない。今は待っていれば干からびるだけだ、俺はとりあえずこの事態を解決しなければならない。


「宿ですか? いいですよ」


 この世界では、冒険者は街の近辺のモンスターの討伐を行っており、実質的に街を守る役目にある。そのため、街のギルドからの冒険者への保護は手厚く、初心者冒険者への支援を行ったり、今の俺みたいな宿のない冒険者に無償で部屋を貸し出したりもしてくれる。


 ここは町のギルド。知らない町の、知らない位置にあった知らないギルド。だが中に入れば、そこには受付があり、冒険者たちの休憩スペースがあり、売店があり、依頼紙を張り出された大きな掲示板があり、見慣れたギルドの光景が広がっていた。


 俺はいったんギルドを出て、町の中を歩いて紹介された建物へと歩いていく。それは街の外れにあった、扉を開ければそこには狭い部屋に小さい棚と椅子、簡素な机。それだけの部屋。だがここは雨風もしのげるしベッドの上で寝ることができる、上等な寝床だった。俺は荷物を整理して、再びギルドへと向かっていく。


 食費がない。武器もない。武器が欲しい。一応、魔法を使えば簡単なモンスターくらいは狩れるだろうが、まず武器が欲しい。でも今日食べるものを買うお金もない。まずは二、三日分の食費は最低限欲しい。


 とりあえず、街の近辺のモンスターを魔法で倒して食べ物を得るところからだろうか……と、直近の計画を頭に描きながら、俺はギルドの扉を再び開いた。


「頼む! わしと一緒にパーティーを組んでくれ!」

「あぁ!? だから無理だっつってんだろ!」

「でも、おぬしらに捨てられたらわしはもう―」

「うるせぇ知るか! 沈むならてめぇ一人で沈め!」


 ギルドの中で騒ぎがあった。パーティーの一つが不和を起こしているようだ。冒険者の青年と、マントをまとった少女。少女は青年の足にしがみついていたが、強引に振りほどかれ、少女はその場に置いて行かれる。


 よくある光景だ。ギルドは金稼ぎが目的の冒険者たちの集まりだ。人間間の争いやトラブルなんてしょっちゅうで……まぁ、今までは仲間内だけでギルドを利用するだけだったから、俺には関わりのないものだったが、そういうのはたびたび見かけていた。


 少女は放心したように、ぼーっと彼が出て行ったギルドの扉の方を見ている。と、ギルドの職員が近づいてきて、彼女に話しかける。少女はぼんやりと職員さんの方を見上げた。


「あの、そんなところの床で惚けられていたら邪魔なので、脇の方にどいてもらえませんか?」


 少女は、何を言われているのか分からないと言うように、ぱちくりと目を瞬かせる。職員が顎で示し、少女は呆けたまま立ち上がり、ギルドの壁の方へと歩いていき、壁に背中をずりずりと滑らせてそこで膝を抱えてうずくまった。


 ギルドからの冒険者への保護は手厚い。だが、それはあくまで“使える冒険者”、“戦える冒険者”に対してのみである。ギルドでは“依頼”を受け、依頼の内容を成功させることで金額の授受が発生する。成功させられなければお金は得られない。


 この世界は実力主義で、“依頼”を成功させられない、戦えない冒険者は業界からの扱いは冷たい。もちろん、新人に対してのそれは扱いが別であるが、そこに居る少女はおそらく、ある程度冒険者として活動し、その上で見込みがないと判断されたのだろう。成果を出さなければ、この世界からは静かに消えていくしかない。


 少女は誰からも声を掛けられず、壁に背を預けてうずくまったままでいる。俺が何かをすべきだろうか……いや、俺は今、自分の生活すら危うくて、とてもじゃないが他人の生活を試みている場合じゃない。俺は、そこの売店でサンドイッチを買ってきて彼女に渡すための金さえないのだ。


「どうかしたの?」


 俺の声に、俯いていた少女は顔を上げる。


「君は、ここの町の冒険者? 実はさ、俺はこの町に来たばかりなんだ。今からさっそく外に出て、モンスターを倒してお金を稼ぎたいんだけど……よければ、町の近くを案内してくれない? その……俺もお金はないからさ、報酬は、今日出た稼ぎの折半とかになるんだけど……」


 彼女は、俺が差し出した手を、ぱちくりと目を瞬かせながら眺めている。


「えっと……どう?」


「や、やります! やらせてください!」


 彼女は俺の手を握り跳ね起きる、フードから純白の髪が零れる。少女の体は全体的に薄汚れている……行き倒れの俺より汚いかも。


「えっと……その前になんだけど、水浴びしない?」


 すっと、彼女が俺の手から手を離して引いた。少女は両腕を胸元に縮こまらせて、目が怯え、なんだか彼女の態度も引け腰のようで―


「あぁ違う! 体目的じゃなくて! 単純に君が汚くて臭いから!」


 少女の目からすーっと光が失われていく。

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