依頼“グラビティメタルの採集”*
「どこ行くのー?」
玄関を出て外廊下を歩くと、扉が開いて呼び止められる。ミナモさんだ。
「ちょっと欲しい素材があってね。出かけるとこ」
「私も行くー」
ギルドを通して依頼を受けてきた。今回の目的は、とあるモンスターが落とす特殊な鉱石。現地での討伐依頼をついでにギルドで受けることで、そこまでの移動費を軽減できるし、収入も入る。一石二鳥。
「なに取りに行くの?」
「アルマジロみたいなモンスターが落とす素材だね。”成長武器”用に大量に欲しいから、見つけた端から全部狩っていこう」
「倒せるやつ?」
「まぁ……やってみれば」
そこは、溶岩地帯に出来た巨大な空洞。ここら辺の大地は穴だらけ、そこかしこで黒い大地に色んな空洞が空いては繋がっている。地形は、固まった黒い溶岩ばかりで草もほとんど生えていない岩場。上に開いた空を見れば、どこかから漂ってくる火山の煙。
「アルマジロって、あれ?」
と、ミナモさんが指し示す先、一匹のモンスターがのん気に歩いている。四つ足の、鼻先の尖った獣。ふんふんと、岩場の隙間から生えた多少の草を嗅いでいる。
「あれだね。倒そうか」
「でも、あれ友好種じゃない? 可愛いし」
確かに。最近出会っていたモンスターはどれも、あちらから人間を見つけて襲ってくるような敵対種だったが、目の前のあの子はどうだろう。ここまで近寄っているのに、まだこちらに気づく気配がない。
「……一応、欲しいのは背中の鉱石だから、それだけ貰えればいいかも」
アルマジロみたいな獣の背中には、黒々とした光る結晶がいくつも浮いてきている。あれは“グラビティメタル”、今回俺が欲しい素材だ。
「あれ、体の一部? 剝がしても死なない?」
「一応、食べた成分が背中に浮いてきてるらしいね。爪とか髪の毛みたいな、分泌した体外の一部。背中にまとったそれが、敵とかの攻撃を防ぐのに役立つらしくて。剝がしても死なないけど、まぁ防御力は下がる……かな」
「じゃあ命だけ見逃してあげよう」
そろ、そろと、彼女は、あちらの岩場で地面をもそもそ嗅いでいる獣の背中へと近づいていく。ばっと、彼女が背中からその子に抱き着いた。その子は暴れるでもなく、彼女に覆いかぶさられたままでいる。
「とった!」
「じゃあ俺が剝がしてみるから捕まえてて」
「うん……重っ! ……あれ? 重くない。地面にしがみついてた? これ」
彼女が獣のわきの下に手を入れ、その子を持ち上げる。獣は丸まるでもなく無抵抗に抱えあげられる。彼女は不思議そうにその獣を見ている。かわいいなこいつ。
「グラビティメタル……その子のまとう結晶の特性だね。慣性って分かる? グラビティメタルはそこまで重い石じゃないんだけど、動かすのに強い抵抗があって、動かすのを止めるのにも強い抵抗が掛かる、っていう特性があるんだ」
「それは、重いのとは違うの?」
「持ったままだとそこまで重くないでしょ? でも、動かすのには重い、止めるのにも重い」
「確かに?」
彼女はアルマジロを持ち上げたまま、右へ左へ動かして、その不思議な特性を確かめている。俺は彼女が抱える獣へと手を伸ばす……と、何かを感じ取ったのかその子は丸まってしまった。丸まっても剝がす作業には支障はない。
俺は、その背中に付いた、一つの結晶へと触れた。それはぴったりと背中にくっ付いているようだったが、力を入れると端の方が剥がれ、ベリッと、シールみたいに取れた。
「まず一個」
俺はそれを袋へとしまう。と、アルマジロは徐々に体を開いてきて、すんすんと彼女の腕の匂いを嗅いでいる。この子は、石を取られるのは嫌じゃないのだろうか? 俺が再び背中の結晶を取ろうと手を伸ばすが、今度は丸まる気配を見せない。
俺はそのまま二個目の石をベリッと剝がす。三個目、四個目と、俺は石を順調に収穫していく。
「あっ!」
と、突然その子は彼女の手をすり抜け、すたこらと地面を走って行ってしまった。
「行っちゃった」
「大きいのを結構取ったからね。もう取って欲しくなかったのかな?」
「でもなんか、取った後は足取り軽そうだったよ?」
「あんまり背中に付けてると、本人も重くて動けなくなるのかも。いっぱい付けてる子を探して取ってみる?」
「重い奴の方が捕まえやすいしねー」
「確かにね」
≪ひとくちモンスターずかん≫
重石獣
体に不思議な鉱石を生やす、丸まる硬そうな獣。その特殊な鉱石は、動かすには重く、止めるにも重く、持つには軽い、不思議な石。その石をまとうほど、獣は堅く、強くなるが、邪魔だと思ったらいくつか剥がして捨てていく。




