授業:魔王軍
「今日は、簡単にですが、魔王軍の勢力について学んでいきましょう」
魔王軍か。そう言えば、そこら辺はまだあんまり知らないな。
「魔王軍には、大きく分けて十二、あるいは十三の勢力があります。正確には、十二の魔王が率いる十二の勢力、そしてそれら全てを従える、最も大きな魔王とその直轄の勢力が存在します。普通、魔王と言えば、この全ての勢力を従える最も大きな魔王、”大魔王”のことを指します」
十二の勢力か。意外と大きな軍勢……そりゃそうか。人類全体と争い合ってた訳だし。
「とはいえ、これらの勢力図は過去の話ですね。昔は、これら十二の勢力に、それぞれ魔王が居ました。が、現在は解体され、最も大きな魔王一人を残すのみとなります。しかし、残った十二の勢力は、頭を失ったとはいえ、名残のような団体は今も残っています」
魔王はでっかい一人だけになったが、十二の勢力の軍勢は今も数を保ったまま存在していると。
「これが、今日の魔王軍の簡単な現況になりますね。今のところ魔王軍の中に”再び戦争を仕掛けよう”という動きはありません。せいぜい、個人がちょっかいを掛けてくるぐらいですね」
昔は人類と魔王軍はばちばちにやりあっていたらしいが、最近は落ち着いて平和なものらしい。
「さて。こんな巨大な勢力を従える魔王ですが、ではこの魔王とは? 何があれば魔王の証となるでしょう? 皆さんは分かりますか?」
先生は、ゆっくりと俺たちの顔を見渡していく。俺は、それを何かの本で読んでいて知っていた。俺は手を挙げる。
「はいキョウゲツさん」
「“魔王剣”と呼ばれる、特殊な剣の持ち主が魔王です」
「ある側面では正解ですね」
先生は、黒板に“魔王剣”という単語を書いていく。
「魔王軍は、十二の魔王、そして最も大きな魔王、それぞれがそれぞれを象徴する剣を所有していました。十二の”魔王剣”、そして”大魔王の武器”です。これら現在はは一部破壊され、あるいは紛失するなどして、その多くが魔王軍の手から離れています。最も大きな魔王が持っていたとされる“魔王剣”も、今はかつての魔王の居城に安置され、封印されているそうです。しかし、現在の”大魔王”は、旧”大魔王”が持っていた剣ではないものの、“魔王剣”の一つを所有しています」
先生はこちらに振り向き話を続ける。
「これらの剣は、魔王の強大な力を象徴する強力な武器であり、また、魔王以外が振るうことは許されませんでした。つまり、これまでの価値観でいえば、魔王剣の持ち主すなわち魔王、でした」
「はい先生」
生徒の一人が手を挙げる。
「“魔王剣”は十三本はあるんですよね? 今、残りのどれかを手に入れたら、じゃあその人は新たな魔王になるんですか?」
「その質問に対する答えは“いいえ”、でしょうね。場合にもよりますが」
先生は黒板に簡単な図を描いていく。一つの剣と、一人の絵、そしてその下に大きく丸。
「魔王とは、簡単に言えば勢力の長です。従える勢力があって、初めて魔王は魔王足りえます。“魔王剣”はかつて、各勢力の中からその使い手が選ばれました。勢力の代表が魔王であり、その代表が“魔王剣”を持てたわけです。今、新たに“魔王剣”を手に入れ魔王を名乗ったとして、元々その“魔王剣”を所有していたその勢力がその自称魔王の下に付くかは不明ですね。まぁ強ければ従う場合もあります」
「なるほど、よく分かりました」
魔王の象徴が“魔王剣”、とはいえ、剣を手に入れただけでは下も付いて来ない、魔王足りえないと。魔王はあくまで従う軍勢あっての長。
「勇者の最も重要な仕事は、“邪悪な魔王を倒す”こと。ここ最近では、新たな倒すべき魔王の発生は起きていませんが、来るべき時が来れば、あなたたちがやるべきは、この“魔王剣”を振るう魔王を倒すことになるでしょう」




