“標山”チャレンジ・5:六合目~*
「今回からは気を引き締めて行こうか。どんどんモンスターも手ごわくなってる」
横穴を出れば、そこから山の途中に出てきた。
ここはシルベヤマ六合目。途切れた森の天井の隙間から、今まで登ってきた分の高さの景色が広がって見えている。
「モンスター? 大丈夫じゃない?」
「あれ、ミナモさんは随分な自信だね」
俺がそう返すと、ミナモさんは平然と様子で否定する。
「だって、アオイくん居るし」
「俺は別に自信ないけど」
ふー、と、彼女は息を吐く。
「そんなんじゃだめだよアオイくん」
「がんばりまーす」
森の木々はだんだん少なくなってきて、歩いて見える景色には、まばらに林や低木を残すのみ。地面は膝丈くらいまで緑が伸びて覆っている。視界は広くなったが、それは向こうも同じだろう。
「登山も、あと二回だ……」
「二回で終わるかどうかは毎回の行程が順調に終わるかによるね」
「もう登山やだ」
今回の課題でミナモさんの体や精神は特に鍛えられなかったみたいだ。
緑に覆われた斜面の上を、俺たちは黙々と登っていく。
この前、とある溶岩地帯に通い、大量の武器強化用の素材を集めてきた。“グラビティメタル”、重さはそんなでもないが、動かしたり、動いているのを止める時には、重量以上の力が必要になる。そんな不思議な石。
空腹の成長武器に、満腹になるまでその石を与え続けていると、だんだんとその石の特性を発揮してきた。重くはないが、動かすのに重く、止まるにも重い剣。特に派生図には記載されていなかったので、俺は“グラビティソード”と名付けて呼んでいる。
試しに振ってみたが中々の効果、もちろん動かすのに必要な筋力は増えたが、その分一撃の威力は重くなり、戦闘が早めに終わることを期待できる。まぁ当てるのは難しいかもしれない。成長武器は、不思議と持ち手が振るう時以外はその効果を発揮せず、今背中にしまってある剣は今は普通の剣だ。
この“グラビティソード”、欠点を一つ挙げるなら、手持ちのスキル石の”潜影“と相性が悪かった。”潜影“は、地面に潜って移動し、敵から見ればワープのような移動が出来るスキルであり、その速度が重要になる。”グラビティソ―ド“はその性質上、動く時に重石となる。剣を捨てようにも、スキル石は武器に込めて使うもの、剣を捨てればスキルは使えない。一応今も”潜影“を込めてはいるが、ほとんど死にスキルか。
「もう来た」
「はやーい」
俺は彼女の指す方向を見る。俺たちに向かって、まっすぐ草を揺らしながら近づく影がある。
それは、テンのような胴体の長い獣だった。でかい、サイズはこの世界のモンスターサイズ、立ち上がれば、俺たちの背に届くだろう大きさ、それが草をかき分けまっすぐ俺たちの元へ向かってきている。
「一体だけだね」
「すぐに毛皮にしてやる」
「容赦ないね」
草の中から獣が飛び上がる、そいつは体に電気をまといつつ俺たちに飛び掛かってきた。
「おいおい、飛び出し注意だぜ!」
俺が剣をそいつへ向ければ、重い剣が奴の頭を受け止め奴の頭にそのまま食い込んでいく。奴のまとう電気が剣を通してそのまま俺の体へ、
「あががががががががが―」
キョウゲツは、あたまがまっしろになった!
≪ひとくちモンスターずかん≫
デンゲキイタチ
電気を操る細長の獣。電気を用いて獲物を痺れさせ捕らえる。これをペットにする人間は、その電撃を気合で耐える。




