“標山”チャレンジ・4:四合目~
「ねぇ、シルベヤマの攻略難しいんだけどー」
教室に行けば、そこに居たモモモに絡まれる。
「キョウゲツ手伝ってよー」
「いいけど、モモモは今どこ?」
「八合目」
「無理だねぇ。俺今六合目だから」
「は? さっさと上がって来いよ」
モモモは当然のような声音でそう言ってくる。逆になんでお前はそんなに進行早いんだよ。強いよ。すごいよ。
「上がれるならさっさと上がってんだよはっ倒すぞ」
「……ごめん」
彼女はしおれた様子で謝った。よく見れば、口元の端がにやけている。
「素直に謝られるとそれはそれでむかつくな」
「めんどくさいなぁ」
*
「次、私四合目からだから」
部屋の扉を叩く音に開けると、来訪者が居る。俺の部屋に訪れたミナモさんは、開口一番にそう言ってきた。
「あぁ、そうなんだ。頑張ってね」
「アオイくんも来てね」
「え? いや、俺は次六合―」
突然、ぐいと襟を引っ張られる。俺はつんのめり態勢が前に崩れ、バランス悪く前に屈んだ俺は、目の前に、まっすぐ俺を見上げる彼女の双眸を直に見る。彼女の平淡な声が俺の頭に響く。
「いっしょに来てね」
*
もう何度目かの景色。四合目の斜面にある横穴を出て、茂みの外に出ると、登山のためのルートに戻ってくる。そこは傾いた地面の森の中。
「今日は三人だねー」
と、ほんわかとした声が後ろから聞こえてくる。ワカバさんだ。にこにこと、柔和な笑みを浮かべて俺たちを眺めている。
「キョウゲツくんも付いて来てくれるなんて、頼もしいね!」
ワカバさんはそんな嬉しいことを言ってくる。喜んでくれるのはいいが……俺はそんなに強くない。俺は彼女の期待に応えられるだろうか? まぁ居ないよりマシか。
と、ミナモさんが隣から言ってくる。
「別に頼もしくないよ」
「“別に頼もしくない”は違うよな?」
「わたしお弁当持って来たよ!」
ワカバさんから元気な声が聞こえてくる。
「ほんと? 楽しみ!」
「アオイくんの分無いよ」
「なんで俺の分無いんだよ」
「ちゃんとあるよー」
生い茂った木々の下、ひたすらに登っていく山道。
道というか、こういう普段人の立ち入らない異界の“道”には、“釘”と呼ばれる特殊な道具が、道中の木や岩、地面に打ち込まれている。俺たちは、”釘”を探知できる専用の道具を用いて、“釘”を辿って進んでいくのだ。人通りが多ければそこが道になる。このシルベヤマには、いくつかの“道”が開拓されている。
前回六合目までに通ったのは、一番きついが一番短いルート。今回ミナモさんたちが選んだのは、一番簡単で遠回りなルート。今回の歩く距離は長いが、傾斜がそんなでもなく、道の難易度も低いので、適当に歩きながらでも進むことが出来る。移りゆく景色を楽しむ余裕もある。
「ねぇ見て見て、ここちっちゃい沢があるよー」
先導するワカバさんが道の脇に逸れ、屈んで何かを指し示している。
「ほんとだ。カニも居る!」
ミナモさんも近づき、二人は屈んで、森の中を流れる小さな水の流れを観察しているようだ。平和だな今回。
「可愛いねー」
「食べれるかなー?」
「捕食者視点」
さすがに三回目の行程とあって、特に障害もなく、俺たちは無事に六合目まで辿り着いた。




