“標山”チャレンジ・6:六合目~ ーII*
「アオイくん、敵」
「おっけー」
山を登っていくと、再びモンスターらしき気配に当たる。そいつは、崖を割って登っていく道の、手前に広がる平地に、まるで守衛のように鎮座していた。
「カメ?」
「でかいカメ」
奥は崖、平地のこちら側は斜面。平地へと登り、でかいカメは俺たちの姿を認識する。
「通してくれそう?」
平らな土地の奥に居座るカメの、その背後の空中。ぱらぱらと複数の石が浮かび上がってきて―
「ミナモさん、俺の後ろに!」
俺はすぐさま大剣を抜き去り、それを盾のようにして構える、直後、石つぶてが飛来して大剣の側面を叩いた。
「ばりばり敵意ある」
「魔法を使うタイプか。本体も硬そうだね」
向こうに居座るカメは、俺が攻撃を防いだからか、不服そうに小さい顔でこちらを眺めている。
「ゆーて動かない的だよ」
と、ミナモさんが駆け出す、まっすぐカメの方へ。
「気を付けて! また来るよ!」
カメの背後の空中、再びいくつかの石が浮かび上がり、そして―
ミナモさんが一気にその場に屈んだ、彼女はそのままの姿勢を維持し、地面すれすれを飛ぶツバメのように、背を低くしながら地を這うように駆けていく。
カメの背後から石つぶてが発射された、が、低い位置にある彼女の体には射角的に中々当たらない。
「ゥォォォォオォォォ」
カメは、当たらない攻撃にいらついたのだろうか、低い唸り声をあげ、カメは首を高く持ち上げる、同時に、ミナモさんの進行上の地面が持ち上がり、小さな壁を作った。
ミナモさんが地面を跳ねた、放物線の軌道を描いて彼女の体は飛んでいく、その着地点を読まれ、残りの空中の石つぶてが飛んでくる。
「ミナモさん!」
彼女は動じることなくその場で剣を構え、地面に降り立ちながら剣を二閃、三閃。砕けた石が彼女の背後を転がる。そして、すぐさま彼女は剣を上段に振り上げ、距離を詰めてその剣をカメの頭へと振り下ろした。
「はぁっ!」
ガッと、鈍い音を立てて彼女の剣が甲羅に跳ね返される。相当硬いらしい、彼女の剣ではあのカメの甲羅に歯が立たない。
「はぁぁぁぁあああああ―」
俺は懸命に剣を引っ張り、カメの元へと一直線に駆けていく。ミナモさんが作った隙で、今この瞬間は奴の魔法の飛来に怯える必要はない、俺は守りを捨て、大剣を背負い、一直線にでかいカメの元まで引っ張っていく。
「おらぁああああああ!!!」
地面に刃先を引きずるようにして持って来た大剣、俺はカメの手前で踏ん張り、大剣でカメの足元の地面ごと、抉るように剣をかち上げた。
鈍い衝撃、力に耐えきれず、俺は剣に体を引っ張られる。大剣は、カメの甲羅を側面から叩き潰し、岩のようなカメの体を持ち上げ、そしてその大きな体を吹っ飛ばした。
カメの体は向こうの地面に落ちた。裏返って、ぐらんぐらんと揺れて止まる。やがて、体から星の粒子が立ち上っていく。
どうにかモンスターは倒せたらしい……が、そんなことより、俺は今しがたのミナモさんの動きを思い出し、ぼーっと彼女の方を見つめる。彼女も俺の方を見ていた。
「こいつ動き良いな……」
「威力高……」
≪ひとくちモンスター図鑑≫
イワガメ
その体内に豊富な魔力をため込んだ、図体のでかい岩のような亀。少しの敵意にも反応し、応戦するが、敵意のない小さな生き物が背中の上で休むのを、追い払うことはしない。




