“標山”チャレンジ・6:六合目~ ーIII*
気を取り直して再び登山。ここまで来るのに何回かモンスターに会ったが、今のところなんとか処理できている。俺もなんだかんだ成長できているのだろうか。
「今日のご飯なにー?」
「誰の? 俺の?」
「私の」
「それ俺が決めるのか?」
浅い緑の生えた岩場の上を、俺たちは上へ上へと上がっていく。視界いっぱいに広がる青空が、高い空に、風を遮るものが無く、斜面の上に居る俺たちを容赦なく風が揺さぶる。
どこからか声が聞こえる。甲高い、何かの鳴き声だ。
「聞こえた?」
「あっち」
山の上空、青空から何かが飛んでくる。
「でかいね。こっちに来る」
「あっちのほうが足場が良さそう」
俺たちは戦えそうな足場に移動し、武器を握って敵襲に備えた。
空からやって来たのは大きな鳥だった、見た目はキジのようでいて、長い尻尾を持ち、たくさんの尾を垂らして飛んでくる。色は黒を基調に、緑や青などの鮮やかな色も交じっている。
「キェェエエエエエエ!!!」
鳥は向かいに降り、俺たちに威嚇を発する。
「来るなら来い! 今日の晩御飯にしてやるよ!」
鳥はタッタッタとこちらに駆けてくる、そして羽を大きく広げ―
「キェェエエエエエ!!!」
「おわっ!」
俺は咄嗟に大剣を掲げ、奴の蹴りを受け止めた、鋭い衝撃が腕を伝わり、大剣の腹に蹴りが当たり、大剣全体がぐわんぐわんと揺れている。
「こいつ物理型かよ!」
「キェェエエエエ!!!」
鳥はくるんと身をひるがえし、そのまま再び回し蹴りを仕掛けてくる、俺はどうにか剣を持ち上げてその蹴りを受け止めるが、衝撃が剣を貫き裏の俺の体まで伝わってくる。
「いてぇ! くそっ!」
俺は体を滑らせ、そのまま剣を引っ張り横薙ぎに振り回す。だが俺の剣は遅く、俺の大剣が到達する頃には奴は向こうの地面まで下がっている。
「逃げるな卑怯者!」
「キェエエエエエ!!!」
鳥の目が、俺の隣のミナモさんに移った。かたい俺は後回し、奴はミナモさんを狙う気らしい。
「ミナモさん狙われてる!」
鳥が駆け出した。ミナモさんはその場で剣を構えている。
「キエェエエエエエ!!!」
鳥は地を跳ねて走り、飛び上がりミナモさんに鋭い蹴りを放つ! ミナモさんは屈んでそれを避け、その場に残った彼女の髪が、奴の蹴りの風圧に揺れる。ミナモさんはお返しとばかりに剣を切り上げる、が、鳥は軽くステップで後退しそれを避ける。
間髪入れずにまた鳥が攻撃を仕掛けてくる、鳥の蹴りがミナモさんの胴体へと飛んでくる、ミナモさんは冷静に見切り、横にかわし、剣で蹴りをいなし、そのままの勢いで剣を振りぬき、彼女の剣が鳥の胴体を切った。
「キェェエエエ!!」
攻撃は浅かったようだ、鳥は痛みに怒り、ミナモさんへと鋭い蹴りを繰り出してくる、彼女は剣を掲げそれを受けようとするが、奴の蹴りが彼女の剣ごとミナモさんの体を貫き蹴り飛ばす。
「終わりだ!!」
彼女が後ろに飛び、そしてすれ違いざまに俺が前に出る、引きずった剣を思いっきり奴へと振り上げ、かち上げた大剣が奴の体を横からまともに捉えた。ぐにゃりと、奴の体が剣に合わせて歪み、剣の勢いに呑まれて向こうへ吹っ飛んでいく。
「キ……キェェ……」
奴の体の一部から星の粒子が漏れ出たのを確認した後、俺はすぐに振り返りミナモさんの元へと走る。
「ミナモさん大丈夫!? 怪我ない!?」
ミナモさんは、背後で、鳥に蹴り飛ばされた体勢のまま、地面に尻もちを付いて座っていた。彼女は駆け寄る俺に、驚いたような顔をして迎えている。
「……え?」
「どこか痛いところはない? 立ち上がれる?」
「あ……えっと……服が、汚れたかも」
彼女は平淡な声で、自分の体を見下ろしながら、そうとだけ返した。
「ケガは? 痛むところは?」
「けが? 別に」
彼女はぼーっとそこで座ったままでいる。
「……えっと、なんで座ったままなの? 立ち上がらないの?」
「いや……あとは、アオイくんがやってくれるかなって」
どうやら彼女は、俺が倒すと確信して、飛ばされたまま観戦していたようだった。
「さっさと立て」
「あい」
俺は、彼女から差し出された手を握り、彼女を引っ張り上げる。
俺たちはその後も順調に登山を続け、その日のうちに八合目へと到達した。登頂まで残り二合。
≪ひとくちモンスターずかん≫
極彩鳥
足技の得意な大型の鳥。空も飛べる。とある地方の山奥で、一人の人間と技を競い続け、一人の拳法家を生み出した。




